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第6章 アンアン魔界行
#24 アンアン、百鬼夜行⑮
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「ねえ、アンアン、あたし、今、とっても嫌な予感がしてるんだけどさ」
半開きになった鋼鉄の扉を前にして、阿修羅が言った。
僕らが今立っているのは、シャフトの敷地の門の前である。
「閂も鍵も、内側からねじ切られてるって、これ、いったいどういうこと?」
魔界の常として、階層を行き来する最重要設備であるにもかかわらず、シャフトのセキュリティはひどく原始的なものだ。
コンクリートのブロック塀と頑丈な鋼鉄の扉。
それだけなのである。
その扉が、なぜか内側から強い力を加えられたように捻じ曲がって、半ば開いている。
「確かに変だな。詰め所にガーディアンの姿もない。何が起こってる?」
凛々しい眉を吊り上げて、アンアンが言う。
扉の隙間から中に入ると、広場のあちこちに人が倒れていた。
中世ヨーロッパの騎士みたいな甲冑をつけた、大柄な男たちである。
全員、喉首を掻き切られて血を流し、絶命しているようだ。
「ガーディアンだよ。全滅してるね」
阿修羅が油断なく周囲を見回した。
右手に握っているのは、あの如意棒みたいに伸縮自在の武器、独鈷だった。
「誰がやったんだ。悪ふざけにもほどがある」
アンアンが怒りのにじむ声で言った時、かすかに地面が震え始めた。
何か、大きな機械の動くような音。
「あの、エレベーターが、動いてるみたいなんですけど」
今にも逃げ出しそうなへっぴり腰で、一ノ瀬がシャフトのほうを指さした。
「そんなバカな。シャフトの定期運航は1日1回。正午だけのはず。今はその時間じゃない」
アンアンの顔に驚愕の色が浮かんだ。
でも、現実は、一ノ瀬の言う通りだった。
シャフトの巨大な鋼鉄のシリンダーが震え、扉の上にある階数表示が変わり始めている。
4
3
2
と、順番に上がってきているのだ。
やがて電光掲示が「1」を示すと、空気の抜けたような音が響いて、大地の揺れが収まった。
軋みを上げて、シャフトの扉が両側に開き始めると、低い声でアンアンが叫んだ。
「来るぞ。元気と蚊トンボは下がってろ」
「来るって、何が?」
がしゃん。
ブー。
扉が開いた。
ぎらりと何かが陽光を反射した。
黒ずくめの人影が、中から姿を現した。
フードをかぶった異様な風体の人物だ。
「きゃーはははははっ」
歩み出ると、怪人が哄笑した。
ローブみたいな衣装の袖から出ている手は、なんと、指がすべて刃物になっている。
さっき光ったのは、これだったのだ。
「きさま、羅刹だな?」
アンアンが、歯ぎしりするような口調で誰何した。
「そのとーり」
怪人が妙に甲高い声で答えた。
「きしししし、よおくわかったわねえ、えらいわあー、さっすが、アンアン王女様」
半開きになった鋼鉄の扉を前にして、阿修羅が言った。
僕らが今立っているのは、シャフトの敷地の門の前である。
「閂も鍵も、内側からねじ切られてるって、これ、いったいどういうこと?」
魔界の常として、階層を行き来する最重要設備であるにもかかわらず、シャフトのセキュリティはひどく原始的なものだ。
コンクリートのブロック塀と頑丈な鋼鉄の扉。
それだけなのである。
その扉が、なぜか内側から強い力を加えられたように捻じ曲がって、半ば開いている。
「確かに変だな。詰め所にガーディアンの姿もない。何が起こってる?」
凛々しい眉を吊り上げて、アンアンが言う。
扉の隙間から中に入ると、広場のあちこちに人が倒れていた。
中世ヨーロッパの騎士みたいな甲冑をつけた、大柄な男たちである。
全員、喉首を掻き切られて血を流し、絶命しているようだ。
「ガーディアンだよ。全滅してるね」
阿修羅が油断なく周囲を見回した。
右手に握っているのは、あの如意棒みたいに伸縮自在の武器、独鈷だった。
「誰がやったんだ。悪ふざけにもほどがある」
アンアンが怒りのにじむ声で言った時、かすかに地面が震え始めた。
何か、大きな機械の動くような音。
「あの、エレベーターが、動いてるみたいなんですけど」
今にも逃げ出しそうなへっぴり腰で、一ノ瀬がシャフトのほうを指さした。
「そんなバカな。シャフトの定期運航は1日1回。正午だけのはず。今はその時間じゃない」
アンアンの顔に驚愕の色が浮かんだ。
でも、現実は、一ノ瀬の言う通りだった。
シャフトの巨大な鋼鉄のシリンダーが震え、扉の上にある階数表示が変わり始めている。
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と、順番に上がってきているのだ。
やがて電光掲示が「1」を示すと、空気の抜けたような音が響いて、大地の揺れが収まった。
軋みを上げて、シャフトの扉が両側に開き始めると、低い声でアンアンが叫んだ。
「来るぞ。元気と蚊トンボは下がってろ」
「来るって、何が?」
がしゃん。
ブー。
扉が開いた。
ぎらりと何かが陽光を反射した。
黒ずくめの人影が、中から姿を現した。
フードをかぶった異様な風体の人物だ。
「きゃーはははははっ」
歩み出ると、怪人が哄笑した。
ローブみたいな衣装の袖から出ている手は、なんと、指がすべて刃物になっている。
さっき光ったのは、これだったのだ。
「きさま、羅刹だな?」
アンアンが、歯ぎしりするような口調で誰何した。
「そのとーり」
怪人が妙に甲高い声で答えた。
「きしししし、よおくわかったわねえ、えらいわあー、さっすが、アンアン王女様」
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