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第6部 淫蕩のナルシス

プロローグ ~徴~

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 知らないうちに、乳首が勃起していた。
 Tシャツの上からも、はっきりそれとわかるほどだ。
 ー私、どうしちゃったんだろう?
 笹原杏里はシャープペンを置いた。
 8月初旬の午後。
 エアコンを『強』にセットしていても、西日が入る部屋は耐えられないほど暑い。
 杏里は勉強しているところだった。
 1学期は色々ありすぎて、ほとんど勉強していなかった。
 転校に次ぐ転校。
 そして陰惨な事件の数々。
 引越しだけでも、これで4回めだ。
 授業もろくに受けていない。
 勉強どころではなかったのだ。
 この夏休み中に、なんとか学校の進度に追いつかないと・・・。
 そう決心して勉強を始めたのだったが、何かがおかしかった。
 体が火照ってしかたがない。
 シャープペンを走らせる右腕が触れるたび、敏感になった乳首に、甘い快感が走る。
 杏里は眉をひそめて己の体を見回した。
 暑いので、上は白いTシャツ1枚、下はミニスカートといった出で立ちである。
 ブラジャーはつけていなかった。
 中学生離れしたサイズの胸が苦しいので、外出するとき以外はつけないのだ。
 胸は、はちきれんばかりにシャツを押し上げている。
 おわん型に盛り上がった乳房の形を、薄い布が忠実にトレースしてしまっていた。
 Tシャツの上から、その頂に浮き彫りになった”つぼみ”を指で触ってみる。
 あん・・・。
 思わず、切ないため息が漏れた。
 -したい。
 一瞬、その言葉が頭の隅をよぎり、杏里はどきりとした。
 やだ。
 私ったら、何考えてるんだろう?
 が、その思いとは裏腹に、指は乳首をゆっくりとしごくように愛撫している。
 たまらなくなって、もぞもぞと尻を動かした。
 股間が濡れ始めているのがわかったからだった。
 このままじゃ、下着がよごれちゃう・・・。
 杏里はとろんとした目で、まだ解かれていない段ボール箱があちこちに置いてある和室を見回した。
 すでに勉強を続ける気力は失せてしまっている。
 気持ちがおさまらない。
 今度の家はいままでのようなマンションではなく、古い一戸建てだった。
 そのため、部屋はどれも畳敷きで、以前の持ち主の家具がいくつかそのまま残っていた。
 杏里の部屋にあるのは、高さ1メートルほどの鏡台である。
 杏里は椅子を回し、その鏡台に身体の正面を向けた。
 切なげな顔と潤んだ瞳が映った。
 震える手で、Tシャツを脱ぐ。
 成人女性顔負けの、質感のある乳房が飛び出した。
 両手で、しぼるように揉みしだく。
 ああ・・・。
 またしても、喘ぎが漏れた。
 生々しい、けものじみた喘ぎ声だった。
 もみながら、人差指と中指で乳首をつまむ。
 乳輪が、淫らなほど赤く染まっている。
 知らぬ間に、右手が股間に伸びていた。
 短いスカートを捲り上げ、鏡にパンティを晒す。
 肌が透けて見えそうなほど、薄い生地の白いパンティである。
 太腿の間の部分に染みができていた。
 染みで布が肌に貼りつき、割れ目がくっきりと浮き出している。
 その深い谷間を、震える指で撫で上げた。
 -あ。
 ぞくりとした快感が背筋を駆け抜け、杏里は唇を薄く開いた。
 たまらず下着をずらし、性器をむき出しにする。
 陰毛の生えていないその部位では、つるつるの肌に生じた裂け目が、いやらしく充血して濡れ光っている。
 腰を前に突き出し、赤くなった肉の亀裂を鏡に映した。
 クリトリスが硬く勃起しているのが、肉の襞と襞の間からはっきりと見てとれる。
「だめ・・・」
 そう声に出してみたものの、とてもこらえきれなかった。
 中指を挿入した。
 何の抵抗もなく、ずぶりと中に入った。
 獲物を取り込んだ軟体動物のように、指に襞がからみついてくる。
 恥ずかしいほど濡れていた。
 陰核を指の腹でこすりながら、杏里は切なげに身をくねらせた。
 鏡の中で、生白い豊満な体がうねる。
 まるで別人のように淫らだった。
 唇の端から唾液が糸を引く。
 鏡に映る自分がひどく淫蕩に見え、それが更に興奮に火をつけた。
 空いている左手で乳房を弄び、右手で膣を責める。
 無意識のうちに腰を前後に動かしていた。
 スカート、下着と、狂ったように脱ぎ捨て、全裸になった。
 倒れるように四つん這いになると、尻を高々と上げ、局部を鏡に映す。
 ぱっくりと割れた膣と、アナルが丸見えになる。
 右手を伸ばし、愛撫を再開した。
 あん・・・。
 ああ・・・。
 いい・・・。
 喘いだ。
 溢れ出た愛液が太腿の内側を滴り、畳の上に黒い染みをつくっていく。
 ふいに、引き戸が開いた。
「杏里、おまえ、何してるんだ・・・?」
 見上げると、かすむ視界に小田切勇次の顔が入ってきた。
 戸口に立ち、驚きで目を丸くしている。
 が、杏里はやめなかった。
 羞恥を愉悦が上回っていた。
「して・・・」
 潤んだ瞳で小田切を見つめながら、かすれきった声で囁いた。
「触ってほしいの・・・」


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