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第3部 凶愛のエロス
エピローグ
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振り続いていた雨が上がり、朝から上天気の真夏日になった。
梅雨明けが近いのかもしれなかった。
昼休み、杏里は青葉の生い茂る並木道を歩いていた。
左手に広がる校庭は、まるで光の海みたいに耀いて見える。
隣には、由羅がいる。
「ありがと、助けてくれて」
うつむいて、足元を見ながら、ようやくいえた。
事件から、一週間が経っていた。
あの日は、あれから大騒ぎで、とてもそれどころではなかった。
血だらけで絶命している翔太を担架で運び出したのは、病院の職員ではなかった。
宇宙服みたいな防御服に身を固めた、正体不明の男たちだった。
翔太を青いビニールシートで包んで外に運ぶと、装甲車のような物々しい車に乗せて去っていった。
指図しているのは、いつのまに来ていたのか、小田切勇次である。
「よくやった」
小田切は、由羅と杏里の頭に両手を置くと、それだけいって、うなずいてみせた。
結局、警察も来ず、由羅が殺人罪で逮捕されることもなく、事件はもみ消されてしまったようだった。
杏里はさっそく治療のために別の階に移されることになったのだが、別れ際にも由羅は妙に隣の手術室を気にしていた。
穴の空いた壁をくぐって向こう側に戻って行ったかと思うと、
「おっかしいな。いなくなってやがる」
また帰ってきて、そうつぶやき、しきりに首をひねっていたのだ。
「仕事だからな」
由羅は相変らずそっけない。
でも、
「お昼、一緒に食べない?」
と誘っただけでついてきてくれたのは、杏里にとってすごくうれしい出来事だった。
「これで終わったのかな」
杏里がいうと、
「いや」
由羅がかぶりを振った。
「おまえがいってた、雌の外来種。あれがまだいる。動けなくしておいたのに、逃げやがった」
「黒野零・・・」
杏里はつぶやいた。
回復して、学校に行けるようになってから、早速クラスメートたちに訊いてみた。
黒野という女生徒は確かに居た。
だが、学校を休みがちで、しばらく登校していないという。
成績は優秀だが、友だちもいなくて、とにかく変わった生徒らしかった。
変人という点では、由羅と双璧をなしているようだった。
「女の外来種・・・やっぱりいたんだね」
「だな。あれは雄より手ごわい。外来種は蟷螂だ。雌のほうが、断然強そうだった」
「カマキリ・・・」
「気をつけるんだな。あいつには、おまえのお色気攻撃は効かないぞ」
「お色気・・・? 何それ。変なこといわないでよ」
杏里が由羅をぶとうと右手を振り上げたときだった。
「ちょっとあんたたち」
声がした。
見ると、少女が立っていた。
「楓ちゃん・・・?」
杏里は目を見開いた。
高橋楓だった。
顔色が悪い。
なじるようなきつい眼で杏里たちを睨んでいる。
「もう、病気はいいの?」
杏里は訊いた。
杏里と入れ替わるように、楓はここ三日ほど、学校を休んでいた。
きょうも午前中はいなかったはずである。
「訊きたいことがあるんだけど」
楓が怒ったような口調でいった。
どこか変だ、と杏里は思った。
なんだろう?
この違和感は。
「何だよ」
由羅が挑発するように聞き返す。
「翔太をどうしたのよ」
楓の声が尖る。
「知ってるんだから。いなくなる直前、翔太があんたのとこに行ったってこと」
杏里を指差した。
「そ、それは・・・・」
口ごもった杏里を、
「まさか、おまえ」
ふいに由羅が遮った。
ただでさえきつい眼が、恐いほど吊り上がってしまっている。
「あいつと、寝たのか」
寝た?
寝たって、どういうこと?
杏里は茫然と、心の中で由羅の台詞を繰り返した。
「そうよ。翔太はあたしの恋人だもの。セックスだって、するわよ」
楓が得意気にいった。
翔太が、楓の恋人?
意外だった。
カレシなんて、できるわけないよね。
そういって笑っていた楓。
実はその裏で、翔太とそこまで深い仲になっていたというのか。
オンナはおそろしい。
自分のことは棚に上げて、杏里は思った。
「杏里、下がれ」
由羅が、短くいい、杏里を背中にかばった。
「どうしたの?」
「こいつ」
吐き捨てるようにつぶやいた。
「妊娠してる」
その瞬間だった。
楓のスカートの下から、大量の血が迸った。
腹が、蛙を呑んだ蛇のそれのように、見る間に膨らんでいく。
違和感の正体はこれだった。
やせっぽちだった楓が、杏里には妙に太って見えたのだ。
しかし、まさか、外来種の仔を、妊娠だなんて・・・。
「許さない・・・・」
楓が歯軋りしながら、いった。
ブラウスが裂け、まん丸の腹がせり出している。
由羅が動くのと、その腹を突き破って何かが飛び出してくるのとが、ほとんど同時だった。
由羅の右手が、空中でそれをつかんだ。
眼のない、人間の腸のような形をした、ピンク色の生き物だった。
丸い頭部の先端に口があり、その間からびっしり並んだ鋭い歯が覗いている。
キイ、とそれが鳴いた。
「死ね」
由羅がいった。
そのまま、果実を搾るように、握りつぶす。
肉汁と血が噴き出した。
生き物が、由羅の手の中でぐったりとなる。
死んだのだ。
気を失って、楓が倒れた。
「誰か!」
杏里は叫んだ。
「誰か、救急車を!」
叫びながら、
悪夢はまだ続いているのだ、と思った。
杏里は暗澹たる思いで、空を仰いだ。
邪悪なほど明るい夏空の下、
この悪夢、いったいいつになったら、覚めてくれるのだろう・・・?
だが。
"タナトス"杏里の夏は、まだ始まったばかりだった。
梅雨明けが近いのかもしれなかった。
昼休み、杏里は青葉の生い茂る並木道を歩いていた。
左手に広がる校庭は、まるで光の海みたいに耀いて見える。
隣には、由羅がいる。
「ありがと、助けてくれて」
うつむいて、足元を見ながら、ようやくいえた。
事件から、一週間が経っていた。
あの日は、あれから大騒ぎで、とてもそれどころではなかった。
血だらけで絶命している翔太を担架で運び出したのは、病院の職員ではなかった。
宇宙服みたいな防御服に身を固めた、正体不明の男たちだった。
翔太を青いビニールシートで包んで外に運ぶと、装甲車のような物々しい車に乗せて去っていった。
指図しているのは、いつのまに来ていたのか、小田切勇次である。
「よくやった」
小田切は、由羅と杏里の頭に両手を置くと、それだけいって、うなずいてみせた。
結局、警察も来ず、由羅が殺人罪で逮捕されることもなく、事件はもみ消されてしまったようだった。
杏里はさっそく治療のために別の階に移されることになったのだが、別れ際にも由羅は妙に隣の手術室を気にしていた。
穴の空いた壁をくぐって向こう側に戻って行ったかと思うと、
「おっかしいな。いなくなってやがる」
また帰ってきて、そうつぶやき、しきりに首をひねっていたのだ。
「仕事だからな」
由羅は相変らずそっけない。
でも、
「お昼、一緒に食べない?」
と誘っただけでついてきてくれたのは、杏里にとってすごくうれしい出来事だった。
「これで終わったのかな」
杏里がいうと、
「いや」
由羅がかぶりを振った。
「おまえがいってた、雌の外来種。あれがまだいる。動けなくしておいたのに、逃げやがった」
「黒野零・・・」
杏里はつぶやいた。
回復して、学校に行けるようになってから、早速クラスメートたちに訊いてみた。
黒野という女生徒は確かに居た。
だが、学校を休みがちで、しばらく登校していないという。
成績は優秀だが、友だちもいなくて、とにかく変わった生徒らしかった。
変人という点では、由羅と双璧をなしているようだった。
「女の外来種・・・やっぱりいたんだね」
「だな。あれは雄より手ごわい。外来種は蟷螂だ。雌のほうが、断然強そうだった」
「カマキリ・・・」
「気をつけるんだな。あいつには、おまえのお色気攻撃は効かないぞ」
「お色気・・・? 何それ。変なこといわないでよ」
杏里が由羅をぶとうと右手を振り上げたときだった。
「ちょっとあんたたち」
声がした。
見ると、少女が立っていた。
「楓ちゃん・・・?」
杏里は目を見開いた。
高橋楓だった。
顔色が悪い。
なじるようなきつい眼で杏里たちを睨んでいる。
「もう、病気はいいの?」
杏里は訊いた。
杏里と入れ替わるように、楓はここ三日ほど、学校を休んでいた。
きょうも午前中はいなかったはずである。
「訊きたいことがあるんだけど」
楓が怒ったような口調でいった。
どこか変だ、と杏里は思った。
なんだろう?
この違和感は。
「何だよ」
由羅が挑発するように聞き返す。
「翔太をどうしたのよ」
楓の声が尖る。
「知ってるんだから。いなくなる直前、翔太があんたのとこに行ったってこと」
杏里を指差した。
「そ、それは・・・・」
口ごもった杏里を、
「まさか、おまえ」
ふいに由羅が遮った。
ただでさえきつい眼が、恐いほど吊り上がってしまっている。
「あいつと、寝たのか」
寝た?
寝たって、どういうこと?
杏里は茫然と、心の中で由羅の台詞を繰り返した。
「そうよ。翔太はあたしの恋人だもの。セックスだって、するわよ」
楓が得意気にいった。
翔太が、楓の恋人?
意外だった。
カレシなんて、できるわけないよね。
そういって笑っていた楓。
実はその裏で、翔太とそこまで深い仲になっていたというのか。
オンナはおそろしい。
自分のことは棚に上げて、杏里は思った。
「杏里、下がれ」
由羅が、短くいい、杏里を背中にかばった。
「どうしたの?」
「こいつ」
吐き捨てるようにつぶやいた。
「妊娠してる」
その瞬間だった。
楓のスカートの下から、大量の血が迸った。
腹が、蛙を呑んだ蛇のそれのように、見る間に膨らんでいく。
違和感の正体はこれだった。
やせっぽちだった楓が、杏里には妙に太って見えたのだ。
しかし、まさか、外来種の仔を、妊娠だなんて・・・。
「許さない・・・・」
楓が歯軋りしながら、いった。
ブラウスが裂け、まん丸の腹がせり出している。
由羅が動くのと、その腹を突き破って何かが飛び出してくるのとが、ほとんど同時だった。
由羅の右手が、空中でそれをつかんだ。
眼のない、人間の腸のような形をした、ピンク色の生き物だった。
丸い頭部の先端に口があり、その間からびっしり並んだ鋭い歯が覗いている。
キイ、とそれが鳴いた。
「死ね」
由羅がいった。
そのまま、果実を搾るように、握りつぶす。
肉汁と血が噴き出した。
生き物が、由羅の手の中でぐったりとなる。
死んだのだ。
気を失って、楓が倒れた。
「誰か!」
杏里は叫んだ。
「誰か、救急車を!」
叫びながら、
悪夢はまだ続いているのだ、と思った。
杏里は暗澹たる思いで、空を仰いだ。
邪悪なほど明るい夏空の下、
この悪夢、いったいいつになったら、覚めてくれるのだろう・・・?
だが。
"タナトス"杏里の夏は、まだ始まったばかりだった。
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