夜通しアンアン

戸影絵麻

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第6章 アンアン魔界行

#44 アンアン、ミドルバベルへ⑦

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 世紀の大バトル!
 とあおってはみたものの、決着がつくまでに、カップ麺の出来上がりを待つほどの時間しかかからなかった。
 だけどそれではあまりに味気ないので、一応僕なりに解説してみようと思う。
 まず、襲いかかってきたトリケラトプスの長大な2本の角を、振り向きざま阿修羅が独鈷で跳ね上げた。
 後ろ向きにひっくリ返るその太い首に両腕をかけ、アンアンが首投げ、逆さ落としをぶちかます。
 地面に垂直に立った恐竜の腹部に、ミニスカを惜しげもなく翻し、阿修羅がドロップキック。
 倒れてきたところに、アンアンが回し蹴り2発とアンアンパンチの連打。
 ズシーン。
 地響きを立てて昏倒するトリケラトプス・まさお。
 眼球をでんぐり返して、陸に上がったカニみたいに口からぶくぶくと白い泡を吹き出している。
 戦いはこれで終わりだったのだけど、問題はその後だった。
 気絶したまさおの口の中から、球形の身体に長い手足を生やした蜘蛛みたいな生き物が転がり出てきたのだ。
「あ、あいつです! きっとあいつが恐竜をあやつってたんですよ!」
 目ざとく見つけた玉の声に、アンアンがさっと手を伸ばして、逃げようとする生き物をつかみ上げた。
「餓鬼だ」
 それを顔に近づけて、じっと見るなり、吐き捨てるようにそう言った。
「阿修羅、このアンダーバベルも、ひょっとしたらアッパーバベル以上にやばいかも」
「ん? どういうこと?」
 スカートについたほこりを払いながら、阿修羅が歩み寄ってきた。
「こいつらが、この世界の生き物に寄生して、このまさおみたいに操ってるとしたら」
「えー? それマジで言ってるの?」
 阿修羅が心底嫌そうな顔をする。
「だから急がないと。問題は、シャフトなしでどうやって下に下りるかだけど」
 手の中で暴れる餓鬼を握りつぶし、死体をぽい捨てするとアンアンが言った。
「そりゃまあ、ここはわたしの庭みたいなものだからさ、方法はないこともないけれど」
「どんな方法だ?」
「あんまり気が進まないんだけどね。一度阿修羅城に戻って、轟天号を使えば行ける」
「轟天号? なんだそれ?」
「わたしの発明した地底軍艦だよ。前に人間界の古い特撮映画で見て、かっこよくってついマネしたくなってつくってみた」
 轟天号って、あれ、海底軍艦じゃなかったっけ?
 とにかく、さすが魔界のリケジョだ。
 アンドロイド玉以外にも、色々隠し玉があるらしい。
「よし、それで行こう」
 即断するアンアン。
「けど、わたし、あんまり家に帰りたくないんだよね。シヴァやインドラに見つかったらうるさいし」
「こっそり忍び込めばいい」
「それにここから3000キロもあるんだろ?」
 僕が横から口を挟むと、むっくりと身を起こしたまさおを見て、アンアンが言った。
「あれに乗るのさ。あの恐竜、要はタクシーみたいなものなんだろ?」

 



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