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第6章 アンアン魔界行
#29 あへあへアンアン①
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「これ、君がやったの?」
3人の悪鬼たちの残骸が散らばった広場を見回し、一ノ瀬が言った。
「いつ見てもすごいね、玉ちゃんは。そんな小さな体で米軍の空母なみの破壊力。俺、感心しちゃったよ」
「いえー、それほどでも」
頬を赤らめ、照れる玉。
「だけど、一回射撃したら、ミサイルもうなくなっちゃうでしょ? つぎはどうすんの?」
「24時間で新しいミサイルが充填されるのです。いわば、ミサイルだけがケースの中に召喚されてくるっていうか。だから、逆に言うと、そのあいだは玉は普通の女の子に戻れます」
「へーえ、便利なんだか不幸なんだか。でも、玉ちゃんって俺好きだよ。全然美人じゃないから、肩肘張らずにつき合えそうで」
「えー、そんなこと言われたの、玉、生まれて初めてですぅ」
おいおい、何の話してんだよ。
第一、全然美人じゃないって、それ、ほめてないじゃないか。
なのになんで喜んでるんだ? このヒトガタ戦闘兵器は。
「それより、今はアンアンの怪我をなんとかしなきゃね。その傷のままミドルバベルに下りるのはヤバいよ。ミドルはここよりもっとぶっそうだから、血の匂いをさせてたら魔人や魔獣が大挙して押し寄せてくる」
壁に背を持たせかけ、青い顔をしたアンアンを見て、阿修羅が言った。
「しかたない。あいつの世話になるとするか。阿修羅、タクシーをつかまえてくれ」
苦しそうに腹を押さえながら、アンアンが食いしばった歯のあいだから、声をしぼり出す。
アンアンはホルダートップをはずし、包帯代わりに腹に巻いている。
だから上半身は、ホルダートップの下につけていたちっちゃなブラジャーだけの姿である。
でも見ていてエロさを感じないのは、その即席の包帯が血で真っ赤に染まってずいぶんと痛々しいからである。
「あいつって?」
阿修羅が訊き返すと、アンアンは少し嫌そうな表情で、
「ぬらりひょんのじいさまだよ。この界隈では腕利きと評判のもぐりの医者だ」
「へーえ。なんでアンアン、そんな裏世界の人と交流があるわけ?」
「小学生の頃、一度家出して、その時色々あって世話になったんだ。あいつに会うのは正直気が進まないんだが」
「どうして? 腕利きならいいじゃない」
「すけべなんだよ」
憮然とした口調で、アンアンが答えた。
「治療の腕は一流だが、とんでもないすけべじじいなんだ」
そこはまるでかつての九龍城界隈だった。
ボロボロの雑居ビルが複雑な迷路を形成し、暮れかかった空を背景にして毒々しいネオンサインのきらめきをまき散らしている。
家々の窓からは洗濯竿が槍のように突き出し、その先でカラフルな下着やら衣服やらが国旗みたいに風に揺れている。
「これ以上は無理でっせ。悪いけど、お嬢さんたち、あとは徒歩でたのんます」
コビトカバに似た運転手が、九龍城の入口にタクシーを止めて、済まなさそうにそう言った。
「わかってる。ありがとう」
僕の肩にもたれて車を降りると、1万円札を渡しながらアンアンが言った。
「釣りは要らない。子どもに土産でも買って行ってやってくれ」
「王女様もごきげんよう。早く怪我が治ることを祈ってます」
さすがパクリの天国、魔界である。
前に乗ったタクシーもそうだったけど、日本円で事が足りてしまうとは。
魔界の住人たちとゴミと植木鉢で溢れ返ったあみだくじみたいな狭い路地。
それを縫って30分ほど歩いた頃である。
「ここだ」
真っ赤な鳥居の前でアンアンが立ち止まった。
鳥居を見上げると、
『ぬらりひょん民間療法研究所』
と古びた木製の看板が下がっていた。
「じじい、あたしだ」
インターフォンに向かって、アンアンが怒鳴った。
「ほいほい」
妙に軽い返事とともに、傾いた和風の引き戸が開く。
なかは薄暗い玄関だ。
上がり框に突っ立っているものをひと目見るなり、
「うひょ」
一ノ瀬が奇声を発した。
無理もなかった。
ここは水木しげるの世界かよ。
手足のついたでっかい長方形の物体と、異様に頭の鉢の開いた老人のペア。
これってマジ、ぬりかべとぬらりひょんじゃないか。
3人の悪鬼たちの残骸が散らばった広場を見回し、一ノ瀬が言った。
「いつ見てもすごいね、玉ちゃんは。そんな小さな体で米軍の空母なみの破壊力。俺、感心しちゃったよ」
「いえー、それほどでも」
頬を赤らめ、照れる玉。
「だけど、一回射撃したら、ミサイルもうなくなっちゃうでしょ? つぎはどうすんの?」
「24時間で新しいミサイルが充填されるのです。いわば、ミサイルだけがケースの中に召喚されてくるっていうか。だから、逆に言うと、そのあいだは玉は普通の女の子に戻れます」
「へーえ、便利なんだか不幸なんだか。でも、玉ちゃんって俺好きだよ。全然美人じゃないから、肩肘張らずにつき合えそうで」
「えー、そんなこと言われたの、玉、生まれて初めてですぅ」
おいおい、何の話してんだよ。
第一、全然美人じゃないって、それ、ほめてないじゃないか。
なのになんで喜んでるんだ? このヒトガタ戦闘兵器は。
「それより、今はアンアンの怪我をなんとかしなきゃね。その傷のままミドルバベルに下りるのはヤバいよ。ミドルはここよりもっとぶっそうだから、血の匂いをさせてたら魔人や魔獣が大挙して押し寄せてくる」
壁に背を持たせかけ、青い顔をしたアンアンを見て、阿修羅が言った。
「しかたない。あいつの世話になるとするか。阿修羅、タクシーをつかまえてくれ」
苦しそうに腹を押さえながら、アンアンが食いしばった歯のあいだから、声をしぼり出す。
アンアンはホルダートップをはずし、包帯代わりに腹に巻いている。
だから上半身は、ホルダートップの下につけていたちっちゃなブラジャーだけの姿である。
でも見ていてエロさを感じないのは、その即席の包帯が血で真っ赤に染まってずいぶんと痛々しいからである。
「あいつって?」
阿修羅が訊き返すと、アンアンは少し嫌そうな表情で、
「ぬらりひょんのじいさまだよ。この界隈では腕利きと評判のもぐりの医者だ」
「へーえ。なんでアンアン、そんな裏世界の人と交流があるわけ?」
「小学生の頃、一度家出して、その時色々あって世話になったんだ。あいつに会うのは正直気が進まないんだが」
「どうして? 腕利きならいいじゃない」
「すけべなんだよ」
憮然とした口調で、アンアンが答えた。
「治療の腕は一流だが、とんでもないすけべじじいなんだ」
そこはまるでかつての九龍城界隈だった。
ボロボロの雑居ビルが複雑な迷路を形成し、暮れかかった空を背景にして毒々しいネオンサインのきらめきをまき散らしている。
家々の窓からは洗濯竿が槍のように突き出し、その先でカラフルな下着やら衣服やらが国旗みたいに風に揺れている。
「これ以上は無理でっせ。悪いけど、お嬢さんたち、あとは徒歩でたのんます」
コビトカバに似た運転手が、九龍城の入口にタクシーを止めて、済まなさそうにそう言った。
「わかってる。ありがとう」
僕の肩にもたれて車を降りると、1万円札を渡しながらアンアンが言った。
「釣りは要らない。子どもに土産でも買って行ってやってくれ」
「王女様もごきげんよう。早く怪我が治ることを祈ってます」
さすがパクリの天国、魔界である。
前に乗ったタクシーもそうだったけど、日本円で事が足りてしまうとは。
魔界の住人たちとゴミと植木鉢で溢れ返ったあみだくじみたいな狭い路地。
それを縫って30分ほど歩いた頃である。
「ここだ」
真っ赤な鳥居の前でアンアンが立ち止まった。
鳥居を見上げると、
『ぬらりひょん民間療法研究所』
と古びた木製の看板が下がっていた。
「じじい、あたしだ」
インターフォンに向かって、アンアンが怒鳴った。
「ほいほい」
妙に軽い返事とともに、傾いた和風の引き戸が開く。
なかは薄暗い玄関だ。
上がり框に突っ立っているものをひと目見るなり、
「うひょ」
一ノ瀬が奇声を発した。
無理もなかった。
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