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第8部 妄執のハーデス
#26 渦の中心
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校門をくぐる前から、杏里は気づいていた。
周囲からの視線が、強くなっている。
視線に晒されることが多いだけに、杏里にはその種類がわかる。
これは皆、私の身体を欲しがっている視線。
やっぱり、吸引力が増しているのだ。
美里から取り入れた体質が、杏里自身のフェロモンを増幅して、受粉期の雄花が花粉をまき散らすように、広い範囲に渡って、周りに影響を与えている…。
下駄箱で靴を履き替える時もそうだった。
杏里の姿をひと目見ようと、生徒たちがついてくる。
杏里にとっては珍しい体験ではない。
が、今朝は絶好調だった時よりも、更に観衆が多いようだった。
杏里の極端に短いスカートから、形のいい尻にぴたりと貼りついた下着が覗くたびに、人垣から溜息が漏れた。
上靴に履き替え、階段を上る段になると、後ろに長い行列ができてしまった。
誰も杏里を追い越そうとしない。
男子ばかりでなく、女子ですらそうだった。
みんな階段を上がる杏里から一定の距離を取り、下からじっとその後ろ姿を凝視しているのだ。
停滞を注意しようとした教師も、例外ではなかった。
棒立ちになって階段を見上げている生徒たちに声をかけようとしたところで杏里の姿に気づき、金縛りに遭う。
まさにそんな感じだった。
階段を上り切ると、正面は鏡になっている。
その前で、杏里は足を止めた。
鏡に映るのは、いつもの自分の姿だ。
胸元がしどけなく開き、ふっくらとした胸の一部が覗いたブラウス。
限界まで切り詰めてあるせいで、少し開いた太腿の間から白い下着の一部を露出させたひだスカート。
細い首の上の顔は、小さめな分、瞳が大きく、自分でも怖いくらいに愛らしい。
少し伸びてきた髪には、肩の上あたりで柔らかなウェーブがかかっている。
姿かたちに変わった点はなかったが、以前と異なるものがあるとすれば、それは肌の質感と瞳の色だった。
美里のDNAを引き継いだためだろうか。
白磁のように白かった肌に、ほんのりと飴色の光沢が混じってきている。
そして、漆黒だった瞳の中心にも、赤味を帯びた点が生じてきていた。
ただそれだけの違いが、杏里を外国人とのハーフのように見せている。
持ち前の淫蕩な雰囲気に、熱情を秘めた色合いが加味されたような、そんな印象だ。
野性味がプラスされた、とでもいえばいいだろうか。
鏡での点検を済ませ、教室に向かって、廊下を歩いた。
行軍を再開した大名行列みたいに、すぐ後ろを何十人もの生徒や教師たちが、無言でついてくる。
杏里が自分の席に座ってからですら、彼らは廊下側の窓や入口周辺に鈴なりになったままだった。
やがてチャイムが鳴り、担任の木更津の声が廊下に響いた。
「も、もう時間だ。こら、早く自分の教室に戻れ」
自分も杏里の後ろに付き従っていたくせに、チャイムの音でやっと我に返ったらしい。
夢から覚めたように、ぞろぞろと四方に散っていく生徒や教師を見送ると、木更津が教室に入ってきた。
そして、最後列に列に座っている杏里を照れたような表情で見やると、困惑したような声で言った。
「あのな、笹原。ちょっと、言いにくいんだが…。明日から、もう少し大人しい格好で来てくれないか。なんというか…おまえ、どうも刺激が強すぎて、教育上、非常にまずいと思うんだ」
周囲からの視線が、強くなっている。
視線に晒されることが多いだけに、杏里にはその種類がわかる。
これは皆、私の身体を欲しがっている視線。
やっぱり、吸引力が増しているのだ。
美里から取り入れた体質が、杏里自身のフェロモンを増幅して、受粉期の雄花が花粉をまき散らすように、広い範囲に渡って、周りに影響を与えている…。
下駄箱で靴を履き替える時もそうだった。
杏里の姿をひと目見ようと、生徒たちがついてくる。
杏里にとっては珍しい体験ではない。
が、今朝は絶好調だった時よりも、更に観衆が多いようだった。
杏里の極端に短いスカートから、形のいい尻にぴたりと貼りついた下着が覗くたびに、人垣から溜息が漏れた。
上靴に履き替え、階段を上る段になると、後ろに長い行列ができてしまった。
誰も杏里を追い越そうとしない。
男子ばかりでなく、女子ですらそうだった。
みんな階段を上がる杏里から一定の距離を取り、下からじっとその後ろ姿を凝視しているのだ。
停滞を注意しようとした教師も、例外ではなかった。
棒立ちになって階段を見上げている生徒たちに声をかけようとしたところで杏里の姿に気づき、金縛りに遭う。
まさにそんな感じだった。
階段を上り切ると、正面は鏡になっている。
その前で、杏里は足を止めた。
鏡に映るのは、いつもの自分の姿だ。
胸元がしどけなく開き、ふっくらとした胸の一部が覗いたブラウス。
限界まで切り詰めてあるせいで、少し開いた太腿の間から白い下着の一部を露出させたひだスカート。
細い首の上の顔は、小さめな分、瞳が大きく、自分でも怖いくらいに愛らしい。
少し伸びてきた髪には、肩の上あたりで柔らかなウェーブがかかっている。
姿かたちに変わった点はなかったが、以前と異なるものがあるとすれば、それは肌の質感と瞳の色だった。
美里のDNAを引き継いだためだろうか。
白磁のように白かった肌に、ほんのりと飴色の光沢が混じってきている。
そして、漆黒だった瞳の中心にも、赤味を帯びた点が生じてきていた。
ただそれだけの違いが、杏里を外国人とのハーフのように見せている。
持ち前の淫蕩な雰囲気に、熱情を秘めた色合いが加味されたような、そんな印象だ。
野性味がプラスされた、とでもいえばいいだろうか。
鏡での点検を済ませ、教室に向かって、廊下を歩いた。
行軍を再開した大名行列みたいに、すぐ後ろを何十人もの生徒や教師たちが、無言でついてくる。
杏里が自分の席に座ってからですら、彼らは廊下側の窓や入口周辺に鈴なりになったままだった。
やがてチャイムが鳴り、担任の木更津の声が廊下に響いた。
「も、もう時間だ。こら、早く自分の教室に戻れ」
自分も杏里の後ろに付き従っていたくせに、チャイムの音でやっと我に返ったらしい。
夢から覚めたように、ぞろぞろと四方に散っていく生徒や教師を見送ると、木更津が教室に入ってきた。
そして、最後列に列に座っている杏里を照れたような表情で見やると、困惑したような声で言った。
「あのな、笹原。ちょっと、言いにくいんだが…。明日から、もう少し大人しい格好で来てくれないか。なんというか…おまえ、どうも刺激が強すぎて、教育上、非常にまずいと思うんだ」
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