夜通しアンアン

第1章 カロン

#18 襲撃⑩

　青空に、銀色の機体が光る。

　ローターの騒音が、接近してきた。

　頭上を旋回するヘリコプターが、どうやら僕らを見つけたようだ。

　－そこのふたり、大至急避難してください。まもなく、自衛隊による攻撃が始まります。繰り返します。そこのふたりー

「自衛隊って、防衛出動かよ」

　僕はぼやいた。

「怪獣映画でも、もう少し出動に時間がかかってたけど」

　閣議とか開かなくていいのかよ。
　
　臨時国会とかさ。

「人間から見て怪物ってのは、害獣と同じ。山から現れたヒグマ退治と同じ感覚なんだろう」

　忌々しげに縁を眼で追いながら、アンアンが言う。

「しかし、うっとーしいな。あたしが避難したら被害がよけい広がるっつうの」

　－仕方ありません。これから救助に向かいます。しばらくそこを動かないでくださいー

　かなり近づいてきたと思ったら、今度はそんなことを言ってきた。

　なんでもいいけど、バタバタとかなりうるさいんだけど。

「こっちくんなって。どうなっても知らねーぞ」

　アンアンが怒ったようにつぶやいた時、それが起こった。

　突然何かが飛来したかと思うと、空中でヘリが真っ二つにへし折れたのである。

「ほら、いわんこっちゃない」

　とアンアン。

「何だあ？」

　僕は唖然と空を見上げた。

　ムチみたいなものが宙で蠢いている。

　あれがヘリを叩き落とした張本人だ。

「わからないか？」

　アンアンが僕を見た。

「あれはカロンの尻尾だよ。あいつの尻尾は長いんだ」

「尻尾？」

　じゃ、本体はどこだ？

　さっきまでかなり遠くで暴れていたのに、いつのまにか姿が見えなくなってるぞ？

　と思った時である。

　グラグラと地面が揺れた。

　眼下で停車中の車の列が持ち上がり、次々にひっくり返る。

　だしぬけに、向かい側のビルが崩れ始めた。

　地中から何か巨大なものが出てくるのだ。

　僕らのいる屋上に巨大な影が落ちた。

　そして、割れ鐘のような声が轟いた。

「ここにいたのか、アンアン。ずいぶん探したぞ」

「ちぇ」

　アンアンが舌打ちをする。

「どこから出てきやがるんだ。カロン。おまえはモグラかよ」