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第6章 アンアン魔界行
#45 アンアン、ミドルバベルへ⑧
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口から餓鬼を吐き出したまさおは、人がというか、恐竜が変わったかのように大人しくなった。
くうんくんと鳴きながら、阿修羅に鼻づらをすり寄せてくる始末である。
こうなると、パンダみたいに可愛く見えてくるから、不思議である。
「さ、みんな、乗って」
まさおのフリルをクッションにして、首にまたがった阿修羅が手招きした。
簡単に乗れといわれても、これがまた難事業だった。
トリケラトプスの成体であるまさおは、角も含めると全長が10メートル近い。
しかも肩までの高さは3メートル以上ある。
曲芸師か体操の選手でもない限り、そうそう簡単に登れるものではない。
結局、アンアンの手を借りて、前からアンアン、僕、玉、一ノ瀬の順に、まさおの背中にまたがった。
地下鉄2両分は優にあるまさおの背は、4人乗ってもお釣りがくるほど広くて安定している。
が、表皮が象のそれみたいにざらざらしていて硬いのには、少しばかり閉口した。
これでは、尻の皮がいつしか摩擦ではがれてきそうなのだ。
「はあい。しゅっぱーつ!」
アンアンの号令に、まさおがのっしのっしと歩き出す。
しばらくはジャングルの中の行軍だった。
が、意外に早く樹木のカーテンは切れ、目の前が急に開けると、僕らはだだっ広い舗装道路に出ていた。
あろうことか、道幅が100メートルはありそうなまっすぐな道路が、はるかかなたの地平の果てまで延々と伸びているのだ。
ぎらつく熱帯地方の青空の下、定規で引いたように直線を描き、天と地の境に消えていく無人のハイウエイ。
その幻想的な眺めに、僕は思わず見とれてしまった。
「後は簡単よ。この道をひたすらまっすぐ行けば、阿修羅城に着く」
右手でひさしをつくって遠くを見やりながら、阿修羅が言った。
「むちゃくちゃ簡単な地理だな。3000キロ、ひたすらこの道を進めばいいわけか」
同じ魔界の住人のくせに、さすがのアンアンも、あきれ顔だ。
「うん。ミドルバベルの住人ってさ、みんな方向音痴で、道とか覚えるの苦手だから、常に道路は直線なの」
「そういう問題か?」
「でも、わかりやすくていいですよねー」
「それで、城まではこいつの足でどのくらいかかるんだ? 3000キロっていったら、相当遠いだろ?」
「大丈夫。”道の駅”まで行けば、バオバオの木が生えてるから。うまくいけば1日で到着だよ」
のっしのっしとまさおを歩かせながら、阿修羅はそんなわけのわからないことを言う。
でも、不思議なことに、アンアンにはちゃんと通じたようだ。
「バオバオの木? ああ、あれか」
「そう。バオバオの木。あれがなかったら、この世界の魔物はみんな怠け者だから、誰も家から外になんて出ないよ」
車一台通らない広い道路を、僕らを乗せたトリケラトプスのまさおが、巨体をゆすり、とことこと走っていく。
そのうちにだんだんスピードが出てきて、風が火照った肌に心地よくなってきた。
それにしても。
僕はなんとはなしに空を見上げて思った。
魔界というのは、いったいどういう構造になっているのだろう?
アッパーバベルにも空があり、太陽があった。
なのにその地下に位置するはずのこのミドルバベルにも、また別の空と太陽があるのだ。
落ち着いたらリケジョの阿修羅に訊いてみよう。
そんなのんきなことを考えていた、まさにその矢先である。
後ろのほうから、どすんどすんという鈍い音が響いてきた。
「うわ、やべっ!」
叫んだのは、最後尾で玉の楽器ケースにつかまっている一ノ瀬だった。
「ん? どうした?」
何げなく振り向いた僕は、見た。
一ノ瀬の肩越しに迫る巨大な影。
ぐおおおおおおおん!
咆哮とともに、鋭い牙のびっしり生えた口が、一ノ瀬の背後でガッとばかりに大きく開くのを。
くうんくんと鳴きながら、阿修羅に鼻づらをすり寄せてくる始末である。
こうなると、パンダみたいに可愛く見えてくるから、不思議である。
「さ、みんな、乗って」
まさおのフリルをクッションにして、首にまたがった阿修羅が手招きした。
簡単に乗れといわれても、これがまた難事業だった。
トリケラトプスの成体であるまさおは、角も含めると全長が10メートル近い。
しかも肩までの高さは3メートル以上ある。
曲芸師か体操の選手でもない限り、そうそう簡単に登れるものではない。
結局、アンアンの手を借りて、前からアンアン、僕、玉、一ノ瀬の順に、まさおの背中にまたがった。
地下鉄2両分は優にあるまさおの背は、4人乗ってもお釣りがくるほど広くて安定している。
が、表皮が象のそれみたいにざらざらしていて硬いのには、少しばかり閉口した。
これでは、尻の皮がいつしか摩擦ではがれてきそうなのだ。
「はあい。しゅっぱーつ!」
アンアンの号令に、まさおがのっしのっしと歩き出す。
しばらくはジャングルの中の行軍だった。
が、意外に早く樹木のカーテンは切れ、目の前が急に開けると、僕らはだだっ広い舗装道路に出ていた。
あろうことか、道幅が100メートルはありそうなまっすぐな道路が、はるかかなたの地平の果てまで延々と伸びているのだ。
ぎらつく熱帯地方の青空の下、定規で引いたように直線を描き、天と地の境に消えていく無人のハイウエイ。
その幻想的な眺めに、僕は思わず見とれてしまった。
「後は簡単よ。この道をひたすらまっすぐ行けば、阿修羅城に着く」
右手でひさしをつくって遠くを見やりながら、阿修羅が言った。
「むちゃくちゃ簡単な地理だな。3000キロ、ひたすらこの道を進めばいいわけか」
同じ魔界の住人のくせに、さすがのアンアンも、あきれ顔だ。
「うん。ミドルバベルの住人ってさ、みんな方向音痴で、道とか覚えるの苦手だから、常に道路は直線なの」
「そういう問題か?」
「でも、わかりやすくていいですよねー」
「それで、城まではこいつの足でどのくらいかかるんだ? 3000キロっていったら、相当遠いだろ?」
「大丈夫。”道の駅”まで行けば、バオバオの木が生えてるから。うまくいけば1日で到着だよ」
のっしのっしとまさおを歩かせながら、阿修羅はそんなわけのわからないことを言う。
でも、不思議なことに、アンアンにはちゃんと通じたようだ。
「バオバオの木? ああ、あれか」
「そう。バオバオの木。あれがなかったら、この世界の魔物はみんな怠け者だから、誰も家から外になんて出ないよ」
車一台通らない広い道路を、僕らを乗せたトリケラトプスのまさおが、巨体をゆすり、とことこと走っていく。
そのうちにだんだんスピードが出てきて、風が火照った肌に心地よくなってきた。
それにしても。
僕はなんとはなしに空を見上げて思った。
魔界というのは、いったいどういう構造になっているのだろう?
アッパーバベルにも空があり、太陽があった。
なのにその地下に位置するはずのこのミドルバベルにも、また別の空と太陽があるのだ。
落ち着いたらリケジョの阿修羅に訊いてみよう。
そんなのんきなことを考えていた、まさにその矢先である。
後ろのほうから、どすんどすんという鈍い音が響いてきた。
「うわ、やべっ!」
叫んだのは、最後尾で玉の楽器ケースにつかまっている一ノ瀬だった。
「ん? どうした?」
何げなく振り向いた僕は、見た。
一ノ瀬の肩越しに迫る巨大な影。
ぐおおおおおおおん!
咆哮とともに、鋭い牙のびっしり生えた口が、一ノ瀬の背後でガッとばかりに大きく開くのを。
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