夜通しアンアン

戸影絵麻

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第3章 阿修羅王

#7 アンアン、無茶をする

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「どうする?」
 そう言ったのは、僕でも一ノ瀬でもなく、阿修羅だった。
「一度屍人ウィルスに感染した者は、元には戻せないよ。これ以上被害を広げたくなかったら」
「殲滅するしかないということか」
「だね。手伝おうか?」
 ぶっそうな会話である。
 このふたりの会話は、ノー天気なJKのそれとはレベルが違うのだ。
 殲滅?
 もしかして、ふたりであのゾンビたちを?
「阿修羅、おまえ、何を企んでる?」
 が、アンアンも僕と同じ疑問を抱いていたようだ。
 すぐには首を縦に振らず、セーラー服の美少女を疑わしげにねめつけた。
「魔界の住人があたしの味方して、どうするんだ? あたしは故郷を捨てた身だぞ。親父に知れたらおまえもただじゃ済まないと思うが」
「そんときはそんときのことよ。それより私も楽しみたいの。萌え萌えの人間界の青春ってやつを」
 あの、人間界の青春には、ゾンビ殲滅はふつう入っていないんだけど。
「嘘臭いが、まあ、いいだろう、じゃ、とにかく、やるか」
 半信半疑といった感じで、アンアンが中途半端なうなずき方をする。
「密集し過ぎてるね。まず、店の中に居る連中を、外に誘き出さないと」
「そうだな。どんな方法がある?」
「こういうのはどう?」
 阿修羅がいきなり一ノ瀬の腕をつかんで、引き寄せた。
「囮を使うの。こいつを餌に、やつらを一か所に引き寄せる」
「え? 何? ふたりとも、何の話してるの? わ、や、やめ」
 ふたりの美少女の手で、たちまち裸に剥かれる一ノ瀬。
 股間を両手で押さえて、ぴょんぴょん飛び跳ねている。
 かわいそうだが、まあ、僕が囮にされるよりはマシだろう。
「キスしてあげる」
 阿修羅が言い、だしぬけに一ノ瀬の首にかみついた。
「ぎゃああつ!」
 悲鳴とともに、血がしぶく。
 一ノ瀬が悲鳴を上げたのも、無理はない。
 それはキスなどという生易しいものではなかった。
 阿修羅が一気に一ノ瀬の首の皮膚を食いちぎったのだ。
「動脈は逸れてるから心配ないよ」
 血をたらたら流している一ノ瀬に向かい、にっこり笑ってみせる。
「じゃ、行ってらっしゃい」
「え? 行くって、どこに? うわああああ!」
 疑問が途中から悲鳴に変わったのは、アンアンが一ノ瀬の腕を取るや否や、ハンマー投げの要領で振り回したからである。
「てーっ!」
 真っ裸のまま、すっ飛んでいく一ノ瀬。
 アンアンの怪力にかかっては、体重60キロに満たない一ノ瀬など、枯れ木同然だ。
 スーパーの前に群がるゾンビの群れの手前にぼとんと落ちると、蛙のように大の字になってひっくり返る。
 グワアアアアッ。
 ゾンビたちが一斉に振り向いたのは、血の臭いをかぎつけたからにちがいない。
「行くぞ、阿修羅」
 それを合図に、アンアンがジャンプした。
「あいよ!」
 続いて阿修羅も大ジャンプ。
 素晴らしい。
 美少女ふたりのパンチラ2連発。
 スーパーの入口から、ゾンビの大群があふれ出してきた。
 その数、ざっと百人。
 そして、死闘が始まった。


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