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第6部 淫蕩のナルシス

#34 スカートの奥の闇

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「あ、いいこと思いついた」
 抱かれてうっとり目を閉じていると、やチカが突然いって、身を離した。
「先に車のところへいっててくれる? ちょっと忘れ物」
 杏里を玄関から外に押し出すと、軽やかな身のこなしで中へ戻っていった。
「んもう」
 杏里は頬をふくらませた。
 せっかくいいムードだったのに・・・。
 が、そんな恨み言も、一歩外へ出ると、まばゆい夏の陽射しのシャワーで、すぐに溶けてしまった。
 きのうとはうって変わって、よく晴れた上天気である。
 ヤチカの洋館は森に囲まれているため、空気がさわやかだ。
 洋館の前庭の中央には小さな池があり、そのまわりを植え込みが囲んでいる。
 色とりどりの花が咲き乱れたその植え込みの上を、蝶たちがひらひらと可憐に舞っていた。
 遠くからミンミンゼミの鳴き声が、潮騒のように聞こえてくる。
 杏里は弾んだ足取りで、ガレージに回った。
 ガレージのシャッターは開いていて、きのう乗せてもらった真っ赤な車が鎮座している。
 あまり見たことのない車種の中型車だった。
 自動車に関する知識はゼロに近い杏里だったが、なんとなく外車ではないかと思った。
「それ、オペルっていうの」
 背後からヤチカの声がした。
 振り向くと、いつのまにかすぐ後ろにヤチカが立っていた。
 白いブラウスの上に、水色の薄いカーディガンを羽織り、そのポケットに両手を突っ込んでいる。
 髪は後頭部でお団子にまとめ、夏らしいさっぱりした格好をしていた。
「一応ドイツ製なんだよ。わたしはかなり気に入ってるんだけど」
 ポケットからキーを取り出し、車に向けてオートロックをはずす。
「ところがさ、自動車会社が日本から撤退しちゃって、もう、維持費が半端なくかかるの」
 助手席のドアを開けると、外人っぽいしぐさで肩をすくめて見せた。
「わたしの持ち物って、そんなのばっかり。このお屋敷だってそうでしょう? 前世紀の遺物に囲まれて暮らしてる、穴居人になった気分だわ」
「でも、みんなきれいで可愛いです」
 クスっと笑って杏里はいった。
「わたしはお家もこの車も、ヤチカさんらしくて好きですけど」
「本当にいい娘よね。杏里ちゃんって」
 ヤチカがうれしそうに微笑み返してくる。
「さ、乗って。これ、外車のくせにちょっと狭いけど、我慢してね」
 助手席のシートに坐ると、スカートが長すぎてシフトレバーにひっかかりそうになった。
 どうしようかともぞもぞ身じろぎしていると、運転席に乗り込んできたヤチカが、杏里のスカートをさっとめくりあげた。
「腰の後ろで縛っておけばいいから」
「でも・・・」
 杏里はむき出しになった太腿をもじもじと動かした。
 これでは少し動いただけで下着が見えてしまう。
 下着もやせぎすなヤチカに借りたものだから、杏里には小さすぎて、局部をかろうじて隠しているだけだ。
「そういえば」
 気持ちを切り替えようと、杏里はたずねた。
「さっきいってた『いいこと』って、何なんですか?」
「そうそれ」
 ヤチカが悪戯っぽい目つきをで杏里を見る。
 カーディガンのポケットから、何か取り出して、杏里の鼻先に掲げて見せた。
 紡錐形の、プラスチックの物体である。
 大人の親指ほどの大きさで、きれいなピンク色をしている。
 その片方の端から導線が伸びていて、長方形の小さな箱につながっていた。
「向こうに着くまで、これ着けてみない?」
「着けるって、あの・・、これ、何なんですか?」
 なんとなく嫌な予感がした。
 導線の先にあるのはどうやら電池ボックスのようだ。
 そこにスイッチがついているのが気になった。
「ローターっていうの」
 ヤチカが空いているほうの手で、スイッチを入れた。
 ぶーんと低い音を立てて、ピンクの玉が震え出す。
「これ、気持ちいいのよ」
 やにわにサマーセーターの上から、胸に当てられた。
「あ」
 乳首に振動を感じて、思わず杏里は硬直した。
「でね、こうするの」
 固まったままの杏里の股間にそれを近づける。
「どうして、そんなことするんですか」
 杏里は怒ってヤチカの手首を握った。
「どうしてまた、私を苛めるの?」
「だってね、ひどいのはあなたのほうよ」
 ヤチカが恨めしげにいった。
「ゆうべのこと、覚えてる? 杏里ちゃんったら、オーガスムスに達するたびに、お友だちの名前、呼ぶんだもの。『ゆら、ゆら』って。こんなにわたしが愛してあげてるのに」
「う、うそ」
 杏里は両手で口を押さえた。
 顔全体がカっと熱くなるのがわかった。
「ほーら、赤くなった。ふふ、今のは、ウソ。でも、その様子じゃ、わたしの思った通りよね。杏里ちゃん、あなた、その由羅って子のことが好きなんだ。友だちなんて、ウソなんでしょう? 本当は、その由羅って子、杏里ちゃんの恋人なんじゃないの?」
「違います」
 杏里は不必要に力を込めて、からかうようなヤチカの台詞を遮った。
「由羅は、パトスで、ただ私のパートナーっていうだけです。あんな気まぐれで傲慢な子、誰が・・・」
「そんなに強がっていいのかな? じゃ、わたしのこと、好き?」
 ヤチカの瞳がねっとりとした光を帯びる。
「・・・好き、です」
 小声で、杏里はいった。
 ウソではなかった。
 だから、ためらいなくそう口にすることができた。
「でも、あなたの話によると、わたしはあなたたちの敵なんでしょう? 好きになれるわけ、ないと思うけど。それに、わたし、人まで殺してるし。それも、五人も」
 ヤチカは容赦ない。
 だが、杏里もそれは考えた上でのことだった。
「わかってます」
 小声のままだが、きっぱりといった。
「でも、好きになっちゃったんだから、どうしようもないじゃないですか」
 涙腺がゆるむのがわかった。
 とっさに手の甲で涙を隠した。
 そうなのだ。
 人殺しで、外来種。
 しかも、両性具有ときているヤチカ。
 由羅が知ったら、きっと呆れ果てて、激怒するに違いない。
 おまえ、気でも狂ったのか、と。
 しかし、杏里はヤチカの優しさを失いたくなかった。
 これまで、人間たちは杏里を道具以下にしか扱ってくれなかったのだ。
 いたわりの言葉すら、誰一人としてかけてくれなかった。
 でも、ヤチカは違う。
 少なくとも、わたしを気に入ってくれている。
 外来種のどこがいけないの?
 心の冷たい人間たちよりも、よっぽど彼女のほうが、私のこと、大切に思ってくれている・・・。
「じゃ、証拠、見せてくれる?」
 元のいたずらっぽい表情に戻って、ヤチカがいった。
「わたしは杏里ちゃんの、恍惚とした顔を見るのが何よりも好きなの。変態っていわれてもいいよ。だって、あのときのあなた、食べちゃいたくなるくらい、愛くるしいんだもの」
「そ、そんな・・・」
 ヤチカの唇が近づいてくる。
 サマーセーターの下から差し入れられたローターが、乳首に触れる。
 股間をやさしく撫でられた。
「「あ、ぁぁ」
 感じる。
 また感じてしまう。
 まだ、日も高いのに。
 それも、こんな、車の中で。
「濡れちゃったね」
 唇を離し、ヤチカが囁いた。
 パンティの隙間から、ローターが入ってくる。
 襞の間をなぞられた。
「あう」
 杏里は無意識のうちに腰を浮かせていた。
 ヤチカが力をこめる。
 ぬるりとした感触とともに、ローターを一瞬にして杏里の膣が咥え込む。
「すごい。入っちゃった」
 ヤチカが歓声を上げた。
 振動がさざ波のように広がっていく。
「あぁん」
 杏里は激しく身をくねらせ、喘ぎ始めた。
「では、そのままで出発、と」
 ヤチカがセルを回し、エンジンをかける。
 杏里の身悶えが激しくなる。
 シートベルトに自由を奪われ、ローターにいちばん感じるところを責め続けられながら、杏里はいつしか恥ずかしいほどシートを濡らしてしまっていた。





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