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第7部 蹂躙のヤヌス

#54 凌辱団地⑥

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 杏里の蜜壺からあふれ出る透明な汁を喉を鳴らして飲み干した豚女の末路は、もう確認するまでもなかった。
 己の下着をはぎ取り、あわあわ唸りながら劇烈な自慰行為にふけり出した醜女を後に残して、会議室を出た。
 廊下に立ち、自分の身体に目を落とす。
 杏里は全裸だった。
 たわわに実った乳房には、無残にも豚女の赤い手形が刻まれている。
 乳首は赤剥けになって、血がにじんでしまっている。
 わき腹や下腹にも爪でひっかいたような痕が何本も残っていた。
 タナトスの治癒能力を持ってすれば大した傷ではないが、見るからに痛々しい。
 どうしよう。
 周囲を見回した。
 どの道、裸では出て行けない。
 下着の替えなら、確かポーチの中に入れてあったはず。
 でも、ポーチはどこへいったのだろう。
 今後にしてきた会議室にはなかったようだ。
 あるとすれば、女子トイレだ。
 仕方ない。
 もう一度、トイレに戻り、身なりを整えるしかない。
 全裸の上にカーディガンを羽織り、廊下を小走りに横切って、女子トイレに戻った。
 トイレの床には、自分の体液にまみれた貧相な骸骨女が気を失って倒れていた。
 試しに足で蹴ってみた。
 動かない。
 完全に意識を失ってしまっているようだ。
 両手で足首を持って引きずり、廊下に放り出した。
 ふと話し声が聞こえた気がして、杏里はびくりと身をこわばらせた。
 空耳ではなかった。
 大勢の声と足音が近づいてくる。
 キリン女が、構内パトロールの面々を引き連れて戻ってきたのに違いない。
 杏里の顔に焦燥の色が浮かんだ。
 1対1なら切り抜ける自信はある。
 しかし、近づいてくる気配はひとりやふたりのものではない。
 4、5人か、あるいは下手をすると10人近くいそうである。
 その人数で一度に襲いかかられたら、骸骨女と豚女を仕留めた方法では埒が明かないのは目に見えている。
 どうしよう。
 私、どうすればいい?
 忙しく周囲を見回した。
 幸いなことに、ポーチは化粧台の下に転がっていた。
 それを拾い上げ、個室のひとつに飛び込んで、内側から鍵を閉めた。
 壁に背を預けて、深い溜息をつく。
 とりあえず、下着を替えることにした。
 ポーチを探ると、案の定、奥のほうにピンクのパンティが丸まって入っていた。
 地下鉄でもバスでも路上でも、周りの人間たちに杏里はよく襲われる。
 そのたびにパンティを濡らしてしまうのは、タナトスとしての悲しい性である。
 だから替えの下着は杏里にとって、一般の女性にとっての生理用品同様に、ある意味生活必需品なのだった。
 濡らしたトイレットペーパーで下半身を拭き、新しい下着を穿き終えると少し気分が落ちついてきた。
 ブラはほとんど汚れていないので、そのまま身に着けることにして、その上からカーディガンを羽織った。
 ショートパンツを穿き直そうとした時である。
 口の開いたままのポーチの中のあるものに目を留めて、杏里はふと考え込んだ。
 これ、使えないだろうか?
 杏里が見つけたのは、洒落た小箱である。
 中身はヤチカにもらった媚薬のアンプルだ。
 6本入りで、重人へのいたずらも合わせて今まで2本使ったから、まだ4本残っている。
 もしこれを一気に全部服用することで、膣から出る愛液以外をも媚薬に変えられたら…。
 唾液が、汗が、すべて媚薬効果を発揮するようになれば、相手に触れるだけで杏里は勝てるのだ。
 たとえそう、いくら強敵の美里が相手だとしても…。
 そうすれば、相手が何人いようと怖くはないのではないか?
 ふとそんな考えが閃いたのだ。
 危険な賭けではある。
 たった1本でも、その強烈な作用に苦しんだ経験は生々しくまだ身体が覚えている。
 でも、と思う。
 今の私なら耐えられるかもしれない。
 媚薬と美里の唾液で一時神経に変調を来したのは確かである。
 けど、そのおかげである程度の耐性もできたのではないだろうか。
 根拠はないが、そう思えてならないのだ。
 目には目を。
 毒には毒を。
 それならば、最高に乱れるほうがいいのかもしれない。
 更にポーチを探ってみた。
 思った通りだった。
 ハンカチに包まれた”あれ”も入っていた。
 いつか重人といずなに手伝ってもらって外した時、何かの役に立つかもしれないと思ってしまっておいたのだ。
 ハンカチの中から転がり出た極小の指輪のようなもの。
 それは、美里に装着されたあのクリトリスリングだった。
 これを、もう一度あそこに装着し、その上で4本の媚薬アンプルを飲む。
 効果はたちまちのうちに現れることだろう。
 後は私の精神がどれだけその快楽に耐えられるかということだ。
 一度穿いたパンティを再びずり下げると、杏里は便座に腰を下ろした。
 心持ち開いた股の間に、リングをつまんだ指をそっと近づけていく。
 さすがに手が震えた。
 ひとつ間違えば、精神に異常をきたしたまま、もう元に戻れないかもしれないのだ。
 が、杏里に決断させたのは、廊下に響いてきた複数の声だった。
「やだ、るり子さんじゃない? どうしたのかしら? こんな真っ裸で」
「まあ、見てよ、会議室の中。こっちには百合ちゃんが」
「あいつよ! きっとあの小娘の仕業だわ!」
 キリン女の声がした。
「探すのよ! まだそんなに遠くには行っていないはず!」
 もう後には引けなかった。
 杏里は充血して膨れ上がった陰核を恐る恐る指でつまみ上げると、リングの穴にその先端をそっとくぐらせにかかった。
 かすかな手応えとともに、陰核の根元にリングが食い込んだ。
 とたんに、あの倒錯した感覚が戻ってきた。
 奴隷にまで貶められたような、ぞくぞくするあの感じ…。
 獣になるの。
 快感にともすれば漏れそうになる喘ぎを噛み殺しながら、杏里は自分に言い聞かせた。
 杏里、あなたは今から、淫らな獣になりなさい。

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