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第7部 蹂躙のヤヌス

#46 サルベージ

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 ベットの橋に、並んで腰かける。
 重人は全裸、杏里はパンティ一枚の姿である。
 重人の陰茎に付着した精液は、杏里が舌で舐め取ってやった。
 だから青唐辛子に似たそれは、今は半立ちの状態で股間で濡れ光っている。
「じゃあ、その時のことを思い浮かべて」
 サルベージ。
 重人は他人の記憶をのぞくことができ、その作業をそう呼んでいる。
 約束通り、杏里は彼に自分をサルベージさせるつもりなのである。
「力を抜いて、大きく息を吐いて」
 重人が言い、おそるおそるといった感じで杏里の手に自分の手を重ねてきた。
 杏里はその汗ばんだ手をふくよかな胸の谷間に置くと、
「ほんとはこうしたいくせに」
 と、ふたつの乳房でぎゅっと挟み込んだ。
「杏里…」
 重人の頭が揺らぐ。
「しっかりしなさいよ。さ、早くのぞいてみて」
 肩に垂れてきた頭を小突いて元に戻させると、杏里は軽く目を閉じた。
 この間の美里との面談を思い出す。
 だれもいない音楽室。
 裸になり、バレリーナのように片足を上げ、かかとを壁につけている杏里。
 その開き切った股間に、美里が指揮棒を突っ込んでいる。
 言葉による侮蔑。
 高まる快感。
 次に気づいた時には、床に腹這いになっていた。
 そして、あれが始まった。
 入ってくる。
 口に、耳に、膣口に、アナルに、なにか異質な柔らかい物が。
 体内深く入り込んだそれは、まるで杏里の身体中の細胞から、生体エネルギーを吸収しているようにも思える。
 あまりの快感と脱力感で次第に意識が遠のいていき、杏里は口からよだれを、膣から愛液を垂れ流す。
 そうしてどれほど時間が経過したのか。
 ふと目を覚ますと、そこは己のあふれさせた体液の海の中だった…。
「こ、これは…」
 苦渋に満ちた重人の声で目を開けた。
 重人は顔を真っ赤にして、眼窩から半ば目を飛び出させている。
 股間ではまたしても陰茎がそそり立ち、包皮を自ら脱いだ亀頭が存在を主張し始めていた。
「見えた? 何かわかったの?」
 重人の右手を乳房に当てたまま、杏里はたずねた。
「い、いや、僕の意識はあくまで杏里の主観的視点からしか、物を見られないから」
 重人が首を振った。
「で、でも、なんとなく、君が言ってたこと、わかったよ。確かに、体の中に、何か入ってきた。それも、ひとつじゃない。複数の何かが…」
「でしょう? でも、何だと思う?」
「うーん、感触としては、ところてんか、寒天みたい…。あるいはイカの触手かな」
「ところてん?」
 重人の感想に杏里は吹き出した。
「そういわれてみれば、ぐにゃぐにゃしてるとこが似てるかもね」
「ひょっとすると、あれが美里の武器なのかもしれない。美里は攻守両面の機能を備えたタナトスなんだろう? 人間にない器官を身に備えていたって不思議じゃないよ」
「器官…つまり、美里先生の体の一部ってこと?」
「そう。にわかには信じられないかもしれないけど、その可能性はある」
「なるほどね」
 杏里は考え込んだ。
 こちらから美里に触れるのは叶わない相談だ。
 でも、あれが美里の身体の一部分だとするならば、あれが入ってきた時がチャンスということになる。
「そうだ」
 杏里はベッドから飛び降りた。
 机の上のカバンのポケットを探ると、いつかヤチカからもらった小箱が現れた。
 媚薬のアンプルが入った箱である。
「これ、使えるかも」
「なんだい? それ?」
「試してみる?」
「え?」
 アンプルはまだ5本もある。
 1本くらいならいいだろう。
 先を歯で折り取って、中の液体をいきなり重人の陰茎に振りかけた。
「ちょ、ちょっと、杏里ったら…あううっ」
 重人がのけぞった。
 むくむくと肉棒が大きくなる。
 見る間に反り返って、腹に着かんばかりに膨張した。
「ど、どうなってるの? こ、これ」
 重人が目を剥いて己の猛り狂う陰茎を凝視する。
「媚薬だよ。ヤチカさんにもらったの」
「な、なんだって?」
 あれほど大量に放出した後だというのに、重人の陰茎はまたおねだりするように大きく左右に揺れている。
 その先端に早くも射精の兆候を見て取って、杏里は言った。
「またすぐ出しちゃうのもつまんないでしょ? 今度はちょっとアクロバティックな体位に挑戦させてあげる」
 杏里の部屋には、さまざまな仕掛けが施されている。
 ヤチカの屋敷にインスパイアされて、自分なりに改良したものだ。
 天井の梁から下がるロープもそのひとつだった。
 ふだんはオナニーに使うのだが、他人に試してみるのも悪くない。
 ロープの一本を引き寄せて、それで重人の陰茎の根元を縛った。
 もう一方の端を握って、思いっきり下に引く。
「あふ」
 重人の身体が持ち上がり始めた。
 縛られた陰茎だけを支点にして、じりじりと宙に吊り下げられていく。
「はああう」
 重人は痛がっている様子もない。
 むしろ陶然とした顔で薄く口を開けている。
 胸の高さまで吊り上げると、杏里はロープの端をベッドのヘッドボードに括りつけた。
 重人のやせた子供じみた裸体は、今や頭と足を下にして、「へ」の字の形で宙に浮いている。
 杏里は両手に媚薬を塗りたくると、重人のむき出しの亀頭と勃起した乳首を手のひらで撫でさすり始めた。
「い、いい」
 がくんがくんと重人が揺れる。
「これを美里先生に使ったらどうかしら」
 手のひらの愛撫をくり返しながら杏里は言った。
「それには少し細工が必要だけど…あ、そうだ。冬美さんなら、あれ持ってるんじゃないかな。睡眠薬の錠剤」
 重人は応えない。
 答えられる状態ではないからだ。
 今度は、両手で陰茎をはさみ、擂粉木みたいに激しくこすってやる。
「あああああああっ!」
 海綿体に媚薬を塗り込まれ、重人がびくんびくんと面白いように痙攣する。
 尻の穴の奥にまで媚薬を塗り込むと、杏里は悶えのたうつ少年を放置して、部屋を出た。
 自分に媚薬が効いてくる前に、台所で手を洗う。
 あの様子じゃ、重人は当分役に立ちそうもない。
 そう思って、自分からいずなに電話をかけることにした。
 居間の家電を使った。
 2コールでいずなが出た。
「あ、いずなちゃん? 私、杏里。ひとつ、お願いがあるんだけど」
 ゆっくりと息を吐き出しながら、杏里は言った。
 
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