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第6章 アンアン魔界行
#47 アンアン、ミドルバベルへ⑩
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「このくらい離れればいいかな。よし、じゃ、蚊トンボと玉はここでまさおを見てて。さ、元気、行くよ」
まさおの針路を道路からはずれた草地に変更し、しばらく走らせたところで止めると、阿修羅が言った。
「え? 行くって、どこに?」
びっくりして聞き返すと、
「アンアンの加勢に決まってるじゃない。あんた、恋人をひとり危ない目に合わせて、平気なわけ?」
と、恐い目で睨まれた。
というわけで、無人の百メートル道路をバトル地点まで取って返すことになった。
ティラノサウルスとアンアンの死闘は、どちらも体がでかいだけに、遠くからでもよく見える。
だから、近くまでいかなくても、思いのほかアンアンが苦戦している様子が明らかになってきた。
ティラノサウルスといえば、その武器は身体の半分ほどの大きさもあるその凶悪な顎と、鞭のようにしなる尻尾である。
そのふたつの武器を駆使して戦うティラノサウルスに、アンアンは間合いを詰めることができないでいるのだ。
近づこうとすると、巨大な顎で噛みつかれそうになるからである。
アンアンの武器はこぶしとキックが中心だから、リーチ内に相手が入ってこないと有効打を与えることができない。
アンアンが恐竜の周囲をステップを踏みながら回っているのは、その隙をついてキックかパンチを繰り出すためなのだ。
だが、前は顎、後ろは尻尾で武装したティラノはおいそれと隙を見せそうにない。
疲れてくるのを待つという手もあるだろうけど、見た感じ、筋肉粒々でとてつもなくタフそうである。
アンアンのパンチラが見える位置まで接近すると、恐竜の吐く蒸気機関のような鼻息が聞えてきた。
「どうする? このままじゃ、アンアンのほうが先にへばっちまうぞ」
草むらから顔だけ出して、僕は言った。
「だねえ。なんとかあいつの動きを封じられればねえ」
僕の隣にうずくまった阿修羅が、ふたつの巨影を目で追いながら、答えた。
「阿修羅もアンアンみたいに巨大化できるんだろう? 2対1なら楽勝なんじゃないのか?」
「それがさ、巨大化できるのは第三人格が発動した時だけなのよ。しかも、その際、必ず狂戦士状態になっちゃうから、世界が滅びるまで暴れ回らずにはおれないわけで…とにかく、色々と面倒なわけよ」
「うーん、それはちょっとどうかな。恐竜一匹倒すのに、いちいち世界を破滅させるってのは、明らかにやり過ぎだろう」
そんな会話を交わしていたときである。
ふいにアンアンの身体がぐらりと揺らいだ。
体勢を低くして素早く身体を回転させた恐竜の尾が、アンアンの脇腹を直撃したのである。
ひるんだアンアンに、ティラノの耳まで裂けた口が襲いかかった。
間一髪のところを、それをアンアンが両手で食い止める。
上顎を左手で、下顎を右手でつかみ、危うく頭を噛みちぎられる寸前で、ストップさせたのだ。
苦しがって長い尾を振り回し、アンアンの背中を狂ったように連打する暴竜。
「あれ絶対、やばいって。なんとかしないと」
「あんたの魔法は? アンアンに聞いたよ。元気、あんた、過去に戻れるんでしょ?」
「5秒だけね。だからほとんど役に立たないんだ」
「5秒? たはっ、何それ」
笑われた。
でも、それが真実なのだから、仕方がない。
「仕方ない。行くか」
しゅっと独鈷を槍ぐらいの長さまで伸ばして、阿修羅が立ち上がった。
「これ、あんまり汚したくなかったんだけど、まあ、友だちのためだしね」
スカートの裾を翻し、大股な足取りで、颯爽と歩いていく。
「ありがとう、恩に着るよ」
僕はその少女戦士みたいな後ろ姿に、心の底から声援を送った。
ほかの何よりも、阿修羅がアンアンのことを”友だち”と呼んだことが、とってもうれしかったのだ。
まさおの針路を道路からはずれた草地に変更し、しばらく走らせたところで止めると、阿修羅が言った。
「え? 行くって、どこに?」
びっくりして聞き返すと、
「アンアンの加勢に決まってるじゃない。あんた、恋人をひとり危ない目に合わせて、平気なわけ?」
と、恐い目で睨まれた。
というわけで、無人の百メートル道路をバトル地点まで取って返すことになった。
ティラノサウルスとアンアンの死闘は、どちらも体がでかいだけに、遠くからでもよく見える。
だから、近くまでいかなくても、思いのほかアンアンが苦戦している様子が明らかになってきた。
ティラノサウルスといえば、その武器は身体の半分ほどの大きさもあるその凶悪な顎と、鞭のようにしなる尻尾である。
そのふたつの武器を駆使して戦うティラノサウルスに、アンアンは間合いを詰めることができないでいるのだ。
近づこうとすると、巨大な顎で噛みつかれそうになるからである。
アンアンの武器はこぶしとキックが中心だから、リーチ内に相手が入ってこないと有効打を与えることができない。
アンアンが恐竜の周囲をステップを踏みながら回っているのは、その隙をついてキックかパンチを繰り出すためなのだ。
だが、前は顎、後ろは尻尾で武装したティラノはおいそれと隙を見せそうにない。
疲れてくるのを待つという手もあるだろうけど、見た感じ、筋肉粒々でとてつもなくタフそうである。
アンアンのパンチラが見える位置まで接近すると、恐竜の吐く蒸気機関のような鼻息が聞えてきた。
「どうする? このままじゃ、アンアンのほうが先にへばっちまうぞ」
草むらから顔だけ出して、僕は言った。
「だねえ。なんとかあいつの動きを封じられればねえ」
僕の隣にうずくまった阿修羅が、ふたつの巨影を目で追いながら、答えた。
「阿修羅もアンアンみたいに巨大化できるんだろう? 2対1なら楽勝なんじゃないのか?」
「それがさ、巨大化できるのは第三人格が発動した時だけなのよ。しかも、その際、必ず狂戦士状態になっちゃうから、世界が滅びるまで暴れ回らずにはおれないわけで…とにかく、色々と面倒なわけよ」
「うーん、それはちょっとどうかな。恐竜一匹倒すのに、いちいち世界を破滅させるってのは、明らかにやり過ぎだろう」
そんな会話を交わしていたときである。
ふいにアンアンの身体がぐらりと揺らいだ。
体勢を低くして素早く身体を回転させた恐竜の尾が、アンアンの脇腹を直撃したのである。
ひるんだアンアンに、ティラノの耳まで裂けた口が襲いかかった。
間一髪のところを、それをアンアンが両手で食い止める。
上顎を左手で、下顎を右手でつかみ、危うく頭を噛みちぎられる寸前で、ストップさせたのだ。
苦しがって長い尾を振り回し、アンアンの背中を狂ったように連打する暴竜。
「あれ絶対、やばいって。なんとかしないと」
「あんたの魔法は? アンアンに聞いたよ。元気、あんた、過去に戻れるんでしょ?」
「5秒だけね。だからほとんど役に立たないんだ」
「5秒? たはっ、何それ」
笑われた。
でも、それが真実なのだから、仕方がない。
「仕方ない。行くか」
しゅっと独鈷を槍ぐらいの長さまで伸ばして、阿修羅が立ち上がった。
「これ、あんまり汚したくなかったんだけど、まあ、友だちのためだしね」
スカートの裾を翻し、大股な足取りで、颯爽と歩いていく。
「ありがとう、恩に着るよ」
僕はその少女戦士みたいな後ろ姿に、心の底から声援を送った。
ほかの何よりも、阿修羅がアンアンのことを”友だち”と呼んだことが、とってもうれしかったのだ。
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