夜通しアンアン

戸影絵麻

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第5章 見えない侵略者

#6 イケメン阿修羅

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 こうして、アンアンに代わり、阿修羅と僕の共同生活が始まった。
 といっても、色恋沙汰に発展したわけではない。
 やっぱりあれは計画的犯行だったらしく、アンアンが出ていくと阿修羅は僕をダーリンと呼ばなくなった。
 いや、それどころか、男になった。
 阿修羅の第2人格が現われたのである。
 アンアン家出の翌日、僕と阿修羅は1階のキッチンテーブルをはさんで向かい合っていた。
 テーブルの上にはポテトチップスとコーラ。
 ちょうど、夕食代わりに宅配で頼んだピザを食べ終えたところだった。
 ちなみに阿修羅は、予想通り、男になると、超がつくほどのイケメンである。
 ジャ〇ーズも青ざめるほどの美少年、といったらいいだろうか。
 こんなのが学校に現れたら、全校の女子が発狂するのではないかと思えるほどのかっこよさだ。
 ただ幸い、僕は男に興味はないので、いくら美形がひとつ屋根の下に居ても、BL的展開には陥らなかった。
 むしろ、美少女阿修羅と一緒にいるより、こっちのほうが精神的に楽だという気がした。
「いやはや、まさかねえ、アンアンがあんなに過激に反応するとは、ちょっとばかり、想定外だったな」
 ポテチをぽりぽりかじりながら、けだるそうな口調で阿修羅がぼやいた。
「って、おまえ、いったい全体、何するつもりだったんだよ?」
 いまだ腹立ちが収まらぬ僕は、この長髪の美少年に食ってかかった。
 この日、僕らは朝から晩まで、足を棒にしてアンアンを探し歩いていたのである。
「いや、だからさ、おまえと恋仲になったとみせかけてアンアンにショックを与え、失恋で沈んでいるところに男に変身した俺がやさしい言葉をかけて篭絡する、とまあ、こういう手はずだったんだがな」
 ぽりぽりと頭をかきながら、阿修羅が弁解した。
「はあ? そんな一人二役がばれないで通用すると思ってたのか? おまえ、男になっても、どう見たって阿修羅のままじゃないか。そんな計画、うまくいくはずがないって」
「そうか? そんなはずないんだけどな。まあ、見てろ。どっちがアンアンを見つけるか、早いもの勝ちだ。今のアンアンは、おそらく愛に飢えている。俺のこの美貌とやさしさに触れれば、もうイチコロだろうよ」
「勝手にしろよ。俺は俺で、アンアンを探すから」
「探してどうする? アンアンはおまえに裏切られたと思い込んでるぞ。あれであいつは古風な女なんだ。しかも頑固で思い込みが強い。おまえを許す可能性は100パーセントないと見ていい」
「なんだと? だいたい、誰のせいでそうなったと思ってるんだよ!」
「俺のせい、といいたいのか? そうかな? もともとおまえがアンアンを放置してたのが悪いんじゃないか? 同じ家で1か月も一緒に暮らしながら、キスもろくにしてもらえなかったら、そりゃ、女は嫌われてると思うんじゃないかな?」
 さすがイケメンだけあって、阿修羅は口の減らないやつだった。
 顔でも足の長さでも討論でも負けた僕は、もう、引き下がらざるを得なかった。
 が、意外だったのは、阿修羅の次のひと言である。
「まあ、アンアンのことも気になるが、それより元気、ひとつまずいことがある」
「まずいこと? これ以上、何が?」
「6番目の候補者が、こっちの世界に来ている」
 深刻な表情で、仰天するようなスクープを口にする阿修羅。
「なんだって?」
 僕は目を剥いた。
 アンアンの6人の花婿候補のうち、阿修羅は5番目である。
 そうだ。
 考えてみれば、阿修羅のあとに、もうひとり残っているわけだ。
「事態がなかなか進まないので、どうやら業を煮やしたらしい」
「どうしてわかるんだ? おまえを差し置いて、その、6番目がこっちに来てるってことが?」
「実は今朝のことだ。俺の女物パンティが全部盗まれた」
 真面目な顔で、阿修羅が言った。
「100枚のパンティが、一夜にして消えたのだ。だから俺は、男にならざるを得なかった」
「はあ? それが、なんで?」
 僕はあっけにとられた。
「前にもアンアンのブラがなくなったことがある。大方,下着泥棒の仕業だろう」
「100枚一度というのは、プロでも無理だ。俺は眠りが浅いからな。だからこれは間違いなく、あいつからの挑戦状なんだ」
「あいつって?」
 阿修羅が冷徹な目で僕を見た。
「そうだ。聞いて驚くな。アンアンの6番目の花婿候補者。その名は」
「その名は?」
「一寸法師だよ」





 
 
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