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第8部 妄執のハーデス

#117 流出⑥

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 零の舌が大脳皮質の表面を舐めるたび、虹色の閃光が脳裏でひらめき、杏里は悶絶した。
 大量のドーパミンが神経の樹状突起から放出され、受容体を通り抜けて高速で全身へと広がっていく。
「変ね」
 零が杏里を突き放したのは、5分ほどしてからのことだった。
「やっぱり、あなた、どこか変。さっきからおかしいとは思ってたけど」
 杏里の裸体を壁に押しつけて、零が残った左目をじいっと覗き込んでくる。
「最初はちゃんと苦しがってたよね。私好みのあの表情で。なのに、今のは何? どうしてこんなにされて、エクスタシーを感じてるわけ?」
 零の右手が杏里の股の間に伸び、濡れた秘所をずるっと撫でた。
「ほら、ここ、びしょ濡れじゃない。何よ、これ? どういうこと? まさか、私のやり方が、手ぬるいとでも?」
 杏里はゆるゆるとかぶりを振った。
「それは、私が、タナトスだから…」
「タナトスは不死身だから、、どんな苦痛にも耐えられるってこと?」
 零の切れ長の眼が、すっと細くなる。
 杏里が苦痛の表情を見せないことに、明らかに気分を害しているようだ。
「そうよ」
 杏里は隻眼で零の人形めいた貌を見つめながら、薄く口元に笑みを浮かべた。
「あなたは、もう私に苦痛を与えることはできない…。どんなことをしても無駄…。それが、まだわからない?」
「どんなことをしても?」
 零の赤い瞳孔が、天井の照明を受けてぎらりと光る。
「さあ、それはどうかしら」
 言い終えるなり、左手で杏里の顎をつかんだ。
 そのまま片手で、高々と吊り上げた。
 長身の零が長い腕をいっぱいまで伸ばすと、かなりの高さになる。
 足の指がたちまち床を離れ、杏里はまた宙吊りの状態になった。
 零が片脚を上げ、膝で杏里の右の太腿を大きく持ち上げた。
 左足を垂直に垂らし、右足を90度上げた格好で固定された杏里は、さながら不器用なバレリーナだ。
 零が杏里の太腿を乗せた脚を伸ばし、足の裏を壁につけた。
 まっすぐ水平に伸ばされた右脚と、垂直に降ろした左脚の間に露わになったのは、再生を終えたばかりの初々しい恥丘である。
 その新しい秘肉の間からは、卵の卵白のような透明な粘液が糸を引いてしたたり落ちている。
 零が右手でこぶしをつくった。
「これでどう?」
 笑いを含んだ口調で言うなり、それをいきなり杏里の股間にぶち込んだ。
 すでに濡れすぎるほど濡れている杏里の膣が、抵抗なく零の右手を飲み込んだ。
「あああっ!」
 襞がぬるぬると蠢き、自分から零のこぶしをくわえ込んでいく。
 手首まで中に沈み込んだところで、零がおもむろに杏里の身体を突き上げ始めた。
 膣内に深々とめり込んだ左手一本で、杏里の身体がずるずると持ち上げられていく。
 その快感に、杏里は背中を反らして痙攣した。
 飲み込んだ零のこぶしが、杏里自身の自重でどんどん奥まで分け入ってくるのだ。
 零の手首を、卵白そっくりの愛液が、どろどろと伝い落ちていく。
 杏里の蜜壺の最深部で零の指が開き、何かをぎゅっとつかんだようだった。
「はあうっ!」
 異質な愉楽に喘ぐ杏里。
 淫汁がとめどなく沸き上がり、膣内を満たしては、隙間から外にあふれ出す。
「まだ痛くないの?」
 歯噛みするような口調で、零が言った。
 その唇の両端から、尖った八重歯が覗いている。
 そうしてまっすぐ、杏里の身体ごと右腕を頭上高く突き上げた。
 股間に突き刺さった零の右腕。
 それ一本で支えられた杏里は、関節の外れた四肢をだらりと脇に垂らし、無抵抗な木偶人形と化している。
「痛いって言いな! 痛くてたまらないって!」
 そんな杏里を憎しみに満ちた目で睨みつけ、呪詛のような声音で、零が叫んだ。
 

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