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第1章 カロン
#3 アンアン④
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人を見下したような捨て台詞を吐いたくせに、アンアンの食べっぷりといったら、まさに馬並みだった。
僕が買ってきた食料品をあれよあれよという間にあらかた食べ尽くすと、
「あー、食った食った」
と座椅子にふんぞり返った。
「ゴミの割にはうまかったな。特にこれはなかなかいける」
巨乳の下にぽっこり突き出た腹を撫でながら顎で指し示したのは、カップ麺である。
「ゴミで悪かったな」
僕はむっとして言い返した。
アンアンが食べ散らかしたのは、いってみれば日々の僕の主食である。
それをけなされて、気分がいいはずがない。
「腹がふくれたんなら、もう帰れよ。空飛べるんだから、どこへでもいけるだろう?」
「わからんやつだな」
アンアンはまた胡坐をかいて、紙パックのアップルジュースをがぶ飲みしている。
「あたしは家出少女なのだ。空を飛べるかどうかなど、関係ない。それに」
そこまで言って、じろりと僕を見た。
「おまえんち、外から見たら2階建てで結構広いじゃないか。あたしに1階部分を提供するというのはどうだ」
「なんでだよ」
「教えてやろう。実はあたしは、追われている」
「誰に?」
「カロンをはじめとする、6人の魔界の貴族だ。結婚しろだの血の契りを結べだの、うざいことこの上ない」
「おまえ、かぐや姫かよ」
「かぐや姫というのは、この世界の民話のアレだな。まあ、境遇が似ていると言えば、言えなくもない」
「竹取物語を知ってるのか?」
「馬鹿にするな。人間界のことは、魔界に筒抜けなんだよ。受信料タダでNHKの大河や朝ドラも見ていたぞ」
「魔界って、テレビもあるのかよ」
「当然だ。人間の発明したものなど、ほとんど横流しで手に入る」
てことは、おそらく化石燃料や電気の類いもそうなのだろう。
しかし、九州の存在を知らなかったくらいだから、アンアンの知識自体は大したことなさそうだ。
「とにかく魔界の掟では、女は15になると伴侶を選ばなくてはならないのだ。好き嫌いに関係なく。最悪だろ」
「それで家出か」
「まあ、そんなところだ。だから、いくら人間界に逃げてきたとはいえ、そのへんをぶらついていてはやつらに見つかってしまう。とりあえずは第一候補者のカロンがやっかいだ。血の気の多い筋肉馬鹿だからな」
「あのさ」
僕はようやく自分の置かれた立場に思い至った。
「つまり、おまえをかくまってると、その筋肉馬鹿のご一行が、次から次へとここに攻めてくると?」
「見つかったら、そうなるだろうな」
「ま、待てよ。そいつら、何者? 魔界から来るってことは、やっぱり魔物なんだよな?」
「魔族の貴公子たちだ。中にはイケメンもいる」
「やれやれ」
ため息をついた時だった。
「商談成立だな。よし、じゃ、あたしは風呂にでも入ることにする。ちなみにどこが浴室だ?」
よっこらしょと腰を上げるアンアン。
度肝を抜かれたのは、その場でレオタードを脱ぎ出したことである。
「お、おい。待て。おまえ、着換えは?」
「あるわけないだろ? 家出少女なんだから」
レオタードの肩ひもを半ばはずしかけて、アンアンが言う。
「心配するな。もう夏だから裸でいればそのうち乾く」
「お、俺のTシャツ貸すから」
背中を押してユニットバスに押し込み、脱衣所の籠に乾いたTシャツとボクサーパンツを放り込む。
「いいか? 裸のまま出てくるな! そこに着替え置いといたから」
「裸の何が悪い? 面倒なやつだな」
さっそくシャワーの音をさせて、アンアンが言い返してきた。
ふう。
へなへなとその場に座り込んだ時である。
ふいに、流しの方からカサカサという耳慣れぬ音が聞こえてきた。
ちょうど、冷蔵庫のあったあたりである。
何げなく音のほうに目をやって、瞬間、僕は、
うっ。
と、息を呑んだ。
な、なんだ、今度は?
一難去ってないのに、また一難か?
僕が買ってきた食料品をあれよあれよという間にあらかた食べ尽くすと、
「あー、食った食った」
と座椅子にふんぞり返った。
「ゴミの割にはうまかったな。特にこれはなかなかいける」
巨乳の下にぽっこり突き出た腹を撫でながら顎で指し示したのは、カップ麺である。
「ゴミで悪かったな」
僕はむっとして言い返した。
アンアンが食べ散らかしたのは、いってみれば日々の僕の主食である。
それをけなされて、気分がいいはずがない。
「腹がふくれたんなら、もう帰れよ。空飛べるんだから、どこへでもいけるだろう?」
「わからんやつだな」
アンアンはまた胡坐をかいて、紙パックのアップルジュースをがぶ飲みしている。
「あたしは家出少女なのだ。空を飛べるかどうかなど、関係ない。それに」
そこまで言って、じろりと僕を見た。
「おまえんち、外から見たら2階建てで結構広いじゃないか。あたしに1階部分を提供するというのはどうだ」
「なんでだよ」
「教えてやろう。実はあたしは、追われている」
「誰に?」
「カロンをはじめとする、6人の魔界の貴族だ。結婚しろだの血の契りを結べだの、うざいことこの上ない」
「おまえ、かぐや姫かよ」
「かぐや姫というのは、この世界の民話のアレだな。まあ、境遇が似ていると言えば、言えなくもない」
「竹取物語を知ってるのか?」
「馬鹿にするな。人間界のことは、魔界に筒抜けなんだよ。受信料タダでNHKの大河や朝ドラも見ていたぞ」
「魔界って、テレビもあるのかよ」
「当然だ。人間の発明したものなど、ほとんど横流しで手に入る」
てことは、おそらく化石燃料や電気の類いもそうなのだろう。
しかし、九州の存在を知らなかったくらいだから、アンアンの知識自体は大したことなさそうだ。
「とにかく魔界の掟では、女は15になると伴侶を選ばなくてはならないのだ。好き嫌いに関係なく。最悪だろ」
「それで家出か」
「まあ、そんなところだ。だから、いくら人間界に逃げてきたとはいえ、そのへんをぶらついていてはやつらに見つかってしまう。とりあえずは第一候補者のカロンがやっかいだ。血の気の多い筋肉馬鹿だからな」
「あのさ」
僕はようやく自分の置かれた立場に思い至った。
「つまり、おまえをかくまってると、その筋肉馬鹿のご一行が、次から次へとここに攻めてくると?」
「見つかったら、そうなるだろうな」
「ま、待てよ。そいつら、何者? 魔界から来るってことは、やっぱり魔物なんだよな?」
「魔族の貴公子たちだ。中にはイケメンもいる」
「やれやれ」
ため息をついた時だった。
「商談成立だな。よし、じゃ、あたしは風呂にでも入ることにする。ちなみにどこが浴室だ?」
よっこらしょと腰を上げるアンアン。
度肝を抜かれたのは、その場でレオタードを脱ぎ出したことである。
「お、おい。待て。おまえ、着換えは?」
「あるわけないだろ? 家出少女なんだから」
レオタードの肩ひもを半ばはずしかけて、アンアンが言う。
「心配するな。もう夏だから裸でいればそのうち乾く」
「お、俺のTシャツ貸すから」
背中を押してユニットバスに押し込み、脱衣所の籠に乾いたTシャツとボクサーパンツを放り込む。
「いいか? 裸のまま出てくるな! そこに着替え置いといたから」
「裸の何が悪い? 面倒なやつだな」
さっそくシャワーの音をさせて、アンアンが言い返してきた。
ふう。
へなへなとその場に座り込んだ時である。
ふいに、流しの方からカサカサという耳慣れぬ音が聞こえてきた。
ちょうど、冷蔵庫のあったあたりである。
何げなく音のほうに目をやって、瞬間、僕は、
うっ。
と、息を呑んだ。
な、なんだ、今度は?
一難去ってないのに、また一難か?
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