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第8部 妄執のハーデス

#24 車中での実験

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 ”触手”の”開花”は、杏里の身体に微妙な変化をもたらしたようだった。

 それが手に取るように実感されたのは、翌朝の通学時のバスの車中でのことである。

 この日も杏里は長年の習慣で、かなり際どく制服を着こなしていた。

 ブレザーの胸元から覗く純白のブラウスは、第2ボタンまで外され、陰影の深い乳房の谷間を見せている。

 下乳だけ支えるいつもの極小ブラだから、その下にはまるで何も身に着けていないように見える。

 スカートは学校指定のものではあるけれど、その丈の短さはどの不良少女にも負けないほどだ。

 股下0センチなので、座席に座るだけで下着が見えてしまう。

 そしてその下着はといえば、これがまた限界まで布を節約した超ビキニショーツだから、スカートの裾から覗いた時の衝撃度は抜群だった。

 その杏里がバスに乗り込むと、車内の半分ほどを埋めていた乗客たちが一斉に静まり返った。

 自信喪失のせいか、一時薄まっていたタナトス特有のフェロモンが、濃さを取り戻していた。

 触手の分泌する媚薬成分を、一晩中再吸収し続けたせいだろうか。

 杏里の開いた胸元や超ミニのスカートの下から、体温で暖められた麝香に似た香りがあふれ出し、瞬く間に車中に拡散していくようだった。

 ひとつだけ空いた席を見つけ、そこに尻を割り込ませた。

 両サイドは、どちらも若い女性である。

 右側の女は、化粧品のセールスレディででもあるのか、流行のスーツをスタイルのいい身体にぴっちり着こなしている。

 左側は、スタジャンに白いTシャツ、そしてダメージジーンズという、ラフな格好をした短髪の女子大生だ。

 ふたりは明らかに最初から近づく杏里を目で追っていたようだ。

 杏里が腰を落ち着けるなり、さっそく行動を開始したのである。

 まず、ストレートヘアのOLが、さりげなく杏里の太腿に手を滑らせてきた。

 しばらく手のひらで肌の感触を味わっていたかと思うと、そのままスカートの中に手を差し入れてきた。

 股間の三角ゾーンをショーツの上から撫で上げられ、杏里は思わず膝を閉じようとした。

 が、その時にはすでに女子大生のほうも動いていた。

 杏里の肩に左手を回すと、肩越しにブラウスの胸元に手を突っ込んできたのである。

 たちまちブラをずらされ、乳房をつかまれた。

 四本の指で全体を弄びながら、中指1本で執拗に乳首を弾いてくる。

 杏里は無言のまま、左右のふたりを見回した。

 ふたりとも、奇麗に化粧した顔に汗の粒を浮かべ、行為に没頭してしまっている。

 どちらもそこそこ美人だから、口臭の臭い中年男に触られるのに比べれば、我慢できないほどではない。

 が、これまでのように、ただやられっ放しになっていなければならないという決まりは、どこにもない。

 杏里は試してみることにした。

 うまくいけば、これぞ究極の浄化の手段ということになる。

 わが身をほとんど汚さずに、対象の”死への衝動”を、エロスに変換してしまうことができるのだ。

 ブラウスの裾をめくり、スカートとの間の皮膚から、目立たぬように触手を顕現させた。

 触手は最初、ほとんど実体を持たないから、よほど目を凝らさない限り、薄い煙のようにしか見えない。

 昨夜夜通し触手で自慰に耽ったせいで、手足同然に扱うことができた。

 1本をOLのタイトスカートの裾に、もう1本を女子大生のジーンズの腿の辺りに開いた穴に滑り込ませていく。
 
 それぞれの太腿に沿って触手を這わせていき、最深部を探り当てた。

 熱く湿った熱源を発見して、触手たちが蠕動し始める。

 眉間に力を籠め、指令を送った。

 同時に2本の触手が実体化し、それぞれの下着の隙間に分け入って、肉襞の隙間に突入する。

「はうっ」

「くっ」

 両サイドから喘ぎ声が上がり、杏里の耳の中でひとつになった。

 杏里は両手を水平に伸ばし、左右の女の、それぞれ大きさの違う胸乳を服の上から力任せにつかんでやった。

「だ、だめ! ちょ、ちょっと」

 乳首をひねり上げると、OL風の女がうめいた。

「や、やめ…て」

 尻をもぞもぞ動かしながら、甘ったるい声で女子大生が熱い吐息を漏らした。

「いっちゃいなさい」

 低い声で杏里はささやいた。

「ふたり一緒に、イッちゃえばいい」






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