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第8部 妄執のハーデス

#76 インターバル⑧

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 由羅が優しく髪を撫で、杏里の顎に手をやって、顔を上げさせた。

「気にすることはないさ。杏里、おまえはよくやってる。だから誰が何と言おうと、うちらが負けるはずがない」

「でも…」

 杏里は何かを訴えかけるような瞳で、由羅の切れ長の目をのぞきこむ。

「私のせいで、由羅まで死んじゃったら…」

 そう。

 それが、一番つらい。

「そんなの、今考えたって仕方ないだろ? うちらは、今できることをやる。それだけだよ」

 由羅の表情は、限りなく柔らかだ。

 これまで、杏里が見たことのないくらい。

 この子、こんなに慈愛に満ちた顔ができるんだ。

 新たな発見に、杏里は心が震える思いだった。

 気持ちをしっかり持たなくては、と思う。

 この子を、死なせないためにも。

「今、できること?」

「ああ。まだ眠るには早すぎる。うちは、別に、さっきの治療の続きをしてもらってもかまわないよ」

 由羅の顔に、悪戯っぽい微笑が浮かんだ。

 ついさっきまではあまり乗り気ではなさそうだったのに、どういう心境の変化だろう。

「そのほうが、おまえも落ち着くだろう?」

 ベッドのサイドボードに置いた腕時計に眼をやると、午後9時を過ぎたばかりである。

 もう、後半の2試合が済み、勝者が決まった頃かもしれない。

 いったい、次はどのチームと戦うことになるのか。

 神様、できれば、Xではありませんように…。

「顔はだいたい治ったね。右目の腫れも、充血も引いてるわ」

 気を取り直し、由羅の頬を両手ではさみ、杏里は言った。

「ああ。さすがタナトスだ。もう、どこも痛くない」

「身体を見せて。マコトにかなり殴られてたでしょ」

 ベッドの上に膝立ちになった由羅の、引き締まった肉体に杏里はゆっくりと手のひらを這わせていく。

「つっ」

 由羅が顔をしかめたのは、杏里の手が肋骨の下部にさしかかった時だった。

「ここ、痛む?」
 
 気遣わしげなまなざしで、由羅を見上ると、

「ちょっとね」

 由羅が、情けなさそうな笑みを返してきた。

「骨に、ひびが入ってるかも」

「だな。あいつ、滅茶苦茶やりやがったから」

 ため息混じりに由羅が言う。

「もう少し、本格的な治療が必要だね」

「頼めるか?」

「うん」

 杏里は自身の裸体に眼をやった。

 鎖骨のあたりから太腿にかけて、オレンジ色の斑点が点在している。

 タナトスだからか、その数は由羅に比べて圧倒的に多い。

 特に色が濃いのは、案の定、乳首だった。

「ねえ、由羅」

 杏里は由羅の手を取り、自分の胸に導いた。

「ここを、責めて」

「こうか」

 由羅が、両手の指でふたつの乳首をつまんだ。

 くう。

 条件反射のように、身体を震わす杏里。

「もっと、強く」

 由羅が、こよりをよじり合わせるみたいに、親指と人差し指で乳首をいじり始めた。

「相変らず、敏感だな」

 真顔で由羅が言う。

「でも、杏里のその顔、たまらなく好きだよ」

「いいよ…由羅」

 杏里の息が荒くなる。

 吐息が甘い匂いを帯びてくる。

「強く…もっと」

 その要望に応えるように、由羅が乳首を左右に強く引っ張った。

 柔らかで大きな乳房が伸び、由羅の指の動きに合わせて変形する。

 限界まで引っ張っておいて、由羅が指を放した。

 指から解放され、ゴムみたいに乳房が元に戻る。

 それを何度も繰り返されると、抗し難い酩酊感に唇が自然と半開きになり、杏里の顎を唾液が伝い落ちた。

「ああ…」

 白い喉をのけぞらせる杏里。

「乳首、こんなに硬くして」

 言いながら、由羅が杏里の顎の裏をひと舐めした。

「これだからおまえは可愛いよ。もっともっと、いじめたくなる」

「いいよ、もっと、もっと、いじめて…ほしい」

 腰から上をくねらせて、杏里はねだるように囁いた。

 潤んだような瞳で、由羅の眼を見つめ続けている。

「ほんと、エッチなやつ」

 にやりと笑うと、由羅が杏里の乳首をつまんだまま、激しく上下に手を動かし始めた。

 たぷんたぷんと波打ちながら、大きく揺れる杏里の乳房。

「あんあんあんっ!」

 叫んだ。

 鋭い快感に、杏里は叫ばずにはいられなかった。

 じゅるり。

 子宮の奥底で生まれたマグマが奔流と化し、どろりと杏里の蜜壺に満ちてきた。

 それはたちまち”唇”からあふれ出して、シーツに大きな染みをつくっていく。

 サイコジェニーのせいでいったん沈静化した愛液の分泌が、前より量を増して再開された証拠だった。

「ありがとう。もう、大丈夫」

 喘ぎ声の合間に、杏里は言った。

「さ、今度は、ベッドに、仰向けに寝て。治療を、始めるから」

「わかった」

 乳首から手を放して、由羅がうなずいた。

「行くよ」

 由羅がベッドに仰向けに寝ると、杏里はおもむろにその上にまたがった。

 由羅の鳩尾あたりにぺたんと濡れた股間を押しつけて、少しずつ腰を前後に動かし始める。

 濡れそぼった秘裂から滲み出す粘液が、由羅のなめらかな腹の上に、蝸牛が這った跡のようなぬめりを残す。

 杏里の肉襞がまるで独立した生き物のように蠢き、痛んだ由羅の肌を舐めていく。

 媚薬効果と治癒効果を持つ杏里の淫汁が、スポンジに吸われるようにその由羅の皮膚に沁み込んでいくのだ。

「お、重い。でも、気持ち、いい」

 杏里を見上げ、由羅が顔をしかめた。

「重いって、言わないで」

 腰を動かしながら、杏里が唇を尖らせる。

 ぬめりはかなり広がって、今は由羅の負傷箇所あたりまで来ている。
 
「お返しだ」

 由羅が笑って、下から手を伸ばしてきた。

「やんっ」

 勃起したふたつの乳首をいきなりねじられ、杏里はまたしても、喉に絡んだ甘ったるい嬌声を発した。 


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