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第6章 アンアン魔界行
#25 アンアン、百鬼夜行⑯
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怪人が、がばっとローブを脱ぎ捨てた。
「うひょ?」
一ノ瀬が変てこな声を上げたのには、理由がある。
その下から現れたのは、ボンテージ風衣装を身にまとった、豊満な熟女だったからである。
額に角が2本あり、口が耳まで裂けていることを除けば、なかなかのダイナマイトバディの持ち主だ。
「まあ、あたいはホントいうと、羅刹女のほうなんだけどね」
両手の刃物をジャラジャラ鳴らして、熟女、いや、自称羅刹女が言った。
そもそも羅刹というのは、地獄の獄卒のことだったはず。
確か、夜叉と並んで、毘沙門天か何かに仕えてるのではなかっただろうか。
てことは、羅刹女の後ろから出てきたのは…。
「夜叉。おまえまで」
羅刹女と並んで立ったのは、これまた豊満を絵に描いたような熟女である。
こちらは胸と腰に金属製のビキニアーマーを装着し、両手に剣をぶら下げている。
「ふっふっふ、アンアン王女。おひさじゃないか。おや、そこにいるのは、阿修羅かい? なんだい、その真っ黒な顔は。それじゃあ、せっかくの魔界のいくさ乙女の美貌も、カタナシだねえ」
この色気むんむんのしゃべり方はどうだ。
これじゃ、まるで魔界の〇〇姉妹じゃないか。
熟女好きの一ノ瀬が興奮するはずである。
節操のないやつのことだから、放っておくと、敵にサインをもらいに行きかねない。
「ちょいとハワイで焼き過ぎただけさ。余計なお世話だ、この色年増。おまえら地獄のババア連合が、魔界にいったい何の用だ?」
威勢よく啖呵を切ったのは、独鈷を構えた阿修羅である。
この口ぶりは、第三のペルソナの現れる予兆とみた。
「ババアはあんまりじゃないかい、阿修羅王。せめて美魔女といってほしいよねえ」
「そうだねえ。ついこの間までおねしょしてた小娘に言われたかないねえ」
くすくす笑うふたりの自称美魔女たち。
どっちも顔は怖いから、『美』は要らないと思うのだが。
その隙に、アンアンが背中のリュックに手を伸ばし、前を見たまま中を探った。
抜き出した右手にはまっているのは、数珠を巻いたような黒光りするナックルだ。
数珠の玉のひとつひとつに鋭い棘が生えている。
おお。
僕は瞠目した。
始めて見るアンアンの武器だった。
これまで彼女の武器と言えば素手と素足だけだったのだが、相手が武装しているから、これはこれで十分アリに違いない。
「何の用って、麒麟が手に入った以上、魔界はもうあたしたちのものって決まったようなものなんだよ。それに、知ってるだろ? 昨年の格闘技選手権。優勝者はうちの前鬼後鬼。もう、魔人も魔族もお呼びじゃないんだよ」
「そうそう、それにね、ちょうどよかったよ。あたいら、麒麟の次は、アンアン王女、あんたを生きたまま連れて来いって言われてたところでさあ。なんでも閻魔様、あんたの生肝が欲しいんだって。人間界まで出向いて探す手間が省けたってもんだよ」
前者が夜叉、後者が羅刹女の台詞である。
このふたり、姉妹のように雰囲気がそっくりなのだ。
「ラスを返せ」
ファイティングポーズを決めて、アンアンが言った。
「誰があんたらババアの言いなりになんてなるもんか」
阿修羅も珍しく怒っている。
お互いエロいのは共通しているのだが、これが世代間ギャップというものなのか、2組の女戦士たちの間にわだかまるのは、肌がぴりぴりするほどの憎悪の波動だ。
「まあまあ、みなさん、ここは穏便に話し合いで済ませましょうや」
揉み手をしながら歩み出ようとした一ノ瀬の襟首を、やにわに阿修羅がむんずとつかんだ。
「虫けらは引っ込んでろ」
ゴミでも放るように、ぽいと肩越しに投げ捨てる。
「あひゃあ、お助けを!」
近くにあったゴミ集積場に頭から突っ込み、たちまち八墓村状態になる一ノ瀬。
「ま、時間もないことだし、力づくでいただくとするかねえ」
鋭利な刃物と化した10本の指をじゃらつかせ、羅刹女が一歩前に進み出た。
「だよねえ。美容体操にもなって、ちょうどいいかもねえ」
2本の剣をしゃりしゃりこすり合わせながら、その後から夜叉がゆっくりと歩み出る。
「来い」
アンアンが言った。
「ぶっ殺す」
阿修羅がすごむ。
くわばらくわばら。
僕はこそこそと一ノ瀬のところまで退却した。
怒った女性は怖い。
しかも4人とも、ただの女ではない。
魔界美少女ペアVS地獄美魔女姉妹の壮絶な戦いが、今まさに始まろうとしているのだ。
「うひょ?」
一ノ瀬が変てこな声を上げたのには、理由がある。
その下から現れたのは、ボンテージ風衣装を身にまとった、豊満な熟女だったからである。
額に角が2本あり、口が耳まで裂けていることを除けば、なかなかのダイナマイトバディの持ち主だ。
「まあ、あたいはホントいうと、羅刹女のほうなんだけどね」
両手の刃物をジャラジャラ鳴らして、熟女、いや、自称羅刹女が言った。
そもそも羅刹というのは、地獄の獄卒のことだったはず。
確か、夜叉と並んで、毘沙門天か何かに仕えてるのではなかっただろうか。
てことは、羅刹女の後ろから出てきたのは…。
「夜叉。おまえまで」
羅刹女と並んで立ったのは、これまた豊満を絵に描いたような熟女である。
こちらは胸と腰に金属製のビキニアーマーを装着し、両手に剣をぶら下げている。
「ふっふっふ、アンアン王女。おひさじゃないか。おや、そこにいるのは、阿修羅かい? なんだい、その真っ黒な顔は。それじゃあ、せっかくの魔界のいくさ乙女の美貌も、カタナシだねえ」
この色気むんむんのしゃべり方はどうだ。
これじゃ、まるで魔界の〇〇姉妹じゃないか。
熟女好きの一ノ瀬が興奮するはずである。
節操のないやつのことだから、放っておくと、敵にサインをもらいに行きかねない。
「ちょいとハワイで焼き過ぎただけさ。余計なお世話だ、この色年増。おまえら地獄のババア連合が、魔界にいったい何の用だ?」
威勢よく啖呵を切ったのは、独鈷を構えた阿修羅である。
この口ぶりは、第三のペルソナの現れる予兆とみた。
「ババアはあんまりじゃないかい、阿修羅王。せめて美魔女といってほしいよねえ」
「そうだねえ。ついこの間までおねしょしてた小娘に言われたかないねえ」
くすくす笑うふたりの自称美魔女たち。
どっちも顔は怖いから、『美』は要らないと思うのだが。
その隙に、アンアンが背中のリュックに手を伸ばし、前を見たまま中を探った。
抜き出した右手にはまっているのは、数珠を巻いたような黒光りするナックルだ。
数珠の玉のひとつひとつに鋭い棘が生えている。
おお。
僕は瞠目した。
始めて見るアンアンの武器だった。
これまで彼女の武器と言えば素手と素足だけだったのだが、相手が武装しているから、これはこれで十分アリに違いない。
「何の用って、麒麟が手に入った以上、魔界はもうあたしたちのものって決まったようなものなんだよ。それに、知ってるだろ? 昨年の格闘技選手権。優勝者はうちの前鬼後鬼。もう、魔人も魔族もお呼びじゃないんだよ」
「そうそう、それにね、ちょうどよかったよ。あたいら、麒麟の次は、アンアン王女、あんたを生きたまま連れて来いって言われてたところでさあ。なんでも閻魔様、あんたの生肝が欲しいんだって。人間界まで出向いて探す手間が省けたってもんだよ」
前者が夜叉、後者が羅刹女の台詞である。
このふたり、姉妹のように雰囲気がそっくりなのだ。
「ラスを返せ」
ファイティングポーズを決めて、アンアンが言った。
「誰があんたらババアの言いなりになんてなるもんか」
阿修羅も珍しく怒っている。
お互いエロいのは共通しているのだが、これが世代間ギャップというものなのか、2組の女戦士たちの間にわだかまるのは、肌がぴりぴりするほどの憎悪の波動だ。
「まあまあ、みなさん、ここは穏便に話し合いで済ませましょうや」
揉み手をしながら歩み出ようとした一ノ瀬の襟首を、やにわに阿修羅がむんずとつかんだ。
「虫けらは引っ込んでろ」
ゴミでも放るように、ぽいと肩越しに投げ捨てる。
「あひゃあ、お助けを!」
近くにあったゴミ集積場に頭から突っ込み、たちまち八墓村状態になる一ノ瀬。
「ま、時間もないことだし、力づくでいただくとするかねえ」
鋭利な刃物と化した10本の指をじゃらつかせ、羅刹女が一歩前に進み出た。
「だよねえ。美容体操にもなって、ちょうどいいかもねえ」
2本の剣をしゃりしゃりこすり合わせながら、その後から夜叉がゆっくりと歩み出る。
「来い」
アンアンが言った。
「ぶっ殺す」
阿修羅がすごむ。
くわばらくわばら。
僕はこそこそと一ノ瀬のところまで退却した。
怒った女性は怖い。
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