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第6章 アンアン魔界行
#56 風雲、阿修羅城⑧
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ガタン。
グイーン。
機械音。
そして、身体にかかる不自然な重力に、僕は目を覚ました。
「なんだ? こりゃ?」
ついそう口にしてしまったのは、またもや自分が奇妙な状況に陥っていることに気づいたからである。
僕は変てこな装置のなかに座っていた。
隣が玉、そしてその向こうに一ノ瀬がいる。
僕らは3人掛けのシートに腰かけ、太いバーでそのシートに押さえつけられている。
似ているものをあげるとすれば、テーマパークのライド型アトラクションである。
ハリー・〇ッターとか、スパイダー〇ンとかの3D映像の中を、コクピットみたいな乗り物に乗って体験するあれである。
違うのは、目の前に開けているのが、スクリーンではなく、広々とした空間であることだ。
僕らは確かに城の中に入ったはずなのに、眼前に展開されているのは、なんだか背筋が寒くなるような、荒涼とした眺めだった。
てっぺんから噴煙を吹き上げる先の尖った山々。
大地には生きとして生けるもののの姿はなく、ただ果てしなく赤褐色の荒れ地が広がっている。
群青色の空には星ひとつなく、時折稲妻が雷光をはためかせて鈍い轟きを伝えてくるだけだ。
「俺さあ、こういう系の乗り物、だめなんだよなあ」
心底から嫌そうな口調で、一ノ瀬がぼやいた。
僕らを乗せた乗り物は、徐々に高度を上げていくようだ。
よく見ると、この乗り物は幅の狭い線路みたいな軌道の上に乗っかっていて、その軌道ときたら、エッシャーのだまし絵よろしくうねうねとひん曲がりながら山々の稜線の間に消えている。
「前に家族でUSJ行った時にもさあ、途中でゲロ吐いて、ひんしゅく買っちゃったんだよね」
「こっち向いて吐くなよ。吐いたらただじゃ置かないぞ」
「ですよね。吐くなら外に吐いてくださいな。いくら一ノ瀬君でも、ゲロ吐きは許しません」
玉の口振りは、どうも微妙である。
僕の気のせいかもしれないが、なんとはなしに一ノ瀬に対するある種の好意みたいなものが感じられるのだ。
「わかってますよ、俺が玉ちゃんにそんなことするわけないじゃん」
一ノ瀬のほうも、まんざらではないようである。
まさかと思うけど…戦闘用アンドロイドとクラスカースト最下層の陰キャラ男子との間に、何かラブラブっぽい感情が生まれたということなのだろうか?
が、この際、そんなことはどうでもいい。
「アンアンは? アンアンはどこに行ったんだ?」
僕はいちばん気になっていたことを口にした。
そう。
この乗り物は3人用らしく、アンアンの姿がないのである。
「阿修羅に続いて、アンアンまで…。いったい全体、何がどうなってるんだよ?」
焦りのにじむ声で、僕がそうつぶやいた時である。
「あ。あれじゃないですかあ?」
玉が前方を指で指し示した。
その指先を視線で追った僕は、
「う。まじかよ」
思わず喉の奥でうめいていた。
尖った山々の連なる稜線の向こう。
世界の果てに、巨大な十字架が立っている。
そそてそこに、これまた巨大なセーラー服姿の少女がはりつけにされているのだ。
あんなに大きなサイズの美少女は、魔界広しといえどもほかにいないだろう。
「アンアン…どうして、そんなところに…」
もう一度うめいたその瞬間、
一ノ瀬が、「ひ」っと蛙が餅を喉に詰まらせたような声を上げた。
軌道の上を、ガタンゴトンといびつな音を発しながら、のろのろと乗り物が動き出したのだ。
グイーン。
機械音。
そして、身体にかかる不自然な重力に、僕は目を覚ました。
「なんだ? こりゃ?」
ついそう口にしてしまったのは、またもや自分が奇妙な状況に陥っていることに気づいたからである。
僕は変てこな装置のなかに座っていた。
隣が玉、そしてその向こうに一ノ瀬がいる。
僕らは3人掛けのシートに腰かけ、太いバーでそのシートに押さえつけられている。
似ているものをあげるとすれば、テーマパークのライド型アトラクションである。
ハリー・〇ッターとか、スパイダー〇ンとかの3D映像の中を、コクピットみたいな乗り物に乗って体験するあれである。
違うのは、目の前に開けているのが、スクリーンではなく、広々とした空間であることだ。
僕らは確かに城の中に入ったはずなのに、眼前に展開されているのは、なんだか背筋が寒くなるような、荒涼とした眺めだった。
てっぺんから噴煙を吹き上げる先の尖った山々。
大地には生きとして生けるもののの姿はなく、ただ果てしなく赤褐色の荒れ地が広がっている。
群青色の空には星ひとつなく、時折稲妻が雷光をはためかせて鈍い轟きを伝えてくるだけだ。
「俺さあ、こういう系の乗り物、だめなんだよなあ」
心底から嫌そうな口調で、一ノ瀬がぼやいた。
僕らを乗せた乗り物は、徐々に高度を上げていくようだ。
よく見ると、この乗り物は幅の狭い線路みたいな軌道の上に乗っかっていて、その軌道ときたら、エッシャーのだまし絵よろしくうねうねとひん曲がりながら山々の稜線の間に消えている。
「前に家族でUSJ行った時にもさあ、途中でゲロ吐いて、ひんしゅく買っちゃったんだよね」
「こっち向いて吐くなよ。吐いたらただじゃ置かないぞ」
「ですよね。吐くなら外に吐いてくださいな。いくら一ノ瀬君でも、ゲロ吐きは許しません」
玉の口振りは、どうも微妙である。
僕の気のせいかもしれないが、なんとはなしに一ノ瀬に対するある種の好意みたいなものが感じられるのだ。
「わかってますよ、俺が玉ちゃんにそんなことするわけないじゃん」
一ノ瀬のほうも、まんざらではないようである。
まさかと思うけど…戦闘用アンドロイドとクラスカースト最下層の陰キャラ男子との間に、何かラブラブっぽい感情が生まれたということなのだろうか?
が、この際、そんなことはどうでもいい。
「アンアンは? アンアンはどこに行ったんだ?」
僕はいちばん気になっていたことを口にした。
そう。
この乗り物は3人用らしく、アンアンの姿がないのである。
「阿修羅に続いて、アンアンまで…。いったい全体、何がどうなってるんだよ?」
焦りのにじむ声で、僕がそうつぶやいた時である。
「あ。あれじゃないですかあ?」
玉が前方を指で指し示した。
その指先を視線で追った僕は、
「う。まじかよ」
思わず喉の奥でうめいていた。
尖った山々の連なる稜線の向こう。
世界の果てに、巨大な十字架が立っている。
そそてそこに、これまた巨大なセーラー服姿の少女がはりつけにされているのだ。
あんなに大きなサイズの美少女は、魔界広しといえどもほかにいないだろう。
「アンアン…どうして、そんなところに…」
もう一度うめいたその瞬間、
一ノ瀬が、「ひ」っと蛙が餅を喉に詰まらせたような声を上げた。
軌道の上を、ガタンゴトンといびつな音を発しながら、のろのろと乗り物が動き出したのだ。
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