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第6章 アンアン魔界行
#120 アンアン、地獄をめくる⑯
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大地を揺るがしてやってきた金毘羅牛頭魔王は、10階建てのビルほどもある巨人だった。
名前の通り頭は牛で、右手にはトゲトゲの生えた太いこん棒を握っている。
それは絵本の鬼が持ってるこん棒そのままで、こんなのメルカリでも出品されていないだろうと首をかしげたくなるほど漫画チックなものだった。
それはともかく、僕らが一様に息を呑んだのは、金毘羅牛頭魔王の”服”である。
ウィキの解説通り赤いのはいいけれど、なぜかミニ丈のワンピースなのだ。
だから、剛毛の生えた脛がまる出しで、しかも下から見上げる角度になっているから、股間が丸見えだ。
牛頭魔王がスカートの下に穿いているのは、明らかに女性もののパンティだった。
そんなものを無理やり穿いているものだから、股間のもっこりはもはや隠しようがなく、明らかにわいせつ物陳列罪の域に達している。
「クソキモいのが出てきやがった」
アンアンが罰当たりな台詞を吐いた。
気持ちはわかるけど、そんな可愛い顔して「クソ」はないだろう。
「なんなのぉ~? あんたたちィ?」
だしぬけにお姉声が降ってきて、だれだよキモいな、と思ったら、目の前にそびえ立つ牛頭魔王だった。
「ふうん、あんたたち、見たところ亡者じゃなさそうねえ。いけないんだよぉ、生きてる人間がこんなとこにやってきちゃさあ」
エクステばりばりの睫毛をしばたたいて、鼻息も荒く、そう言った。
「別に好きで来てんじゃないんだよ」
オカマの四天王をねめつけて、アンアンが答えた。
「とっとと最下層へ行きたいんだが、途中で蜘蛛の糸が切れちまったんだから、しようがないだろ」
敵が隙を見せたら巨大化して戦うつもりなのだろう。
アンアンはすでにファイティングポーズを取っている。
が、牛頭魔王には、そんなアンアンの挑発的な台詞も耳に入らなかったようだった。
「きゃあ! かわいいっ!」
突如として黄色い声を発したかと思うと、するする小さくなって、やにわにとある人物に抱きついたのである。
「あなた、なんてかわいいの! もう、あたしの好みそのものじゃない! むうーん、何百年もの間、待ってたのよ、あなたみたいな素敵なヒトが現れるのをさあ!」
等身大にまで縮んだ牛頭魔王。
その丸太のような太い腕が抱きしめているのは、あろうことか、一ノ瀬である。
「な、なんだよ、キモいな、このオカマ。は、放せよ」
さすがの一ノ瀬も、眼を白黒させてもがいている。
「ど、どういうことでしょう?」
玉が丸眼鏡の奥のつぶらな瞳を真ん丸にして、呆然とつぶやいた。
「ふふっ、人間界に、蓼食う虫も好き好きってことわざがあるでしょ? きっとそれだよ」
阿修羅がくすくす笑い出す。
「まあ、確かに一ノ瀬君は、人間というより、虫に似てますけどね」
「でしょう? けっこう似合いのカップルだったりしてね」
阿修羅は明らかに、事の成り行きを楽しんでいるようだ。
「ねえ、あんたたち、ちょっとこの子を貸してくんない?」
ぶちゅぶちゅ一ノ瀬にキスの雨を降らせた後、牛頭魔王が言った。
「あたし、なんだか興奮してきちゃった。だって、この子、こんなにも可愛らしくてセクシーなんだもの。1時間ほどで戻るからさあ、お願い、いいでしょ?」
くねくねとしなをつくるのが、なおキモい。
「あたしはかまわないが、その蚊トンボを、いったいどうするつもりなんだ?」
呆れたように、アンアンが訊く。
「やだねえ、そんな野暮なこと訊くんじゃないよ。惚れ合った男と女がすることといえば、もう決まってるだろ」
口紅のはみ出た唇を笑いの形に歪めて、牛頭魔王が答えた。
「でええええ! やだよおお! やめろおおおお!」
叫び出したのは、もちろん、一ノ瀬である。
ようやく己の貞操の危機に気づいたらしかった。
「よし、じゃあ、交換条件と行こうじゃないか」
こちらも不敵な笑みを浮かべて、アンアンが言った。
「その男は貸してやる。何をしてもらっても、かまわない。ただし、用が済んだら、あたしらを下の階層に案内しろ。できれば一番下までな」
名前の通り頭は牛で、右手にはトゲトゲの生えた太いこん棒を握っている。
それは絵本の鬼が持ってるこん棒そのままで、こんなのメルカリでも出品されていないだろうと首をかしげたくなるほど漫画チックなものだった。
それはともかく、僕らが一様に息を呑んだのは、金毘羅牛頭魔王の”服”である。
ウィキの解説通り赤いのはいいけれど、なぜかミニ丈のワンピースなのだ。
だから、剛毛の生えた脛がまる出しで、しかも下から見上げる角度になっているから、股間が丸見えだ。
牛頭魔王がスカートの下に穿いているのは、明らかに女性もののパンティだった。
そんなものを無理やり穿いているものだから、股間のもっこりはもはや隠しようがなく、明らかにわいせつ物陳列罪の域に達している。
「クソキモいのが出てきやがった」
アンアンが罰当たりな台詞を吐いた。
気持ちはわかるけど、そんな可愛い顔して「クソ」はないだろう。
「なんなのぉ~? あんたたちィ?」
だしぬけにお姉声が降ってきて、だれだよキモいな、と思ったら、目の前にそびえ立つ牛頭魔王だった。
「ふうん、あんたたち、見たところ亡者じゃなさそうねえ。いけないんだよぉ、生きてる人間がこんなとこにやってきちゃさあ」
エクステばりばりの睫毛をしばたたいて、鼻息も荒く、そう言った。
「別に好きで来てんじゃないんだよ」
オカマの四天王をねめつけて、アンアンが答えた。
「とっとと最下層へ行きたいんだが、途中で蜘蛛の糸が切れちまったんだから、しようがないだろ」
敵が隙を見せたら巨大化して戦うつもりなのだろう。
アンアンはすでにファイティングポーズを取っている。
が、牛頭魔王には、そんなアンアンの挑発的な台詞も耳に入らなかったようだった。
「きゃあ! かわいいっ!」
突如として黄色い声を発したかと思うと、するする小さくなって、やにわにとある人物に抱きついたのである。
「あなた、なんてかわいいの! もう、あたしの好みそのものじゃない! むうーん、何百年もの間、待ってたのよ、あなたみたいな素敵なヒトが現れるのをさあ!」
等身大にまで縮んだ牛頭魔王。
その丸太のような太い腕が抱きしめているのは、あろうことか、一ノ瀬である。
「な、なんだよ、キモいな、このオカマ。は、放せよ」
さすがの一ノ瀬も、眼を白黒させてもがいている。
「ど、どういうことでしょう?」
玉が丸眼鏡の奥のつぶらな瞳を真ん丸にして、呆然とつぶやいた。
「ふふっ、人間界に、蓼食う虫も好き好きってことわざがあるでしょ? きっとそれだよ」
阿修羅がくすくす笑い出す。
「まあ、確かに一ノ瀬君は、人間というより、虫に似てますけどね」
「でしょう? けっこう似合いのカップルだったりしてね」
阿修羅は明らかに、事の成り行きを楽しんでいるようだ。
「ねえ、あんたたち、ちょっとこの子を貸してくんない?」
ぶちゅぶちゅ一ノ瀬にキスの雨を降らせた後、牛頭魔王が言った。
「あたし、なんだか興奮してきちゃった。だって、この子、こんなにも可愛らしくてセクシーなんだもの。1時間ほどで戻るからさあ、お願い、いいでしょ?」
くねくねとしなをつくるのが、なおキモい。
「あたしはかまわないが、その蚊トンボを、いったいどうするつもりなんだ?」
呆れたように、アンアンが訊く。
「やだねえ、そんな野暮なこと訊くんじゃないよ。惚れ合った男と女がすることといえば、もう決まってるだろ」
口紅のはみ出た唇を笑いの形に歪めて、牛頭魔王が答えた。
「でええええ! やだよおお! やめろおおおお!」
叫び出したのは、もちろん、一ノ瀬である。
ようやく己の貞操の危機に気づいたらしかった。
「よし、じゃあ、交換条件と行こうじゃないか」
こちらも不敵な笑みを浮かべて、アンアンが言った。
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