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#23
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翌朝の8時55分。
うちのコンビニ、『朝日マート』の駐車場に集まったメンバーは、なんだかものものしい雰囲気に包まれていた。
翔ちゃんは、なぜか野球のユニフォームで、背中に金属バット。
ただし、下は長い脚を強調した短パンにハイソックスだ。
由羅は黒光りするライダースーツで、身体のラインがしっかり浮き出ており、胸元のファスナーを大きく下げている。
流伽はといえば、黒い合羽にフードと長靴という、妖怪変化もかくやといった感じの怪しいスタイル。
虎一郎氏もさすがに着流しは冒険に不向きと判断したのか、なんか典型的な探検家スタイルである。
そして、最後に天草君。
プールに遊びに行くわけじゃないんだよ。
その派手なアロハシャツにハーフパンツって、それ何よ?
結局、Tシャツにパーカー、それにコットンパンツという普通の恰好は私だけ。
つまりは私ひとりが無個性ということか。
意外だったのは、天草君と虎一郎氏が知り合いだったことである。
「あ、教授じゃないっすかあ」
虎一郎氏を見るなり、彼は言ったものである。
「おひさしぶりっす。奇遇っすねえ。どうしちゃったんですか? こんなとこで」
虎一郎氏は、悪戯の現場を見つかった小学生のように渋い顔である。
「君は誰だ? それに私は教授ではない。准教授だ」
顔を引きつらせて誰何すると、
「やだなア、忘れちゃったんですか? 情文大で教授の民俗学取ってる天草五郎っすよ」
天草君が情けなさそうにため息をついた。
「どういうこと?」
意外に思って、私はたずねた。
虎一郎氏は、地元国立大学で勤務しているはずである。
天下のFランク私大、情報文化教育大の学生、天草君とどういう接点があるんだろう?
「父さん、情文大で週1回、非常勤講師をしてるのよ。民俗学とか考古学って、そんなに講義のコマないから」
補足してくれたのは、翔ちゃんだ。
「父さん? えー? ってことは、こっちの美人が教授の娘さん? は? 絵麻ちゃんの同級生? とてもそうは見えないっすけど」
「余計なお世話」
私が天草君の足を蹴ると、
「どうでもいいけど、いい加減出発するぞ、ごらぁ」
天草君とはバイト仲間である由羅が、シャドウで囲んだ三白眼を怒らせてすごんだ。
そこへうちの母さんがのこのこやってきて、虎一郎氏にペコペコ頭を下げてあいさつした。
「すみませんねえ、うちの子の自由研究のお手伝いをしていただけるとかで。よろしければこれ、みなさんで」
母がおにぎりだのサンドイッチだのの入ったバスケットを差し出した。
「あ、こりゃ、どうも」
コミュ障気味の虎一郎氏の反応は、どこかぎこちない。
「よおし、シュッパーツ」
全員がワゴン車に乗り込むと、天草君が気合を入れた。
真夏の空の下、低い山並みがなだらかにつらなっている。
その前にきらきら光っているのは、飛騨川の支流の川面である。
目的地はあの一角だ。
ドルメンは、ダムの近くの参道から、里山の裏へ入ったあたりにあるはずだ。
順調にいけば、ここから1時間もかからない。
「オーディオついてないから、ラジオ入れますね」
天草君がつまみをひねると、高校野球の予選の中継が始まった。
「お、やってるやってる」
平和そのものの朝だった。
そう、確かに、この時までは…。
うちのコンビニ、『朝日マート』の駐車場に集まったメンバーは、なんだかものものしい雰囲気に包まれていた。
翔ちゃんは、なぜか野球のユニフォームで、背中に金属バット。
ただし、下は長い脚を強調した短パンにハイソックスだ。
由羅は黒光りするライダースーツで、身体のラインがしっかり浮き出ており、胸元のファスナーを大きく下げている。
流伽はといえば、黒い合羽にフードと長靴という、妖怪変化もかくやといった感じの怪しいスタイル。
虎一郎氏もさすがに着流しは冒険に不向きと判断したのか、なんか典型的な探検家スタイルである。
そして、最後に天草君。
プールに遊びに行くわけじゃないんだよ。
その派手なアロハシャツにハーフパンツって、それ何よ?
結局、Tシャツにパーカー、それにコットンパンツという普通の恰好は私だけ。
つまりは私ひとりが無個性ということか。
意外だったのは、天草君と虎一郎氏が知り合いだったことである。
「あ、教授じゃないっすかあ」
虎一郎氏を見るなり、彼は言ったものである。
「おひさしぶりっす。奇遇っすねえ。どうしちゃったんですか? こんなとこで」
虎一郎氏は、悪戯の現場を見つかった小学生のように渋い顔である。
「君は誰だ? それに私は教授ではない。准教授だ」
顔を引きつらせて誰何すると、
「やだなア、忘れちゃったんですか? 情文大で教授の民俗学取ってる天草五郎っすよ」
天草君が情けなさそうにため息をついた。
「どういうこと?」
意外に思って、私はたずねた。
虎一郎氏は、地元国立大学で勤務しているはずである。
天下のFランク私大、情報文化教育大の学生、天草君とどういう接点があるんだろう?
「父さん、情文大で週1回、非常勤講師をしてるのよ。民俗学とか考古学って、そんなに講義のコマないから」
補足してくれたのは、翔ちゃんだ。
「父さん? えー? ってことは、こっちの美人が教授の娘さん? は? 絵麻ちゃんの同級生? とてもそうは見えないっすけど」
「余計なお世話」
私が天草君の足を蹴ると、
「どうでもいいけど、いい加減出発するぞ、ごらぁ」
天草君とはバイト仲間である由羅が、シャドウで囲んだ三白眼を怒らせてすごんだ。
そこへうちの母さんがのこのこやってきて、虎一郎氏にペコペコ頭を下げてあいさつした。
「すみませんねえ、うちの子の自由研究のお手伝いをしていただけるとかで。よろしければこれ、みなさんで」
母がおにぎりだのサンドイッチだのの入ったバスケットを差し出した。
「あ、こりゃ、どうも」
コミュ障気味の虎一郎氏の反応は、どこかぎこちない。
「よおし、シュッパーツ」
全員がワゴン車に乗り込むと、天草君が気合を入れた。
真夏の空の下、低い山並みがなだらかにつらなっている。
その前にきらきら光っているのは、飛騨川の支流の川面である。
目的地はあの一角だ。
ドルメンは、ダムの近くの参道から、里山の裏へ入ったあたりにあるはずだ。
順調にいけば、ここから1時間もかからない。
「オーディオついてないから、ラジオ入れますね」
天草君がつまみをひねると、高校野球の予選の中継が始まった。
「お、やってるやってる」
平和そのものの朝だった。
そう、確かに、この時までは…。
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