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第1章 カロン
#18 襲撃⑨
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なだれを打って走り出す客たちに逆らって、屋上へのエスカレーターを昇る。
自動ドアを抜け、青空の下に飛び出すと、きな臭い匂いがつんと鼻をついた。
遠く、街のほうで、火の手が上がっている。
その煙が、風に乗ってここまで届いてきているのだ。
幸い、ここの屋上には、駐車場とフードコートしかない。
フードコートは建物の中にあって、外には人工芝といくつかのテーブルとイスが並んでいるだけだ。
拡声器が盛んに注意を呼び掛けるので、さすがに人の姿はなかった。
制服のスカートの裾を風になびかせて、アンアンがフェンスのほうへと歩いていく。
髪型はユニークだが、セーラー服姿のアンアンは、けっこうサマになっていた。
魔族だから本当の歳はわからないが、見た目が僕と同じくらいだから、JKとしても十分通用する。
しかも、口を閉じていればかなりエキセントリックでキュートな少女である。
明日、登校したらかなりの騒ぎになるに違いない。
「これ、持っててくれ」
後ろから近づくと、アンアンが服の入った紙袋をいくつか押しつけてきた。
「本当に戦うのか?」
半信半疑で僕はたずねた。
さっきテレビで見たカロンは、とてつもなくでかかった。
周りのビルとの比較からして、身長50メートルはあったのではないかと思う。
そんなゴジラみたいな怪物と、いくら魔族の王女だからって、どうやって戦うつもりなのだろう。
「さっきも言ったが、カロンは単細胞の筋肉馬鹿だから、一度怒ると手がつけられないんだ」
フェンスの網の目を透かして遠くを眺めながら、アンアンが言う。
バタバタと音がするのは上空をヘリコプターが飛んでいるからで、その音でともすれば会話が消されそうになる。
「でも、元はと言えば、あれはおまえの許婚みたいなものなんだろう? 話し合いでなんとかならないのか?」
「考えがないこともないが、まあ、可能性は低いだろうな。だめならこの手で魔界に送り返すまで」
「しかし、でかいな。魔界の住人って、みんなああなのか?」
「タイプによるが、巨大化は朝飯前だな。ただ、エネルギーの消費が激しいんで、そう長くはもたないが」
「もたないって、どのくらい?」
「こっちの時間で24時間くらいだろう。明日の朝にはカロンも等身大に戻るはず」
「24時間あれば、日本は滅ぶと思うけど…」
「まあな。あれを放ってけば、そうなるな」
アンアンが気のない返事を返してきた時、風で薄れた黒煙の向こうに、それが見えた。
高速道路の高架をなぎ倒しながら進撃してくる、真っ黒な巨人。
その足元で、まるで紙細工のように家や車が踏みつぶされていく。
「来た」
僕はつぶやいた。
恐怖で声が震えるのが分かった。
「逃げるな」
短く、アンアンが言った。
「元気、おまえには、手伝ってもらわなきゃならないことがある」
自動ドアを抜け、青空の下に飛び出すと、きな臭い匂いがつんと鼻をついた。
遠く、街のほうで、火の手が上がっている。
その煙が、風に乗ってここまで届いてきているのだ。
幸い、ここの屋上には、駐車場とフードコートしかない。
フードコートは建物の中にあって、外には人工芝といくつかのテーブルとイスが並んでいるだけだ。
拡声器が盛んに注意を呼び掛けるので、さすがに人の姿はなかった。
制服のスカートの裾を風になびかせて、アンアンがフェンスのほうへと歩いていく。
髪型はユニークだが、セーラー服姿のアンアンは、けっこうサマになっていた。
魔族だから本当の歳はわからないが、見た目が僕と同じくらいだから、JKとしても十分通用する。
しかも、口を閉じていればかなりエキセントリックでキュートな少女である。
明日、登校したらかなりの騒ぎになるに違いない。
「これ、持っててくれ」
後ろから近づくと、アンアンが服の入った紙袋をいくつか押しつけてきた。
「本当に戦うのか?」
半信半疑で僕はたずねた。
さっきテレビで見たカロンは、とてつもなくでかかった。
周りのビルとの比較からして、身長50メートルはあったのではないかと思う。
そんなゴジラみたいな怪物と、いくら魔族の王女だからって、どうやって戦うつもりなのだろう。
「さっきも言ったが、カロンは単細胞の筋肉馬鹿だから、一度怒ると手がつけられないんだ」
フェンスの網の目を透かして遠くを眺めながら、アンアンが言う。
バタバタと音がするのは上空をヘリコプターが飛んでいるからで、その音でともすれば会話が消されそうになる。
「でも、元はと言えば、あれはおまえの許婚みたいなものなんだろう? 話し合いでなんとかならないのか?」
「考えがないこともないが、まあ、可能性は低いだろうな。だめならこの手で魔界に送り返すまで」
「しかし、でかいな。魔界の住人って、みんなああなのか?」
「タイプによるが、巨大化は朝飯前だな。ただ、エネルギーの消費が激しいんで、そう長くはもたないが」
「もたないって、どのくらい?」
「こっちの時間で24時間くらいだろう。明日の朝にはカロンも等身大に戻るはず」
「24時間あれば、日本は滅ぶと思うけど…」
「まあな。あれを放ってけば、そうなるな」
アンアンが気のない返事を返してきた時、風で薄れた黒煙の向こうに、それが見えた。
高速道路の高架をなぎ倒しながら進撃してくる、真っ黒な巨人。
その足元で、まるで紙細工のように家や車が踏みつぶされていく。
「来た」
僕はつぶやいた。
恐怖で声が震えるのが分かった。
「逃げるな」
短く、アンアンが言った。
「元気、おまえには、手伝ってもらわなきゃならないことがある」
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