夜通しアンアン

戸影絵麻

文字の大きさ
76 / 249
第4章 海底原人

#12 アンアンと流水プール①

しおりを挟む
 展望レストランで食事を摂ると、いよいよプールである。
 2階に下りると、オルカショーの会場にはもう警察が来ていて、さっそく立ち入り禁止テープが張られていた。
「ダゴンのやつ、水に溶けて今度はどこへ行ったんだろう」
 ものものしい警備の様子を横目で見ながら、アンアンが言う。
「じきにわかるよ」
 阿修羅がくすくす笑った。
「だってあいつの目的って言ったら、もう決まりだもんね」
「くそ。今度こそとっちめてやる」
 敵に二度も逃げられたせいで、アンアンは機嫌が悪そうだ。

 いったん外に出て、今度はプール側のゲートに並ぶ。
 一ノ瀬の買ったチケットは、プールの分もセットになっているので、係員に見せるだけで通ることができた。
 高くなった夏の日差しを浴びて、青く澄んだ水と真っ白なプールサイドが見渡す限り広がっている。
 さすが中部地方最大級の流水プールだけあって、そこらのプールとはスケールの大きさが違う。
 昼近いせいで、客の入りも上々のようだ。
 家族連れやカップルよりも、女子大生っぽい若い女性グループのカラフルな水着姿が目立つ。
「いいね、いいね、こりゃ、まさに酒池肉林、パノラマ島奇談だぜ」
 更衣室で着換えを済ませ、シャワーを浴びてプールサイドに出ると、鼻の下を伸ばして一ノ瀬が言った。
「おまえ、その形容、間違ってないか」
 そうたしなめておいて、僕は一ノ瀬に100均で買っておいた耳栓を渡した。
「なんだこれ?」
 耳栓をためつすがめつして、一ノ瀬が首をかしげる。
「悪いことは言わない。それを鼻に詰めるんだ」
「鼻?」
 僕のアドバイスが通じないのか、一ノ瀬はけげんそうな顔をするばかりだ。
「俺、別にシンクロの練習に来たんじゃないけど?」
「馬鹿。鼻血予防だよ。今からアンアンがおでましになる。あの恰好を見たら、おまえは絶対鼻血ブーだ」
「鼻血ブー? 元気、おまえ、何歳だよ?」
「いいから、だまされたと思って」
 そこに、アンアンのよく通る声が降ってきた。
「何が、だまされたと思って、なんだ?」
 振り向いた一ノ瀬が、
「あひいっ」
 情けない声を上げて、昏倒した。
 更衣室から現れたアンアンは、まるで地獄からやってきた赤い淫魔だった。
 例のボンテージ風ひも水着で縛り上げられたダイナマイトバデイが、夏の日差しを跳ね返して燦然と光り輝いている。
 その後ろから登場した阿修羅も、それに劣らぬセクシークィーンぶりだった。
 メリハリの効いた小麦色のボディに、面積のちっちゃい真っ白な三角ビキニがめちゃくちゃよく似合っている。
 ただ、その更に現れた玉を見るなり、勃起しかけた僕の分身は急速に萎えた。
 玉は大正時代の女性が着たような、横縞模様の囚人服みたいなものを着こんでいる。
 今時どこにも売っていないだろうと思われる、世にも珍しいデザインの水着である。
 いや、水着というより、もはや寝間着と言い換えたほうがいいかもしれない。
 頭にかぶっているのも、水泳帽ではなく、ナイトキャップではないのか。
 それに、なんでまだあれを背負っているのだ?
 自分の背丈と同じ長さの楽器ケース。
「どうだ、元気? あたしと阿修羅、どっちがセクシーだ?」
 ポーズをつくって見せながら、アンアンが史上最大の難問を出してきた。
「わたしに決まってるよね? アンアンって最近ちょっと太り気味だし」
 柔軟体操をしつつ、阿修羅が恐ろしいことを平気で口にした。
「なんだと?」
 一色触発の緊迫した空気が流れた。
 それを破ったのは、鼻血まみれで昏倒していた一ノ瀬だ。
「ふたりとも最高だよ。甲乙つけがたい言葉、こういう時のためにあるんだね」
 のっそり起き上がると、鼻の下を更に10センチほど伸ばして、そう言った。
「おまえには訊いていない」
「右に同じ」
「これ持ってな」
「わたしのも」
 バスタオルを一ノ瀬の頭にかけ、プールに向かって歩き出す美女ふたり。
「お、おい、ちょっと、ふたりとも」
 その背中に向かって、一ノ瀬が悔しそうに叫んだ。
「ちぇ、バスタオルに鼻血がついても、知らないぞ!」
 



しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

女子切腹同好会

しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。 はたして、彼女の行き着く先は・・・。 この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。 また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。 マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。 世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。

【完結】知られてはいけない

ひなこ
ホラー
中学一年の女子・遠野莉々亜(とおの・りりあ)は、黒い封筒を開けたせいで仮想空間の学校へ閉じ込められる。 他にも中一から中三の男女十五人が同じように誘拐されて、現実世界に帰る一人になるために戦わなければならない。 登録させられた「あなたの大切なものは?」を、互いにバトルで当てあって相手の票を集めるデスゲーム。 勝ち残りと友情を天秤にかけて、ゲームは進んでいく。 一つ年上の男子・加川準(かがわ・じゅん)は敵か味方か?莉々亜は果たして、元の世界へ帰ることができるのか? 心理戦が飛び交う、四日間の戦いの物語。 (第二回きずな児童書大賞で奨励賞を受賞しました)

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

OLサラリーマン

廣瀬純七
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

月弥総合病院

僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

処理中です...