夜通しアンアン

戸影絵麻

文字の大きさ

大中小

41 / 249

第3章　阿修羅王

#2　アンアン、ランジェリーを購入する

しおりを挟む

　というわけで、またイオンである。
　
　まず、フードコートのマクドナルドで、朝食だ。

　アンアンは当然のように全メニューを注文し、テーブルにずらりと並べ、ぺろりと食べた。

　どこかのユーチュ－バーみたいに、注文するだけ注文し、動画だけ撮影して食べないで残す、なんて姑息なことは、絶対にしない。

　全部食べてしまうから、その点はえらい。

　だけど、その後のランジェリーショップ・ツアーには、閉口せざるを得なかった。

　店内にあふれ返る女性用下着。

　男は僕ひとり。

　目のやり場にも困るし、第一不審者そのものだ。

「どれがいい？　元気にも選ばせてやるから、遠慮なく言ってくれ」

「なんでもいいよ、その巨乳が隠れるなら」
　
　ブラを盗まれたせいで、きょうのアンアンはノーブラである。

　白いタンクトップの胸がありえないほど丸く盛り上がり、そのてっぺんに見えてはいけないものが透けて見えている。

　結局、アンアンは山のように下着を購入し、その紙袋を僕が持つはめに陥った。

　そして次は水着である。

「ビキニがいいかハイレグがいいか、元気ならどっちにする？」

「ビキニはこの前、体育の授業で着てたやつがあるじゃないか」

「あれじゃ、少しセクシーさが不足しているだろ？　レジャーなんだから、もっとハジケないと」

「十分弾けてると思うぞ。特に胸と尻のところなんか」

「まあいい。両方買うことにしよう。家に帰ったら、さっそく着てみせてやる」

　正直言って、やめてほしい。

　僕だって、少しは心の落ち着く生活がしたいのだ。

　これ以上、煩悩に悩まされるにはこりごりだ。

「喉が渇いた。屋上で何か飲もう」

「あんなにマック、食うからだよ」

　エスカレーターで屋上に上がった時である。

　制服姿の少女がひとり、不良たちに絡まれているのが目に入ってきた。
　
「あれ、うちの学校の制服じゃ」

　言いかけた時には、すでにアンアンは歩き出していた。

　まずい。

　アンアンが人間を相手にしたら、いくら不良でも、相手が可哀想すぎる。

「ま、待てよ」

　止めようとした、その瞬間だった。

　4人の不良に取り囲まれていた少女の姿が、一瞬ぶれ、ふとかき消すように見えなくなった。
　
「ぎゃあ！」

「ぐええ！」　
　
　悲鳴を上げて倒れ伏したのは、不良たちのほうである。

　少女の姿が現れた。

　浅黒い肌の、彫りの深い顔立ちをした美少女だ。

「お、おまえ」

　その手前で立ち止まり、信じられないといった口調で、アンアンがつぶやくのが聞こえてきた。

「阿修羅じゃないか」

　

しおりを挟む