夜通しアンアン

戸影絵麻

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第1章 カロン

#15 襲撃⑥

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 大食漢だとは思ってはいたけど、まさかこれほどとは…。

 というのが、マックで食事を終えた直後の僕の感想だった。

 テーブルの上は、山積みになったゴミ。

 なんとアンアンは、メニューにある全種類のハンバーガーを注文し、ひとりで平らげてしまったのだ。

 かかった時間は、5分ほど。

 正直、早食い世界選手権でも優勝できるほどの記録だろう。

「まあまあだったな」

 3杯目のコーラをがぶがぶ飲み、ゲップをひとつして、満足げにアンアンが言った。

「おまえさ、お金の使い方、間違ってると思う」

 僕はやっとビッグマックをひとつ食べ終えたところだった。

「いくら大金が入ったからって、ふつうそれをマックで使うか?」

「悪いか」

 アンアンは僕の非難もどこ吹く風で、おいしそうにポテトをかじっている。

「前から食べたかったんだから、しょうがない」

「だけど、この金額ならもっとおいしいものが他に…」

「うるさいな。焼肉だの生肉だのは正直魔界で食べ飽きてるんだ。ゆうべ元気がコンビニで買ってきてくれたゴミを食べた時、あたしは気づいたのさ。人間界のジャンクフードは天下一品だって」

「ゴミっていうな。カップ麺や菓子パンは俺の主食だぞ」

「そうだな。悪かった。今ではおまえがうらやましいよ。こんなうまいものを毎日食べられて」

「まあ、焼きゴキブリや生ナメクジよりはましだけど…」

 でも、マックのハンバーガーって、そんなにいくつも食べられるほどうまいだろうか?

「アレはあれで珍味だと思うが」

「あのさ。アンアン、おまえ、きょうから台所に立つの禁止な。食事の支度はすべて俺がやるから」

 おぞましい体験を思い出し、あわてて僕は言った。

「そうか、悪いな」

 アンアンはまた可愛らしくゲップをすると、すっくと立ち上がった。

「よし。腹もくちくなったことだし、買い物に行こう。まずはあたしの服。それから、あれも買わなきゃな」

「あれって?」

「あたしが臨時の通路に利用したあの箱だよ。火山に捨ててきたやつ。なんて言ったっけ?」

「冷蔵庫のことか?」

「そうそれ。代金は全部あたしが持つから心配するな」

 なるほど。確かに冷蔵庫がないのはこの先困る。

「ああ、それから、本当におれんちに住む気なら、インテリアとか小物もそろえた方がいいかもな。1階は使ってないから、廃屋みたいだし。少しは女の子らしい部屋に模様替えしたらどうだ?」

「女の子らしい部屋か」

 アンアンが巨乳の下で腕を組み、眉根を寄せてしかめっ面をした。

「難しいことを言うな、何も考えつかないぞ」

「カーテンやカーペットの色を変えるとかさ、ぬいぐるみをそろえるとかさ」

「ぬいぐるみ? 剥製や木乃伊じゃだめか?」

「自分の部屋をお化け屋敷にしてどうする」

「そうか。それもそうだな。学校に通うとなると、あたしにも同性の友人ができるかもしれないし」

「学校? いつから?」

 聞き捨てならぬひと言に、僕はぽかんと口を開けた。

「明日からに決まってるだろ。今頃はもう手続き済みだ。校長の頭の中にあたしのデータ、送っといたから」

「ど、どこの学校だよ」

 嫌な予感がする。

 そしてその予感は、次の瞬間、アンアンの爽快な笑顔に見事に裏打ちされてしまった。

 ニカッと笑って、アンアンは軽く言ってのけたのだ。

「喜べ。県立若葉台高校だ。しかも、元気と同じ1年1組にしてもらう予定だぞ」


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