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第8部 妄執のハーデス
#77 インターバル⑨
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ふたりとも、いつのまにか疲れて眠っていたらしい。
翌朝、目を覚ますと、杏里はシーツの下で、由羅と手足を絡め合ったまま、固く抱き合っていた。
「ゆら…」
小声で名前を呼び、目の前の形のいい唇に軽くキスをする。
「ああ…朝か」
由羅が眼を開け、杏里を一度強く抱きしめ、ツンと上を向いた乳首に指先で軽くタッチすると、大儀そうに上体を起こした。
「今、何時だ?」
「8時。ちょっと寝過ぎちゃったみたいだね」
サイドボードの腕時計で時刻を確かめ、杏里は答えた。
由羅がベッドから出て、裸のまま浴室のほうへと歩いていく。
その後ろ姿は、細身ながら全身をほどよく筋肉に覆われ、野生動物さながらに美しい。
やがてシャワーの音がして、しばらくすると、髪をタオルで拭きながら由羅が戻ってきた。
「食堂へ行こう。きのうの結果が発表されているはずだ」
「待って。私も準備する」
トイレを済ませ、シャワーを浴び、歯を磨く。
戻ると、戦闘服に着替えた由羅が目の周りにシャドウを塗っていた。
旅行バッグから新しい衣装を取り出し、着換えにかかる。
タナトスにとって、見かけは重要である。
いかに自身をセクシーに演出するかによって、稼働率が変わってくるからだ。
今回杏里が選んだのは、身体に密着した白いレオタードと、腰に巻くだけのピンクのマイクロミニだった。
レオタードには、むろんカップも裏地もついていないから、乳首や乳輪、へそなどは、細部までくっきり浮き出てしまっている。
スカートをめくれば、恥丘の部分も同様だった。
「いいよ」
由羅にうなずいてみせ、先に部屋を出た。
館内は温度調節が効いているので、杏里のような軽装でも、決して寒くはなかった。
むしろ、革の胴着とレギンス、そしてブーツを身に着けている由羅のほうが、暑そうである。
エスカレーターで1階に上がり、新しくエントランスに取り付けられたシャッターを横目に見て、奥の食堂へと足を運ぶ。
当然、最初に向かったのは、トーナメント表の貼られた掲示板の前である。
ピラミッド型のトーナメント図には、下から2段目まで赤のマジックで線が引かれ、新たな対戦を示していた。
「ふう」
じっと表を眺めていた由羅が、肩で大きくため息をついた。
杏里には、そのため息の理由が痛いほどわかった。
杏里たちCチームの次の相手。
それは、幸か不幸か、Xではなかったのだ。
チームE。
あの3人組の、アイドル然とした少女たちである。
「とりあえず、次で死ぬことはなさそうだ」
杏里の肩に手を置いて、由羅がほっとしたようにつぶやいた。
「でも、その分、あの子たちを…」
殺さねばならない。
そう言いかけて、杏里は口をつぐんだ。
あの残忍なやり方で柚木たちを殺したXが相手なら、全力で立ち向かうことにためらいはない。
だが、あの3人組はどうなのだろう?
私たちの手で殺さねばならないほど、極悪非道の相手と言えるのだろうか…。
「もちろん、油断は禁物だ。チームEは、ゆうべ、倉田彩名たちチームFを倒してる。彩名がどんな能力の持ち主だったか、今となっては知りようがないけれど、あの3人組の力も侮れないと思う」
由羅がそこまで言った時だった。
レストランの入口のほうが急に賑やかになって、当の3人組がスキップするような足取りでなだれ込んできた。
「ごはんっ、ごはんっ」
「今日は何かなっ、何かなっ」
「納豆大好き平城京っ、平城京っ」
「やだリタったら何それ?」
「お勉強ったら、お勉強っ」
パタパタ足音を立てながら杏里たちを取り囲むと、掲示板を見上げるなり、
「やたー! らっきい! Xじゃない!」
「Cチームって、誰だっけ」
「あのエロい姉さんと怖いバットガールのところじゃない? ってか、あ、ふたりとも、ここにいるよ」
「怖い、なんだって?」
自分より背の低い3人を見下ろして、由羅がたずねた。
「バットガール。だってその髪型、もろコウモリでしょ?」
ひとりが言うなり、どっとばかりに笑い転げる3人組。
顔だちも衣装も体つきもそっくりで、誰が誰だかさっぱりわからない。
「なんなんだ? こいつら」
由羅が憮然とした表情でひとりごちた時、奥のテーブルで大柄な人影が立ち上がるのが、ふいに杏里の視界の隅に入ってきた。
翌朝、目を覚ますと、杏里はシーツの下で、由羅と手足を絡め合ったまま、固く抱き合っていた。
「ゆら…」
小声で名前を呼び、目の前の形のいい唇に軽くキスをする。
「ああ…朝か」
由羅が眼を開け、杏里を一度強く抱きしめ、ツンと上を向いた乳首に指先で軽くタッチすると、大儀そうに上体を起こした。
「今、何時だ?」
「8時。ちょっと寝過ぎちゃったみたいだね」
サイドボードの腕時計で時刻を確かめ、杏里は答えた。
由羅がベッドから出て、裸のまま浴室のほうへと歩いていく。
その後ろ姿は、細身ながら全身をほどよく筋肉に覆われ、野生動物さながらに美しい。
やがてシャワーの音がして、しばらくすると、髪をタオルで拭きながら由羅が戻ってきた。
「食堂へ行こう。きのうの結果が発表されているはずだ」
「待って。私も準備する」
トイレを済ませ、シャワーを浴び、歯を磨く。
戻ると、戦闘服に着替えた由羅が目の周りにシャドウを塗っていた。
旅行バッグから新しい衣装を取り出し、着換えにかかる。
タナトスにとって、見かけは重要である。
いかに自身をセクシーに演出するかによって、稼働率が変わってくるからだ。
今回杏里が選んだのは、身体に密着した白いレオタードと、腰に巻くだけのピンクのマイクロミニだった。
レオタードには、むろんカップも裏地もついていないから、乳首や乳輪、へそなどは、細部までくっきり浮き出てしまっている。
スカートをめくれば、恥丘の部分も同様だった。
「いいよ」
由羅にうなずいてみせ、先に部屋を出た。
館内は温度調節が効いているので、杏里のような軽装でも、決して寒くはなかった。
むしろ、革の胴着とレギンス、そしてブーツを身に着けている由羅のほうが、暑そうである。
エスカレーターで1階に上がり、新しくエントランスに取り付けられたシャッターを横目に見て、奥の食堂へと足を運ぶ。
当然、最初に向かったのは、トーナメント表の貼られた掲示板の前である。
ピラミッド型のトーナメント図には、下から2段目まで赤のマジックで線が引かれ、新たな対戦を示していた。
「ふう」
じっと表を眺めていた由羅が、肩で大きくため息をついた。
杏里には、そのため息の理由が痛いほどわかった。
杏里たちCチームの次の相手。
それは、幸か不幸か、Xではなかったのだ。
チームE。
あの3人組の、アイドル然とした少女たちである。
「とりあえず、次で死ぬことはなさそうだ」
杏里の肩に手を置いて、由羅がほっとしたようにつぶやいた。
「でも、その分、あの子たちを…」
殺さねばならない。
そう言いかけて、杏里は口をつぐんだ。
あの残忍なやり方で柚木たちを殺したXが相手なら、全力で立ち向かうことにためらいはない。
だが、あの3人組はどうなのだろう?
私たちの手で殺さねばならないほど、極悪非道の相手と言えるのだろうか…。
「もちろん、油断は禁物だ。チームEは、ゆうべ、倉田彩名たちチームFを倒してる。彩名がどんな能力の持ち主だったか、今となっては知りようがないけれど、あの3人組の力も侮れないと思う」
由羅がそこまで言った時だった。
レストランの入口のほうが急に賑やかになって、当の3人組がスキップするような足取りでなだれ込んできた。
「ごはんっ、ごはんっ」
「今日は何かなっ、何かなっ」
「納豆大好き平城京っ、平城京っ」
「やだリタったら何それ?」
「お勉強ったら、お勉強っ」
パタパタ足音を立てながら杏里たちを取り囲むと、掲示板を見上げるなり、
「やたー! らっきい! Xじゃない!」
「Cチームって、誰だっけ」
「あのエロい姉さんと怖いバットガールのところじゃない? ってか、あ、ふたりとも、ここにいるよ」
「怖い、なんだって?」
自分より背の低い3人を見下ろして、由羅がたずねた。
「バットガール。だってその髪型、もろコウモリでしょ?」
ひとりが言うなり、どっとばかりに笑い転げる3人組。
顔だちも衣装も体つきもそっくりで、誰が誰だかさっぱりわからない。
「なんなんだ? こいつら」
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