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第6章 アンアン魔界行
#121 アンアン、地獄をめくる⑰
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一ノ瀬がオカマ牛頭魔王にどこへやら連れて行かれると、しばし僕らは暇になった。
周囲からは熱風に乗って亡者たちの悲鳴が絶え間なく聞こえてくるけれど、何が起こっているのか視察に行く気には、とてもなれなかった。
手持無沙汰も手伝って、僕は傍らでまた魔法陣を描いているナイアルラトホテップに疑問をぶつけることにした。
「あのさ、ちょっと聞きたいんだけど、あんた、なんでこんなとこまでついてきてるわけ? 仮に近々アンダーバベルが滅ぶにしても、もっと他に行くとこあったんじゃ?」
「それはそうですが」
杖を動かす手を止めて、イケメン邪神が僕を見た。
「実は前々から少し気になっていることがありまして」
「気になってることって、それ、なんですかあ?」
首をつっこんできたのは、玉である。
アンアンはといえば、少し離れた所で胡坐をかき、腕組みしてじっと眼を閉じている。
まるで瞑想にふけっているような、そんな感じである。
「ご存知のように、魔界も人間界も、数ある平行宇宙のうちのひとつなんですが、最近、その平行宇宙全体の熱エネルギーが急速に失われているようなのです。ちょうど、わが故郷、アンダーバベルがそうであったように」
「それ、あれですよね? エントロピー増大の法則ってやつ」
打てば響くように、玉が言う。
それなら、聞いたことがある。
エントロピーとは、熱力学から派生した言葉で、秩序から混沌に向かう法則みたいなもの。
そのエントロピーの増大が止まった時、宇宙は熱死を迎えるのだとかなんとか。
「はい、その通りです。まあ、本来なら、宇宙の熱死は70億年ほど先と言われていたのですが、それが急速に早まっている気がしてならないのです」
「へーえ、そうなんだ。でも、それと、地獄との関連性は、何なんですかあ?」
玉の問いに、ナイアルラトホテップが、綺麗に調えた眉を吊り上げた。
「さきほど戦った第1の四天王の言葉を思い出してください。暗黒大皇帝が、究極の大召喚を試みようとしているという、あれですよ」
そういえば、そうだった。
アンアンに首の骨をへし折られる前に、あの馬男、なんだかそんなことを口にしていたような気がする。
「私は、もしかして、全宇宙の熱エネルギーが、その究極大召喚に使われようとしているのではないかと、そう危惧しているわけなのです」
僕はあっけにとられた。
全宇宙の熱エネルギーを必要とするほどの召喚って、いったい何を呼び出すつもりなのだろう?
そう思ったのだ。
「地獄界で起こっている変異が、このエネルギーの減少に関係しているのではないか。それは前々から考えていたことです。その謎を解くために、私はあなたたちのパーティに参加することにしたというわけなのですが、どうやらそれはビンゴだったらしい」
ナイアルラトホテップが、重々しい口調でそこまで語った時だった。
かなたの地平繊に、一ノ瀬と牛頭魔王の姿が現れた。
一ノ瀬はなぜかひどく内股で歩いており、片手で尻を押さえているようだ。
ともあれ、命が無事だったのは何よりだが、それにしてもずいぶん歩きにくそうである。
「あー、一ノ瀬君、とうとうやられちゃいましたねえ。くわばら、くわばら」
そのしぐさの意味に真っ先に気づいたらしく、気の毒そうに玉が言った。
「童貞を失う前に、お尻の処女を失う気分ってどんなのか、玉、すっごく興味、あるんですけど」
「それはどうですか」
ナイアルラトホテップが、ニヒルに笑った。
「あの分じゃ、案外、一緒に童貞もなくしてるかもしれませんよ」
周囲からは熱風に乗って亡者たちの悲鳴が絶え間なく聞こえてくるけれど、何が起こっているのか視察に行く気には、とてもなれなかった。
手持無沙汰も手伝って、僕は傍らでまた魔法陣を描いているナイアルラトホテップに疑問をぶつけることにした。
「あのさ、ちょっと聞きたいんだけど、あんた、なんでこんなとこまでついてきてるわけ? 仮に近々アンダーバベルが滅ぶにしても、もっと他に行くとこあったんじゃ?」
「それはそうですが」
杖を動かす手を止めて、イケメン邪神が僕を見た。
「実は前々から少し気になっていることがありまして」
「気になってることって、それ、なんですかあ?」
首をつっこんできたのは、玉である。
アンアンはといえば、少し離れた所で胡坐をかき、腕組みしてじっと眼を閉じている。
まるで瞑想にふけっているような、そんな感じである。
「ご存知のように、魔界も人間界も、数ある平行宇宙のうちのひとつなんですが、最近、その平行宇宙全体の熱エネルギーが急速に失われているようなのです。ちょうど、わが故郷、アンダーバベルがそうであったように」
「それ、あれですよね? エントロピー増大の法則ってやつ」
打てば響くように、玉が言う。
それなら、聞いたことがある。
エントロピーとは、熱力学から派生した言葉で、秩序から混沌に向かう法則みたいなもの。
そのエントロピーの増大が止まった時、宇宙は熱死を迎えるのだとかなんとか。
「はい、その通りです。まあ、本来なら、宇宙の熱死は70億年ほど先と言われていたのですが、それが急速に早まっている気がしてならないのです」
「へーえ、そうなんだ。でも、それと、地獄との関連性は、何なんですかあ?」
玉の問いに、ナイアルラトホテップが、綺麗に調えた眉を吊り上げた。
「さきほど戦った第1の四天王の言葉を思い出してください。暗黒大皇帝が、究極の大召喚を試みようとしているという、あれですよ」
そういえば、そうだった。
アンアンに首の骨をへし折られる前に、あの馬男、なんだかそんなことを口にしていたような気がする。
「私は、もしかして、全宇宙の熱エネルギーが、その究極大召喚に使われようとしているのではないかと、そう危惧しているわけなのです」
僕はあっけにとられた。
全宇宙の熱エネルギーを必要とするほどの召喚って、いったい何を呼び出すつもりなのだろう?
そう思ったのだ。
「地獄界で起こっている変異が、このエネルギーの減少に関係しているのではないか。それは前々から考えていたことです。その謎を解くために、私はあなたたちのパーティに参加することにしたというわけなのですが、どうやらそれはビンゴだったらしい」
ナイアルラトホテップが、重々しい口調でそこまで語った時だった。
かなたの地平繊に、一ノ瀬と牛頭魔王の姿が現れた。
一ノ瀬はなぜかひどく内股で歩いており、片手で尻を押さえているようだ。
ともあれ、命が無事だったのは何よりだが、それにしてもずいぶん歩きにくそうである。
「あー、一ノ瀬君、とうとうやられちゃいましたねえ。くわばら、くわばら」
そのしぐさの意味に真っ先に気づいたらしく、気の毒そうに玉が言った。
「童貞を失う前に、お尻の処女を失う気分ってどんなのか、玉、すっごく興味、あるんですけど」
「それはどうですか」
ナイアルラトホテップが、ニヒルに笑った。
「あの分じゃ、案外、一緒に童貞もなくしてるかもしれませんよ」
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