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第6章 アンアン魔界行
#135 アンアン、死す②
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アンアンの敵、前鬼。
こいつは初見から、相当にやばい感じの怪物だった。
これまでアンアンが戦ってきた相手とは、格が違う。
ホイッスルが鳴った直後の、こん棒のひと振りからして、そうだった。
リングの上に忽然と竜巻が発生したような、そんな感じ、とでもいえばいいだろうか。
唸りを上げて襲い来るそのこん棒を、アンアンが間一髪、腰をかがめてやり過ごす。
が、僕はその髪の毛が突風で引き千切れるのを見逃さなかった。
これはまったく、アンアンらしくないことだった。
ひと言でいえば、余裕がないのだ。
敵の攻撃をよけるのが、精一杯といったふうなのである。
いつもならその隙に乗じて相手の懐に飛び込み、接近戦に持ち込むのがアンアンの得意とする戦法だ。
だが、前鬼相手には、それもなかなか難しいようだった。
リーチが長い上にアンアン以上に動きが早く、しかも剛腕ときているのである。
アンアンは、ただひたすら、こん棒の射程外に下がって前鬼の周りを回っている。
今のところ、それしか方法がないのだろう。
「前鬼、早くカタをつけるんだ。大皇帝様が、王女の生肝を今か今かと所望しておられる。この前の公式戦みたいな観客サービスは必要ない」
乱暴な台詞を吐いたのは、敵コーナー席の中心にいる、奇妙な格好の男だった。
水干というのだろうか。
なんだか奈良か平安時代の貴族みたいな服装をした、若いイケメン風男子である。
「ありゃ誰だ?」
一ノ瀬の疑問に、
「役小角かと思われます。元はと言えば、前鬼・後鬼は、彼のペットみたいなものですから」
今やウィキ担当大臣となった玉が、すらすらと答えた。
「うーん、名前はどっかで聞いたことあるんだけど」
一ノ瀬の知識は、僕とほぼ同レベルだから、それ以上のことを知っているはずがない。
「役小角、役の行者といえば、飛鳥時代から奈良時代にかけて活躍した呪術師です。修験道の開祖としても有名ですし、修行の末、孔雀明王をゲットしたともいわれています」
「またやっかいなやつが敵に回ったもんだな。アンアン、ちょっとやばいかも」
一ノ瀬の言う通りだった。
アンアンは次第にロープ際に追い込まれていく。
いったんロープに逃れて試合の中断をはかろうというのだろう。
アンアンが、後ろ手でロープをつかんだ時だった。
バリバリッと閃光が走り、アンアンが弾かれたように転倒した。
痛そうに左手首を右手で握っている。
「マジかよ」
一ノ瀬がうめいた。
「あのロープ、高圧電流が流れてる」
うずくまるアンアン。
前鬼はというと、リングサイドの鉄柱に飛び乗り、両腕で大きくこん棒を振りかぶっている。
飛び降りざま、アンアンの脳天を勝ち割ろうという腹なのだ。
「行け。前鬼。王女と言えども、手心は無用だ。頭蓋をぶち割って、リングを血と脳漿で染めるがいい」
その時、冷酷な口調で、役小角が命令を下すのが聞こえてきた。
こいつは初見から、相当にやばい感じの怪物だった。
これまでアンアンが戦ってきた相手とは、格が違う。
ホイッスルが鳴った直後の、こん棒のひと振りからして、そうだった。
リングの上に忽然と竜巻が発生したような、そんな感じ、とでもいえばいいだろうか。
唸りを上げて襲い来るそのこん棒を、アンアンが間一髪、腰をかがめてやり過ごす。
が、僕はその髪の毛が突風で引き千切れるのを見逃さなかった。
これはまったく、アンアンらしくないことだった。
ひと言でいえば、余裕がないのだ。
敵の攻撃をよけるのが、精一杯といったふうなのである。
いつもならその隙に乗じて相手の懐に飛び込み、接近戦に持ち込むのがアンアンの得意とする戦法だ。
だが、前鬼相手には、それもなかなか難しいようだった。
リーチが長い上にアンアン以上に動きが早く、しかも剛腕ときているのである。
アンアンは、ただひたすら、こん棒の射程外に下がって前鬼の周りを回っている。
今のところ、それしか方法がないのだろう。
「前鬼、早くカタをつけるんだ。大皇帝様が、王女の生肝を今か今かと所望しておられる。この前の公式戦みたいな観客サービスは必要ない」
乱暴な台詞を吐いたのは、敵コーナー席の中心にいる、奇妙な格好の男だった。
水干というのだろうか。
なんだか奈良か平安時代の貴族みたいな服装をした、若いイケメン風男子である。
「ありゃ誰だ?」
一ノ瀬の疑問に、
「役小角かと思われます。元はと言えば、前鬼・後鬼は、彼のペットみたいなものですから」
今やウィキ担当大臣となった玉が、すらすらと答えた。
「うーん、名前はどっかで聞いたことあるんだけど」
一ノ瀬の知識は、僕とほぼ同レベルだから、それ以上のことを知っているはずがない。
「役小角、役の行者といえば、飛鳥時代から奈良時代にかけて活躍した呪術師です。修験道の開祖としても有名ですし、修行の末、孔雀明王をゲットしたともいわれています」
「またやっかいなやつが敵に回ったもんだな。アンアン、ちょっとやばいかも」
一ノ瀬の言う通りだった。
アンアンは次第にロープ際に追い込まれていく。
いったんロープに逃れて試合の中断をはかろうというのだろう。
アンアンが、後ろ手でロープをつかんだ時だった。
バリバリッと閃光が走り、アンアンが弾かれたように転倒した。
痛そうに左手首を右手で握っている。
「マジかよ」
一ノ瀬がうめいた。
「あのロープ、高圧電流が流れてる」
うずくまるアンアン。
前鬼はというと、リングサイドの鉄柱に飛び乗り、両腕で大きくこん棒を振りかぶっている。
飛び降りざま、アンアンの脳天を勝ち割ろうという腹なのだ。
「行け。前鬼。王女と言えども、手心は無用だ。頭蓋をぶち割って、リングを血と脳漿で染めるがいい」
その時、冷酷な口調で、役小角が命令を下すのが聞こえてきた。
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