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第6章 アンアン魔界行
#57 風雲、阿修羅城⑨
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ゴオオオッツ!
かなりの高みまで上り詰めたかと思ったら、一気に落下が始まった。
風圧で髪が乱れ、加速で頬の筋肉が歪む。
「ぎゃあああ! 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ! 誰か止めてくれえ!」
一ノ瀬の悲鳴が風の音に混じって聞こえてくる。
大げさなやつだ。
まだイベントは始まったばかりなんだぞ。
しかし、そう余裕をかましていられたのも、最初の数秒間だけだった。
目の前にぐんぐん最初の山が接近してくると、僕も悲鳴を上げざるを得なくなった。
「うわあああっ! ぶつかるぅ!」
が、衝突寸前、車体が右側に急激に傾き、ものすごい重力が心臓にかかった。
すり抜けた、と思ったとたん、今度は逆側に旋回する。
更に上下逆さまになりながら次の山を越えると、深い谷に向かって、錐もみ状態で急降下した。
「げげげげげ、ストップ、ストップ、もう無理だって!」
ぼくの気持ちを代弁するように、一ノ瀬がまた叫ぶ。
「平気ですよ。ちゃんと安全バーにつかまってれば」
3人の中で、玉だけが平然としている。
アンドロイドだからなのか、女だからなのか、理由はよくわからない。
そうこうするうちにも、乗り物は右に左に傾きながら、林立する山々の間をすり抜けていく。
そして何度か失神寸前の恐怖を味わった後、おもむろにひときわ高い山のてっぺんで停止した。
そこから先にはもう山はなく、ただ炎の色に彩られた空間に、アンアンを磔にした十字架が浮かんでいるだけである。
「た、た、た、助かったあ…」
一ノ瀬が、心の底から安堵したといった様子で、長い長いため息をついた。
まったくもって僕も同感ではあったけど、今度は目の前のアンアンの姿に視線が釘付けになった。
「アンアン、どうした? 大丈夫か?」
大声で呼びかけてみても、僕ら同様に催眠ガスで眠らされているのか、首を斜めに曲げてうなだれているアンアンは、なぜか身じろぎひとつしない。
でも、ちゃんと生きてるってことは、セーラー服を押し上げるGカップのバストが、呼吸に合わせてゆっくりと上下していることで、それとわかった。
「まったくもって、どうしちゃったんでしょうねえ、アンアンは。それに阿修羅さまはいったいどこに」
隣で玉がそうぼやいた時である。
「おーほほほほほ」
甲高い高笑いが、世界全体に響き渡った。
「遠くからお越しのみなさまあ、お待たせしましたあ! わたくしども阿修羅城プレゼンツの、夏休みスペシャルイベントの始まりだよぉ!」
阿修羅城プレゼンツ?
夏休みスペシャルイベント?
なんなんだ、それは?
ていうか。
この声。
妙に芝居がかって陽気ではあるけれど、どこかで聞いたことがあるぞ。
「あのさ、これ」
居心地悪そうにもぞもぞ尻を動かしながら、一ノ瀬が言った。
「蘭ちゃんの声じゃね?」
一ノ瀬は、今いち彼女の正体を知らないので、彼女のことをアッシュ=蘭という偽名で呼ぶ。
「ですよねー。玉もそう思いました。これ、間違いなく、阿修羅さまのお声です」
やはり。
玉が言うなら間違いない。
被創造物が創造主の声を聞き間違えるはずないからだ。
「じゃ、これは全部、阿修羅が企んだことってのか? だけど、何のために?」
が、僕の問いかけは、続く阿修羅の声にかき消された。
「さあ、みなさん、目の前のイケニエに注目してくださいね。ご存知魔界の王女、アンアンちゃんですよお。むちむちボディがまぶしいですよね。え? もっと見たいですって? そうでしょう、そうでしょう! ふふっ、わかりますよぉ、その気持ち」
あちこち見回してみるけれど、声はすれども、阿修羅の姿はない。
「それではあ、まずはみなさんのリクエストにお応えして」
ふいに、空中に奇妙なものが出現した。
イカかクラゲの一種かと思ったら、巨大な1本の鞭である。
先がいくつにも分かれていて、あれで叩かれたらいかにも痛そうだ。
しかし、阿修羅のやつ、いったい何をするつもりなんだろう?
と、次の瞬間、その僕の疑問に答えるように、高笑いとともに、阿修羅が宣言した。
「おほほほほほ、これで、わかりましたあ? まず手始めに、むち打ちの1000回の刑!」
かなりの高みまで上り詰めたかと思ったら、一気に落下が始まった。
風圧で髪が乱れ、加速で頬の筋肉が歪む。
「ぎゃあああ! 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ! 誰か止めてくれえ!」
一ノ瀬の悲鳴が風の音に混じって聞こえてくる。
大げさなやつだ。
まだイベントは始まったばかりなんだぞ。
しかし、そう余裕をかましていられたのも、最初の数秒間だけだった。
目の前にぐんぐん最初の山が接近してくると、僕も悲鳴を上げざるを得なくなった。
「うわあああっ! ぶつかるぅ!」
が、衝突寸前、車体が右側に急激に傾き、ものすごい重力が心臓にかかった。
すり抜けた、と思ったとたん、今度は逆側に旋回する。
更に上下逆さまになりながら次の山を越えると、深い谷に向かって、錐もみ状態で急降下した。
「げげげげげ、ストップ、ストップ、もう無理だって!」
ぼくの気持ちを代弁するように、一ノ瀬がまた叫ぶ。
「平気ですよ。ちゃんと安全バーにつかまってれば」
3人の中で、玉だけが平然としている。
アンドロイドだからなのか、女だからなのか、理由はよくわからない。
そうこうするうちにも、乗り物は右に左に傾きながら、林立する山々の間をすり抜けていく。
そして何度か失神寸前の恐怖を味わった後、おもむろにひときわ高い山のてっぺんで停止した。
そこから先にはもう山はなく、ただ炎の色に彩られた空間に、アンアンを磔にした十字架が浮かんでいるだけである。
「た、た、た、助かったあ…」
一ノ瀬が、心の底から安堵したといった様子で、長い長いため息をついた。
まったくもって僕も同感ではあったけど、今度は目の前のアンアンの姿に視線が釘付けになった。
「アンアン、どうした? 大丈夫か?」
大声で呼びかけてみても、僕ら同様に催眠ガスで眠らされているのか、首を斜めに曲げてうなだれているアンアンは、なぜか身じろぎひとつしない。
でも、ちゃんと生きてるってことは、セーラー服を押し上げるGカップのバストが、呼吸に合わせてゆっくりと上下していることで、それとわかった。
「まったくもって、どうしちゃったんでしょうねえ、アンアンは。それに阿修羅さまはいったいどこに」
隣で玉がそうぼやいた時である。
「おーほほほほほ」
甲高い高笑いが、世界全体に響き渡った。
「遠くからお越しのみなさまあ、お待たせしましたあ! わたくしども阿修羅城プレゼンツの、夏休みスペシャルイベントの始まりだよぉ!」
阿修羅城プレゼンツ?
夏休みスペシャルイベント?
なんなんだ、それは?
ていうか。
この声。
妙に芝居がかって陽気ではあるけれど、どこかで聞いたことがあるぞ。
「あのさ、これ」
居心地悪そうにもぞもぞ尻を動かしながら、一ノ瀬が言った。
「蘭ちゃんの声じゃね?」
一ノ瀬は、今いち彼女の正体を知らないので、彼女のことをアッシュ=蘭という偽名で呼ぶ。
「ですよねー。玉もそう思いました。これ、間違いなく、阿修羅さまのお声です」
やはり。
玉が言うなら間違いない。
被創造物が創造主の声を聞き間違えるはずないからだ。
「じゃ、これは全部、阿修羅が企んだことってのか? だけど、何のために?」
が、僕の問いかけは、続く阿修羅の声にかき消された。
「さあ、みなさん、目の前のイケニエに注目してくださいね。ご存知魔界の王女、アンアンちゃんですよお。むちむちボディがまぶしいですよね。え? もっと見たいですって? そうでしょう、そうでしょう! ふふっ、わかりますよぉ、その気持ち」
あちこち見回してみるけれど、声はすれども、阿修羅の姿はない。
「それではあ、まずはみなさんのリクエストにお応えして」
ふいに、空中に奇妙なものが出現した。
イカかクラゲの一種かと思ったら、巨大な1本の鞭である。
先がいくつにも分かれていて、あれで叩かれたらいかにも痛そうだ。
しかし、阿修羅のやつ、いったい何をするつもりなんだろう?
と、次の瞬間、その僕の疑問に答えるように、高笑いとともに、阿修羅が宣言した。
「おほほほほほ、これで、わかりましたあ? まず手始めに、むち打ちの1000回の刑!」
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