夜通しアンアン

戸影絵麻

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第6章 アンアン魔界行

#33 アンアンのいない夜①

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 賑わいを求めて表通りに出てみると、そこは極彩色のネオンきらめく、不夜城のごとき界隈だった。
 往来には得体の知れぬ食材を並べた屋台がひしめき、種々雑多な魔物たちが我が物顔に闊歩している。
「ネオシャンハイっていうだけあるな。完全に中華風だ」
 色濃く漂うニンニクの匂いに鼻をひくつかせ、一ノ瀬が感慨深げにつぶやいた。
「わあ、おいしそうなゼリーですう、ちょっと買い食いしてみませんか?」
 屋台の前にさしかかるたびに、玉が立ち止まる。
 アンドロイドにどうして食欲があるのはわからないのだが、とにかく玉は珍しい食べ物に目がないらしい。
「よしなよ、玉。よく見てごらん。それはゼリーなんかじゃない。人間の目玉の酢漬けだって」
 さすが魔界の住人だけあって、阿修羅は冷静である。
「この界隈の屋台の食べ物はみんな魔物向けだから、あんたたちは食べないほうがいいよ。死にたくなければね」
 ってか、そんなぶっそうなもの、売るなよな。
「もう少し落ち着いた雰囲気のところがいいな。これじゃ、せっかく宿をとっても、うるさくて眠れそうにない」
 正直な感想を述べると、
「わかってる。確かこの商店街のはずれに、日本人好みのお宿があったはずだわ」
 そんなことを言いながら、阿修羅は先に立って、『黒門商店街』と看板のかかった大鳥居の下をくぐっていく。
 中古パソコンのジャンクショップやゲームの海賊版を売る店、米軍払い下げの古着屋などが軒を連ねる石畳の路地に、学ランやセーラー服を着た魔物のヤングたちが砂糖に群がるアリのようにひしめきあっている。
「なんか、どっかで見たような風景だな」
 キョロキョロ周りを見回しながら、一ノ瀬が言った。
「こういうのって落ち着くよ。すっげー、落ち着く」
 5分ほど歩くと、噴水広場に出た。
 商店街ももうはずれに近いらしく、このあたりは比較的人影が少なく、すぐそこに寺院の塀が迫っている。
「このお寺の隣。ほら、ここ」
 阿修羅が指さしたのは、『池田屋』なる木製の看板の出た、古びた2階建ての和風家屋である。
 玄関の軒下には、風神雷神を描いた額までかかっていた。
 シャカシャカシャカ…。
 さざ波が寄せるような音に気づいて目を凝らすと、玄関わきの暗がりに貧相な小男が座り込み、木製のたらいに両手を突っ込んで何かの作業の真っ最中だった。
 米をといでいるようにも見えるが、それにしてもたらいの中は真っ黒だ。
「あれ、ひょっとしてさ、小豆洗いじゃね?」
 一ノ瀬の声が耳に入ったらしく、男は恥ずかしげに肩をすぼめると、たらいを抱えて逃げるように去っていってしまった。
 と、そこに玄関の引き戸が開くガラガラという音がして、
「あらあ、珍しい! お客さんかい?」
 妙な位置から華やいだ声が降ってきた。
 妙な位置、と断ったのは、声の出所が変に高かったからである。
「ぐは」
 先に頭上を見上げた一ノ瀬が、蛙の断末魔みたいな奇声を発した。
「げ」
 つられて顔を上げた僕も、絶句した。
 空中に、髪を島田に結った女の首が浮かんでいたからである。



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