激甚のタナトス ~世界でおまえが生きる意味について~【官能編】

戸影絵麻

文字の大きさ
228 / 288
第8部 妄執のハーデス

#77 インターバル⑨

しおりを挟む
 ふたりとも、いつのまにか疲れて眠っていたらしい。

 翌朝、目を覚ますと、杏里はシーツの下で、由羅と手足を絡め合ったまま、固く抱き合っていた。

「ゆら…」

 小声で名前を呼び、目の前の形のいい唇に軽くキスをする。

「ああ…朝か」

 由羅が眼を開け、杏里を一度強く抱きしめ、ツンと上を向いた乳首に指先で軽くタッチすると、大儀そうに上体を起こした。

「今、何時だ?」

「8時。ちょっと寝過ぎちゃったみたいだね」

 サイドボードの腕時計で時刻を確かめ、杏里は答えた。

 由羅がベッドから出て、裸のまま浴室のほうへと歩いていく。

 その後ろ姿は、細身ながら全身をほどよく筋肉に覆われ、野生動物さながらに美しい。

 やがてシャワーの音がして、しばらくすると、髪をタオルで拭きながら由羅が戻ってきた。

「食堂へ行こう。きのうの結果が発表されているはずだ」

「待って。私も準備する」

 トイレを済ませ、シャワーを浴び、歯を磨く。

 戻ると、戦闘服に着替えた由羅が目の周りにシャドウを塗っていた。

 旅行バッグから新しい衣装を取り出し、着換えにかかる。

 タナトスにとって、見かけは重要である。

 いかに自身をセクシーに演出するかによって、稼働率が変わってくるからだ。

 今回杏里が選んだのは、身体に密着した白いレオタードと、腰に巻くだけのピンクのマイクロミニだった。

 レオタードには、むろんカップも裏地もついていないから、乳首や乳輪、へそなどは、細部までくっきり浮き出てしまっている。

 スカートをめくれば、恥丘の部分も同様だった。

「いいよ」

 由羅にうなずいてみせ、先に部屋を出た。

 館内は温度調節が効いているので、杏里のような軽装でも、決して寒くはなかった。

 むしろ、革の胴着とレギンス、そしてブーツを身に着けている由羅のほうが、暑そうである。

 エスカレーターで1階に上がり、新しくエントランスに取り付けられたシャッターを横目に見て、奥の食堂へと足を運ぶ。

 当然、最初に向かったのは、トーナメント表の貼られた掲示板の前である。

 ピラミッド型のトーナメント図には、下から2段目まで赤のマジックで線が引かれ、新たな対戦を示していた。

「ふう」

 じっと表を眺めていた由羅が、肩で大きくため息をついた。

 杏里には、そのため息の理由が痛いほどわかった。

 杏里たちCチームの次の相手。

 それは、幸か不幸か、Xではなかったのだ。

 チームE。

 あの3人組の、アイドル然とした少女たちである。

「とりあえず、次で死ぬことはなさそうだ」

 杏里の肩に手を置いて、由羅がほっとしたようにつぶやいた。

「でも、その分、あの子たちを…」

 殺さねばならない。

 そう言いかけて、杏里は口をつぐんだ。

 あの残忍なやり方で柚木たちを殺したXが相手なら、全力で立ち向かうことにためらいはない。

 だが、あの3人組はどうなのだろう?

 私たちの手で殺さねばならないほど、極悪非道の相手と言えるのだろうか…。

「もちろん、油断は禁物だ。チームEは、ゆうべ、倉田彩名たちチームFを倒してる。彩名がどんな能力の持ち主だったか、今となっては知りようがないけれど、あの3人組の力も侮れないと思う」

 由羅がそこまで言った時だった。

 レストランの入口のほうが急に賑やかになって、当の3人組がスキップするような足取りでなだれ込んできた。

「ごはんっ、ごはんっ」

「今日は何かなっ、何かなっ」

「納豆大好き平城京っ、平城京っ」

「やだリタったら何それ?」

「お勉強ったら、お勉強っ」

 パタパタ足音を立てながら杏里たちを取り囲むと、掲示板を見上げるなり、

「やたー! らっきい! Xじゃない!」

「Cチームって、誰だっけ」

「あのエロい姉さんと怖いバットガールのところじゃない? ってか、あ、ふたりとも、ここにいるよ」

「怖い、なんだって?」

 自分より背の低い3人を見下ろして、由羅がたずねた。

「バットガール。だってその髪型、もろコウモリでしょ?」

 ひとりが言うなり、どっとばかりに笑い転げる3人組。

 顔だちも衣装も体つきもそっくりで、誰が誰だかさっぱりわからない。

「なんなんだ? こいつら」

 由羅が憮然とした表情でひとりごちた時、奥のテーブルで大柄な人影が立ち上がるのが、ふいに杏里の視界の隅に入ってきた。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

女子切腹同好会

しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。 はたして、彼女の行き着く先は・・・。 この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。 また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。 マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。 世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...