醜女の檻 ~私の美少女監禁日記~

戸影絵麻

文字の大きさ
73 / 77
第3章 美少女監禁

#16 蜜色の部屋

しおりを挟む
 すべての器具を取り去ると、私はベッドに身を横たえ、後ろから杏里に両腕を回した。
 杏里は動かなかった。
 でも、肌は温かく、いつまでもこうしていたいと、心から祈った。
 ようやく、杏里は私のものになったのだ。
 杏里のうなじに顔をうずめ、その汗とフェロモンの匂いに包まれながら、私は陶然となった。
 貪るように杏里の身体をまさぐった。
 次第に自分の身体も火照ってくるのがわかった。
 見ているだけ、というのは、本当につらかったのだ。
 人形のように従順な杏里の裸体を、隅々まで舐め回しながら私は痛切に思った。
 どのくらいそうして杏里を弄んでいたのか。
「ううん…」
 乳首を弄っていると、ふいに杏里がうめき、目を覚ました。
 ベッドの横の三面鏡に、背後から抱きしめられた杏里の裸身が映っている。
 杏里はそこに映る自分の姿にじっと見入っている。
「どうしてほしい?」
 耳元でささやくと、
「そのまま、触っていてほしい」
 甘えるような声で、杏里が答えた。
 しばらく愛撫を繰り返していると、杏里の乳首が硬さを取り戻してきた。
「また勃ってる」
 私は杏里を仰向けにすると、醜いふたつの口をめいっぱい開けて、その乳房を含んだ。
 2枚の舌でふたつの乳首を同時に転がしてやる。
 これは世界中でも、おそらく私にしかできない芸当だ。
 すぐに杏里がはあはあと喘ぎ始めた。
 さっきあんなに激しく潮を吹いて果てたばかりなのに、またすぐ感じ出すというのは、いったいどういう体のつくりをしているのだろう。
「誰が好き?」
 特大のプリンのような乳房を解放すると、たまらなくなって、私はたずねた。
 狂ったような激情の渦が去り、今はこんなにも杏里のことが愛おしい。
「決まってるでしょ。よどみだよ」
 杏里が言って、そっと私の右の唇にキスをした。
「杏里…」
 私は杏里を強く抱きしめた。
 乳房と乳房を重ね合わせ、力任せに体を押しつける。
 私の心の中には物心ついた時からずっと、ぽっかりと深く黒い穴が開いている。
 杏里を抱きしめていると、少しずつだが、その穴が温かいもので埋まっていく気がした。
「ひどいことして、ごめんね…私、試したかったんだ…ていうか、試さずにはいられなかった…」
「いいんだよ」
 私の腕の中で、杏里がくすっと笑った。
「よどみが癒されたなら、私はもうそれでいい」
 そうなのだろうか。
 本物の癒しが、本当に私の上に訪れたのだろうか。
「タナトスって、何? 本来の意味は知ってるけど、杏里のいうタナトスって、何のことなの?」
 ずっと気になっていたこと。
 ふとそれを思い出して、私は訊いた。
 杏里の目が私の視線を捉えた。
 そして、ゆっくりとした口調で、話し始めた。
「人間は、誰もが死への欲望を抱えて生きている。でも、その欲望は、往々にして、自分に向かわず、他者への破壊衝動となる。だから、それは癒されなくてはいけない。なぜってそのままにしておいたら、それはいじめや虐待や殺人、果ては戦争にまで発展してしまうから。”タナトス”は、その衝動を昇華して、生への欲望、エロスに変える存在。ある事情から、私はその”タナトス”に選ばれた。だから私は、その任務を遂行しているだけ」
「死への欲望を、エロスに変える…?」
 杏里を抱いたまま、私は目をしばたたかせた。
「じゃあ、杏里は、クラスの連中や私の中にあるその”死への欲望”とやらを消し去るために、どこからか派遣されてきた、謎の使者みたいな存在だと、そう言いたいわけ?」
「他にもいろいろあるけど、単純に言うと、そういうことになるかな」
 他にも?
 私はいつか杏里の家に行った時、杏里の養父の小田切に「外来種か?」と訊かれたことを思い出した。
 あれがその”他の事情”とやらに、何か関係あるのだろうか。
 私はすっと気持ちが冷えていくのを感じないではいられなかった。
 杏里のいう”タナトス”という存在に興味がないわけではない。
 地球規模の公共の福祉を具現化したような、そんなものが実在するのだとしたら、それはもはや人間ではなく、道具のようなものなのではないか。 
 そんな気さえするほどだった。
 でも、私を落ち込ませたのは、そのことではなかった。
 わかってはいたけれど、これではっきりしたのである。
 杏里が私に接近してきたのは、私の抱える”死への欲望”が、あまりに強烈だったからなのだ。
 それは杏里のようなタナトスから見れば、それこそ肉眼で確認できるほど黒く危険なものだったに違いない。
 だから彼女は転校早々、真っ先に私に話しかけてきたのだろう。
  私は愛撫の手を止めた。
 また片思いだったのだ。
 殺そう、と思った。
 もし私の予想通りなら、杏里はまた他の獲物を求めて、私の許を去っていくに違いない。
 所詮それだけの関係にすぎなかったというのなら、ここで殺してしまえばそれですべて終了だ。
 私は無意識のうちに杏里のか細い首に両手をかけていた。
 そのまま力を籠めようとした時である。
 ふいに、私の心を読んだかのように、杏里が言った。
「でも勘違いしないで、私、よどみとのことは、決して任務からだけじゃないと思ってる。私にはあなたの苦しみが痛いほどわかるから。きっと私たちは同類なんだって、最初会った瞬間、痛いほどそう感じたから」
「うそ」
 うなるように私は言った。
「嘘だと思うなら、殺せばいい」
 杏里が答えた。
 真剣そのもののまなざしをしていた。
「同情なんか要らない」
 私は指に力を入れた。
「狩人に同情される獲物になんてなりたくない」
「よどみの馬鹿」
 杏里が言った。
 手を伸ばして、私の奇形の口を触ってきた。
「この顔が何なの? 私はあなたのやさしさが好き。それがいけないことだったの?」
「うそ」
 もう一度、私はつぶやいた。
 手から力が抜けていくのが分かった。
 沈黙が落ちた。
 私は目をつぶった。
 目じりに熱いものがにじんだ。
「よどみ…?」
 それを杏里が指先でそっとぬぐい取った。
「杏里…ごめん」
 私はうなだれ、杏里の白い胸に顔を埋めた。
 温かいものがまたあふれてきて、胸の空洞にしみこんでいく。
「いいよ」
 杏里が私の手を握ってきた。
「よどみはもっと、泣いていいんだよ」
 心にしみる優しい声で言う。
 が、私は油断しすぎていたようだ。
 幸せなんて、長くは続かない。
 そんなこと、ずっと前から知っていたはずなのに。
 杏里の表情が、突然凍りついた。
 同時に、鏡の中に私も見た。
 納屋の扉が開いている。
 まずい。
 そう思った瞬間、
 割れ鐘のような怒声が響き渡った。
「こんなことだろうと思った! よどみったら、親をさし置いてずいぶんお楽しみじゃないか!」
 そう。
 こともあろうに…。
 私たちは、今もっとも会いたくない相手、本物のモンスターに見つかってしまったのである。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

終焉列島:ゾンビに沈む国

ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。 最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。 会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...