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#7 悪魔の痕跡

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「真帆はまだ養護施設にいます。K市の百合ヶ丘天使園。県警のポチ1号が教えてくれました」
 ということは、さっそく裏の人脈に当たってみたということか。
 眉唾モノだと思っていたが、ある意味恐るべき情報網だ。
「兄貴のほうはもう園を出てるそうですが、居場所は妹に訊けばわかるのではないかと」
 K市ならここからそう遠くない。
 行ってみる価値はあるだろう。
「ありがとう。じゃあ、あさっての土曜日にでも訊ねてみることにするわ。土日なら、パートもお休みだし」
「自分も行きますよ」
 振り向きもせず、瑠璃が言う。
「こう見えても、尋問得意なんで」
「そう言ってくれると、正直、助かるわ」
 私がこっそりが安堵の吐息を漏らした時、
 わあ、ミスった!
 派手に叫んで、瑠璃が後ろにひっくり返った。
 そんな瑠璃を見て、慎吾がまたうれしそうに笑った。
 なついているのだ。
 まるで本物の姉弟のように。
 あの慎吾が、瑠璃に。
 複雑な思いで楽しそうな慎吾を見つめていると、寝転がったまま、ふいに瑠璃が言った。
「それより、やばいっすよ。あの三つ子の事件」
「え?」
 急に何を言い出すのかと、瑠璃のパンダメイクに視線を移すと、
「ついでに少し調べてみたんですけど、現場の様子がとにかくやばすぎ」
「現場の、様子?」
「見ますか? 自分のスマホに、データ送らせましたから」
「送らせたって…誰に?」
「県警の鑑識です。メガネ3号が、それです」
「…鑑識?」
 なんというネットワークの広さ。
 呆れるを通り越して、感心するしかない。
「お得意様のひとりなんで。でも、今度1回タダでしなきゃなんないんで、自分的には大赤字」
 むくりと起き上がり、部屋の隅に落ちていたパーカーのポケットから、瑠璃がスマホを引っ張り出した。
 すさまじく派手なデコレーションのケースに入っている。
「本当に、見ますか? 吐いても知らないっすよ」
 つけまつ毛の間から、上目遣いに瑠璃が私を見上げた。
「そんなに、酷いの…?」
「ええ。世の中のすべてを呪いたくなるほど」
 そこまで言われると、さすがに躊躇してしまう。
 だが、結局最後に勝ったのは、好奇心のほうだった。
「見せてもらうわ」
 震える手で、スマホを受け取った。
「まるでマトリョーシカでしょ」
 画面に釘付けになり、金縛りに遭ったように硬直した私に向かって、瑠璃が言った。
「リリアの身体の中にリリムが、リリムの身体の中に、リリノが埋め込まれて…」
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