風俗探偵瑠璃の事件簿 ~呪いの肉人形~

戸影絵麻

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#14 呪物

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「道具というのは、この場合、呪物のことです」
 もったいをつけた口調で、鎌田君が切り出した。
「ジュブツ?」
「呪う物と書いて、呪物。いわゆる、怨念を増幅する”装置”のことですね。たとえば、弥生時代の銅鐸。一般には祭祀の道具と言われていますが、対立する集団に災いをもたらすための呪物だったのではないか、という説を唱える学者もいます」
「でも、殺された三つ子ちゃんは、モノなんかじゃなくて…」
「呪物には色々あって、生き物を装置として使用した文化も、世界各地に見られるのです。犬とか猫とか狐とかイタチとか…。そして、連続して飢饉に見舞われた江戸時代後期の我が国の農村では、口減らしのためもあってか、人間の嬰児がその装置として使われていたらしい…」
「江戸時代?」
 ずいぶん古い話が出てきて、私は少なからずびっくりした。
 そんな昔話が、現代の猟奇殺人に何か関係があるとでもいうのだろうか。
「以前、ネタ探しの目的もあって、いわゆる実話怪談を集めるサイトを運営してたんですが、今回、ルリさんの話を聞いて、そこに投稿されてた話を思い出したんです」
「鎌田君は、元はと言えばオカルト研究家なんだよ。でも、それじゃ食っていけないんで、今は風俗のレポートとかやってんの。自分みたいな貧困女子特集とか」
 瑠璃が面白そうに横から口を挟んだ。
 ということは、この青年は瑠璃の客というより、仕事仲間みたいなものなのだろうか。
「ルリさんのいうマトリョーシカはロシアの人形ですが、僕が読んだのは”達磨人形”です。だるまの中にだるまが入った、いわば”入れ子達磨”ですね。それを呪物として、人間の幼児の死体を素材に作成していた村がある…」
「そんな…」
 私は絶句した。
 もしそれが本当だとすれば、あの三つ子の死体の状況にそっくりだ。
「どこの村なのか、それはわかりません。残念ながら、投稿記事にはそこまでは書いてなかったので。ただ、昭和に入ってから、ダムに沈んだ村だとか…。投稿者によると、あまりに忌まわしい風習の残る村なので、行政の手によって、故意にダムに沈められたのではないかと…」
「そこからは、国土交通省の出番だね」
 スマホの電話帳を眺めながら、瑠璃が言う。
「うーん、確か客の中に、ひとりぐらい居た気がするけどなあ」
「昭和というと、比較的最近じゃないですか。まさか数十年前まで、その村には入れ子達磨の風習が残っていたとか、そういうことなんでしょうか?」
「可能性はあると思います。行政云々というのは眉唾としても、地方の農村の中には、今でも山の神や海の神を信仰してるところ、多いですからね」
 背筋が寒くなる話だった。
「僕がお話しできるのは、このぐらいでしょうか。では、僕はこのへんで。これから1件、取材に行かねばならない所があるものですから」
 鎌田君がごくりと喉を鳴らして、水を飲んだ。
「サンキュー。恩に着るよ」
 瑠璃がその丸い肩を叩いて微笑んだ。
「また何かわかったら、教えてよ。じゃ、お仕事、がんばって」
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