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第3章 美少女監禁
#17 醜女の檻①
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私の母の辞書に、「情け」だの「容赦」だのといった甘ったるい文字はない。
私と杏里が全裸のまま引きずられていったのは、当然のことながら、例の母の地下監禁部屋だった。
「おら、入るんだよ!」
コンクリートの床に突き転がされた私の目にまず入ってきたのは、ズタボロのようになった悲惨な理沙の姿だった。
理沙は丸裸で、監禁部屋の片隅の壁に寄りかかるようにして座っていた。
意識がないらしく、壊れた人形のように首を横に傾けたまま、ぴくりとも動かない。
私の度肝を抜いたのは、その顔である。
相応に美人だった理沙の顔は今やパンパンに膨れ上がり、全体が紫色を呈していた。
瞼が腫れあがり、ろくに目も開けていられないといったありさまだ。
よく見ると身体中にあざがあり、ところどころに血がにじんでいるのがわかる。
「ママ、これは?」
私は母のほうを振り向いた。
「いくらなんでもやりすぎじゃない? これじゃ、警察沙汰になっちゃうよ!」
「はん! 自業自得だよ!」
鉄格子を背に仁王立ちになった母が怒鳴った。
「そいつはね、とんでもないガキなんだよ! せっかくひとがいい思いさせてやったのにさ、あたしのことをやれ化け物だ、キモいから触るなとかほざきやがって! あんまり腹が立ったから、気絶するまでぶちのめしてやったのさ!」
なるほど理沙らしい、と私は思った。
これまでの被害者は、母に責められるとたいていは従順になったものである。
6人が6人とも外見上は傷ひとつない体で帰還できたのは、ある意味そのおかげだったのだ。
そのセオリーが、どうやら勝気な理沙には通用しなかったらしい。
「それよりよどみ、おまえ、隠してたね? ひとにあんなクズ当てがっておいて、自分だけこんな上玉抱え込んじゃってさ。わが子ながら、見上げた根性だよ」
母は杏里を背後から抱きかかえていた。
杏里の白い身体が、母の不健康な色の肉襦袢の中に、半ばめりこんでいる。
「違うよ! 勘違いしないで! 杏里は友だちなんだ! 生贄じゃないんだから!」
私は地団太踏んで叫んだ。
杏里を助けたい一心で、もう必死だった。
せっかく心が通い合ったというのに。
今度こそ、他人を信じられるところだったのに。
それをまた、この化け物が台なしにしようとしている!
「笑わせるんじゃないよ!」
母がさも馬鹿にしたように鼻を鳴らした。
「おまえに友だちなんてできるわけないじゃないか! 鏡見たことないないのかい! その不気味なご面相で、どうやってこんなカワイ子ちゃんと友だちになれるっていうんだよ?」
「人間は顔じゃない、そう杏里は言ってくれたんだよ! 私の優しいところが好きだって!」
私は泣いていた。
なんでこんな化け物から生まれてしまったんだろう。
今更ながらにそう思った。
子には親を選ぶ権利はないというけれど、それにしたってひどすぎる!
「ばーか、人間、外見が第一に決まってるじゃないか。そんなこと、おまえもとっくの昔に知ってたはずだろう? あたしたち親子が、どれほどこの外見のせいでひどい目に遭ってきたか、忘れたとは言わせないよ! なんせ、親娘そろって、亭主すら逃げ出す醜さなんだからね! それにだ、お前が優しいだなんて聞いたら、ここで苦しめられた6人の生贄たちがなんて思うだろうねえ? 私と一緒になって、あんなにさんざん楽しんだくせにさあ」
「それ以上言わないで!」
杏里の表情が変わっていくのに気づいて、私は青くなった。
杏里にだけは知られたくなかった。
私たち親子の、忌まわしい秘密。
悪魔のストレス解消法を。
「今更いい子ぶるんじゃないよ、この怪物が! こそこそ何をやってるかと思って覗きに行けば、こっそり納屋を自分だけの監禁部屋に改造しやがって! おおかたこの子にもいろんな道具を使って楽しんだんだろ? あたしゃ、知ってるんだよ。おまえが通販で何を取り寄せてたかってことも!」
ばれていた。
背筋が凍る思いだった。
母はすべてを知った上で、娘の私を野放しにしていたということなのか。
私は釈迦の手のひらの中の孫悟空だったというわけだ。
いや、それをいうなら、閻魔大王の手のひらの中の、チンケな子鬼だったとでもいうべきか。
目の前が怒りで赤く染まりー。
気がつくと、私は母に飛びかかっていた。
が、巨体の割に母は俊敏だった。
足の捻挫も完治しているらしい。
私の突進を軽くかわすと、固く握った拳骨で私の後頭部を一撃した。
凄まじい衝撃に、体が宙に浮き、そのままコンクリートの地面に叩きつけられた。
脳震盪を起こして床に伸びた私に向かって、母が言った。
「おまえはしばらく、そこで頭を冷やしてな。今度はあたしがこの子といちゃつく番だからね」
私と杏里が全裸のまま引きずられていったのは、当然のことながら、例の母の地下監禁部屋だった。
「おら、入るんだよ!」
コンクリートの床に突き転がされた私の目にまず入ってきたのは、ズタボロのようになった悲惨な理沙の姿だった。
理沙は丸裸で、監禁部屋の片隅の壁に寄りかかるようにして座っていた。
意識がないらしく、壊れた人形のように首を横に傾けたまま、ぴくりとも動かない。
私の度肝を抜いたのは、その顔である。
相応に美人だった理沙の顔は今やパンパンに膨れ上がり、全体が紫色を呈していた。
瞼が腫れあがり、ろくに目も開けていられないといったありさまだ。
よく見ると身体中にあざがあり、ところどころに血がにじんでいるのがわかる。
「ママ、これは?」
私は母のほうを振り向いた。
「いくらなんでもやりすぎじゃない? これじゃ、警察沙汰になっちゃうよ!」
「はん! 自業自得だよ!」
鉄格子を背に仁王立ちになった母が怒鳴った。
「そいつはね、とんでもないガキなんだよ! せっかくひとがいい思いさせてやったのにさ、あたしのことをやれ化け物だ、キモいから触るなとかほざきやがって! あんまり腹が立ったから、気絶するまでぶちのめしてやったのさ!」
なるほど理沙らしい、と私は思った。
これまでの被害者は、母に責められるとたいていは従順になったものである。
6人が6人とも外見上は傷ひとつない体で帰還できたのは、ある意味そのおかげだったのだ。
そのセオリーが、どうやら勝気な理沙には通用しなかったらしい。
「それよりよどみ、おまえ、隠してたね? ひとにあんなクズ当てがっておいて、自分だけこんな上玉抱え込んじゃってさ。わが子ながら、見上げた根性だよ」
母は杏里を背後から抱きかかえていた。
杏里の白い身体が、母の不健康な色の肉襦袢の中に、半ばめりこんでいる。
「違うよ! 勘違いしないで! 杏里は友だちなんだ! 生贄じゃないんだから!」
私は地団太踏んで叫んだ。
杏里を助けたい一心で、もう必死だった。
せっかく心が通い合ったというのに。
今度こそ、他人を信じられるところだったのに。
それをまた、この化け物が台なしにしようとしている!
「笑わせるんじゃないよ!」
母がさも馬鹿にしたように鼻を鳴らした。
「おまえに友だちなんてできるわけないじゃないか! 鏡見たことないないのかい! その不気味なご面相で、どうやってこんなカワイ子ちゃんと友だちになれるっていうんだよ?」
「人間は顔じゃない、そう杏里は言ってくれたんだよ! 私の優しいところが好きだって!」
私は泣いていた。
なんでこんな化け物から生まれてしまったんだろう。
今更ながらにそう思った。
子には親を選ぶ権利はないというけれど、それにしたってひどすぎる!
「ばーか、人間、外見が第一に決まってるじゃないか。そんなこと、おまえもとっくの昔に知ってたはずだろう? あたしたち親子が、どれほどこの外見のせいでひどい目に遭ってきたか、忘れたとは言わせないよ! なんせ、親娘そろって、亭主すら逃げ出す醜さなんだからね! それにだ、お前が優しいだなんて聞いたら、ここで苦しめられた6人の生贄たちがなんて思うだろうねえ? 私と一緒になって、あんなにさんざん楽しんだくせにさあ」
「それ以上言わないで!」
杏里の表情が変わっていくのに気づいて、私は青くなった。
杏里にだけは知られたくなかった。
私たち親子の、忌まわしい秘密。
悪魔のストレス解消法を。
「今更いい子ぶるんじゃないよ、この怪物が! こそこそ何をやってるかと思って覗きに行けば、こっそり納屋を自分だけの監禁部屋に改造しやがって! おおかたこの子にもいろんな道具を使って楽しんだんだろ? あたしゃ、知ってるんだよ。おまえが通販で何を取り寄せてたかってことも!」
ばれていた。
背筋が凍る思いだった。
母はすべてを知った上で、娘の私を野放しにしていたということなのか。
私は釈迦の手のひらの中の孫悟空だったというわけだ。
いや、それをいうなら、閻魔大王の手のひらの中の、チンケな子鬼だったとでもいうべきか。
目の前が怒りで赤く染まりー。
気がつくと、私は母に飛びかかっていた。
が、巨体の割に母は俊敏だった。
足の捻挫も完治しているらしい。
私の突進を軽くかわすと、固く握った拳骨で私の後頭部を一撃した。
凄まじい衝撃に、体が宙に浮き、そのままコンクリートの地面に叩きつけられた。
脳震盪を起こして床に伸びた私に向かって、母が言った。
「おまえはしばらく、そこで頭を冷やしてな。今度はあたしがこの子といちゃつく番だからね」
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