激甚のタナトス ~世界でおまえが生きる意味について~【官能編】

戸影絵麻

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第7部 蹂躙のヤヌス

#20 翻弄される肌

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 巨大なアコーディオン・カーテンをくぐると、そこは煌びやかな調度類に囲まれた夢の中のような空間だった。
 高価そうな椅子やソファが囲む中、真ん中に天蓋付きのベッドがしつらえられている。
 ヤチカが柱に手を伸ばすと、かすかな音がして正面の壁が左右に開き、大きな鏡が現れた。
 洋箪笥の上には小物類と一緒に、人間の幼児ほどもある古風なビスクドールが乗っている。
 リリーだった。
 沼人形工房とインターネットでつながる、真布婆さんの監視装置である。
 手近な椅子のひとつに腰を下ろすと、傍にあったイーゼルを手元に引き寄せて、ヤチカが言った。
「懐かしいでしょう? 覚えてるかな、あの時のこと」
 杏里はただ突っ立ったまま、あたりを見回すばかりだった。
 改めて、こんなふうになっていたのかと思った。
 最初にここに来た日は、緊張しすぎていて、周囲を観察する余裕など、まるでなかったのだ。
「杏里ちゃん、あなたはまずそこの椅子に腰かけて、私に素敵なオナニーを見せてくれた」
 ヤチカが手にした鉛筆で、部屋の一画を指し示す。
 ビロードで覆われた肘掛椅子を見て、杏里は心持ち、頬を熱くした。
 言われてみれば、そうだった気がする。
 私はあそこでヤチカさんに誘導されて股を広げ、下着の上から股間を狂ったみたいにまさぐったのだ。
「次にそこのソファで、犬みたいに可愛いお尻を上げて、私の愛を受け容れてくれたわね」
 赤い革製のソファが杏里の視線をとらえた。
 ああ。
 記憶が疼き、同時に子宮の奥に火がともった。
 そう。
 杏里の性感帯をすべて知り尽くしたような、ヤチカのきめ細やかな愛撫は、あの時から始まったのだった。
「それから、私はあなたをあそこに吊るし、道具を使って責めに責めた」
 ヤチカが次に示したのは、天蓋付きのベッドである。
 今見ると、天蓋から拘束具のついた紐が何本も下がっているのがわかる。
「あなたは足を限界まで開き、身体の中心からとめどなく潮を吹いて、何度も何度も絶頂を迎えたものだった」
 ヤチカの独白は、しんみりした口調とは裏腹に、ほとんど淫語に近いものだった。
「あの時のあなたのお顔、一生忘れないと思う。初々しくて、それでいてたまらなく卑猥で…。私は、もう一度、あのお顔が見たい。そしてこの筆で、一冊の画集として、しっかり残しておきたいの」
「でも、今の私では…」
 杏里は口ごもった。
 あの時から、月日としては、2ヶ月ほどしかたっていないだろう。
 でも、その間に、色々変わってしまったのだ。
 ヤチカに調教され、性の深淵を覗き、沼真布に弄ばれ、そして零にまた殺されかけた。
 つい最近も、いずなという駆け出しのタナトスと情事を重ねたばかりである。
 おそらく、今の私に、初々しさなんて、かけらもない。
「そう、あなたは変わってしまった。でも、案じることはないのよ」
 杏里の言葉の先を読み取ったかのように、ヤチカが続けた。
「人間の細胞は、一日のうちで何万、何十万と死に絶え、新しいものに生まれ変わるの。それはおそらく、生命体である以上、タナトスも同じでしょう。いえ、むしろ、驚異的な再生能力を持つあなたたちの体内では、もっと速いサイクルで細胞の世代交代が進行しているはず。たぶんだけど、ほんの数日で全身の細胞がすべて入れ替わるくらいの勢いじゃないかしら。ということは、杏里ちゃん、あなたは日々生まれ変わっているってこと。だから、あなたはいつでも初々しさを失うことはない。条件さえそろえば、またあの淫蕩な美しさを見せてくれるはず」
「日々、生まれ変わる…?」
 杏里はひとりごちた。
 言われてみれば、そうかもしれないと思う。
 数日ごと、というのは大げさにしても、杏理にも実感がある。
 この体の中に巣くう無数のミトコンドリア。
 人間のそれに比べて、極めて優秀なエネルギー発生器官であるという。
 その証拠に、零に胸を断ち割られ、心臓を引きずり出されても、杏里は死ななかった。
 あの後、私は破壊された部位の再生とともに、また新たに生まれ変わったのかもしれない…。
「さ、もうそろそろかな」
 物思いに沈みかけていた杏里を、ヤチカのひと言が現実に引き戻した。
「え? 何がですか?」
 思わず聞き返すと、ヤチカがにらむ真似をした。
「やだな、もう忘れちゃったの? さっきのお薬、飲んでから6分で効き始めるって、教えてあげたでしょう?」
 ああ、と杏里は思った。
 そういえば、そうだった。
 でも、別に何も…。
 そう、口に出して言おうとした瞬間である。
 ふいに、両胸の先端に静電気が起きた時のようなしびれが走り、杏里はあっと声を上げた。
 え?
 な、何?
 上体をわずかに動かしただけで、またゾクっと来た。
 ハーフブラのへりに乳首がこすれるたびに、小爆発のように快感が生まれている。
 乳頭が、いつに増して、異常に過敏になっているのだ。
 その次に感じたのは、局部への下着の食い込みだった。
 今まで意識したことすらなかった食い込み具合が、急にありありと意識されてきて、杏里は無意識のうちにスカートの下から下着に手をやっていた。
「効いてきたわね」
 イーゼルにカンバスを立てかけ、鉛筆を掲げ持つと、ヤチカがつぶやいた。
 その姿が、杏里の視界の中で、ぐにゃりと揺らぐ。
 衣服に触れる肌という肌が、ひりひりする。
 まるで全身が性感帯と化してしまったかのように、いたるところで小規模の爆発が生まれていた。
 あまりの愉悦に、頭の中に靄がかかったように、思考がおぼろになる。
 バランスを崩してよろめいた時、テーブルの角がスカートの上から股間に当たった。
「あうっ」
 杏里はうめいた。
 すさまじい快感が中枢神経を駆け抜けたからだった。
 意識せずして、腰を動かしていた。
 テーブルに両手を突き、ぐいぐいと尖った角に局部を押しつける。
 でも、まだ足りない。
 まだ…。
 腰を狂ったように突き出しながら、朦朧とした頭でふと思う。
 まさか、こんな…。
 どうしちゃったの?
 杏里、あなた…おかしいよ…。
 が、その思いも、うねり来る嵐の前では無力だった。
 身体の動きに合わせ、ブラが乳首を刺激して、またしても脳裏に火花が弾け飛ぶ。
「いいねえ」
 ヤチカが感心したように言うのが聞こえてきた。
「もっともっと、乱れなさい。杏里ちゃん、あなた、見事にあの時のお顔になってるわよ」



 
 



 

 

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