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第6章 アンアン魔界行
#143 アンアンVS九頭竜①
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「それはつまり、あのクトゥルフの本体が、そこにいる九頭竜だと、そういうことか?」
どこからか声がした。
その声は、僕の膝元から聞こえたようだ。
はあ?
声のほうへと視線を向けて僕は仰天した。
僕の膝枕の上で、アンアンがぱっちり目を開いている。
「ア、アンアン、おまえ、死んだんじゃ…?」
「勝手に殺すな」
アンアンがむくりと起き上がった。
その拍子に、立派なおっぱいが、ぶるんと揺れる。
「ぬっぺっぽうの幹細胞が、新しい肝臓をつくるのを待ってただけさ。肝臓ひとつ抜かれたくらいで、誰が死んだりするものか」
ぬっぺっぽうの、幹細胞…?
そうだった。
アンアンは、アッパーバベルのぬらりひょん民間治療所で、ぬっぺっぽうとぬりかべによる生体維持手術を受けているのだ。
考えてみれば、阿修羅城でのアトラクションで、手足と首をもがれても復活を果たしたアンアンである。
確かにこれしきのことで、死ぬはずがなかったのだ。
うれしくなかったと言ったら、嘘になる。
でも、それならそうと、もっと早く教えてくれればいいのに。
そう、恨み言のひとつも言いたくなるというものだ。
「おお、やっとお目覚めか」
満足げにナイアルラトホテップが、うなずいた。
「王女のおっしゃる通りです。私の故郷、アンダーバベルは、元はといえば、あの九頭竜が見ている夢にすぎないのです。それを確かめたくて、ここまで旅のお供をさせていただいたのですが、やはり思った通りでした」
「アンダーバベルが、あの怪獣の夢?」
アンアンの表情が険しくなる。
「ならば、魔界全体がそうなのではないのか?」
ふたりの会話を聞きながら、僕は彼方にそびえる9本の首を持つ大怪獣のシルエットへと目をやった。
世界を夢見る怪獣…。
もしあれがそうなら、仮にアンアンたちがあの怪獣を倒してしまったとしたら、魔界は、地獄界は、そして人間界は、その後いったいどうなってしまうのだろう?
「さあ、そこまではなんとも」
邪神が意味ありげに言葉を濁す。
「この手で確かめるしかないか」
アンアンが阿修羅のほうを振り向いた。
「阿修羅、最後の手段、X攻撃だ」
「え、エックス攻撃?」
焦点の合っていなかった阿修羅の瞳が、そのひと言で正気に戻った。
「覚えてるだろう? 魔界幼稚園の運動会で一度披露した、あれだ」
「あの、幼稚園対抗バレーボール大会の…? でもあれは、園長先生に、二度と使うなと固く止められたはず」
「世界が滅びかねないから、と、確かそう叱られたんだっけな」
「そうそう。いくらなんでもヤバすぎるって」
「今こそ、その封印を破る時が来た。エネルギー源であるあたしの肝臓を奪われた今となっては、ラスを救い出し、全世界の消滅を食い止めるためには、もはやあのX攻撃しか残されていないのだ」
「よくわかんないけど、肝心のラスはどこにいるのさ?」
一ノ瀬が途方に暮れたような口調で、横から言った。
「よく見ろ」
アンアンが九頭竜の胸のあたりを指差した。
「あそこに取り込まれているのは、ラスと暗黒皇帝とあたしの肝臓だ」
なるほど、よく見ると、九頭竜の胸に3つの光点がある。
逆三角形の位置で、明るい輝きを放つ3つの点。
あの中のひとつが、ラスだというわけなのか。
「わかったわ」
阿修羅が大きなため息をついた。
「せっかくここまで来たんだし。やりましょうか。X攻撃を」
そして、玉のほうを向き直ると、毅然とした口調で命令した。
「玉、よく聞きなさい。私とアンアンのX攻撃が失敗したら、いよいよあなたの出番です。その時は、核ミサイルの使用を許可しますから、あとのこと、頼みましたよ」
「合点承知の助でえっす!」
背中の楽器ケースを揺すり、場違いに明るい声で、玉が言った。
どこからか声がした。
その声は、僕の膝元から聞こえたようだ。
はあ?
声のほうへと視線を向けて僕は仰天した。
僕の膝枕の上で、アンアンがぱっちり目を開いている。
「ア、アンアン、おまえ、死んだんじゃ…?」
「勝手に殺すな」
アンアンがむくりと起き上がった。
その拍子に、立派なおっぱいが、ぶるんと揺れる。
「ぬっぺっぽうの幹細胞が、新しい肝臓をつくるのを待ってただけさ。肝臓ひとつ抜かれたくらいで、誰が死んだりするものか」
ぬっぺっぽうの、幹細胞…?
そうだった。
アンアンは、アッパーバベルのぬらりひょん民間治療所で、ぬっぺっぽうとぬりかべによる生体維持手術を受けているのだ。
考えてみれば、阿修羅城でのアトラクションで、手足と首をもがれても復活を果たしたアンアンである。
確かにこれしきのことで、死ぬはずがなかったのだ。
うれしくなかったと言ったら、嘘になる。
でも、それならそうと、もっと早く教えてくれればいいのに。
そう、恨み言のひとつも言いたくなるというものだ。
「おお、やっとお目覚めか」
満足げにナイアルラトホテップが、うなずいた。
「王女のおっしゃる通りです。私の故郷、アンダーバベルは、元はといえば、あの九頭竜が見ている夢にすぎないのです。それを確かめたくて、ここまで旅のお供をさせていただいたのですが、やはり思った通りでした」
「アンダーバベルが、あの怪獣の夢?」
アンアンの表情が険しくなる。
「ならば、魔界全体がそうなのではないのか?」
ふたりの会話を聞きながら、僕は彼方にそびえる9本の首を持つ大怪獣のシルエットへと目をやった。
世界を夢見る怪獣…。
もしあれがそうなら、仮にアンアンたちがあの怪獣を倒してしまったとしたら、魔界は、地獄界は、そして人間界は、その後いったいどうなってしまうのだろう?
「さあ、そこまではなんとも」
邪神が意味ありげに言葉を濁す。
「この手で確かめるしかないか」
アンアンが阿修羅のほうを振り向いた。
「阿修羅、最後の手段、X攻撃だ」
「え、エックス攻撃?」
焦点の合っていなかった阿修羅の瞳が、そのひと言で正気に戻った。
「覚えてるだろう? 魔界幼稚園の運動会で一度披露した、あれだ」
「あの、幼稚園対抗バレーボール大会の…? でもあれは、園長先生に、二度と使うなと固く止められたはず」
「世界が滅びかねないから、と、確かそう叱られたんだっけな」
「そうそう。いくらなんでもヤバすぎるって」
「今こそ、その封印を破る時が来た。エネルギー源であるあたしの肝臓を奪われた今となっては、ラスを救い出し、全世界の消滅を食い止めるためには、もはやあのX攻撃しか残されていないのだ」
「よくわかんないけど、肝心のラスはどこにいるのさ?」
一ノ瀬が途方に暮れたような口調で、横から言った。
「よく見ろ」
アンアンが九頭竜の胸のあたりを指差した。
「あそこに取り込まれているのは、ラスと暗黒皇帝とあたしの肝臓だ」
なるほど、よく見ると、九頭竜の胸に3つの光点がある。
逆三角形の位置で、明るい輝きを放つ3つの点。
あの中のひとつが、ラスだというわけなのか。
「わかったわ」
阿修羅が大きなため息をついた。
「せっかくここまで来たんだし。やりましょうか。X攻撃を」
そして、玉のほうを向き直ると、毅然とした口調で命令した。
「玉、よく聞きなさい。私とアンアンのX攻撃が失敗したら、いよいよあなたの出番です。その時は、核ミサイルの使用を許可しますから、あとのこと、頼みましたよ」
「合点承知の助でえっす!」
背中の楽器ケースを揺すり、場違いに明るい声で、玉が言った。
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