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第8部 妄執のハーデス
#120 最後の一撃②
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「うわああああっ!」
零が咆哮し、長い右脚を繰り出した。
強烈な膝蹴りをこめかみに喰らって、たまらず由羅が手を放す。
その顔面めがけて、零の左の前蹴りが炸裂した。
口から折れた歯を吐き出して、仰向けに吹っ飛ぶ由羅。
が、零の反撃も、そこまでだった。
「やったね…」
左手首を右手で押さえて、苦しげにうめいた。
「馬鹿め」
血の唾を吐き出して、由羅がゆっくりと上体を起こした。
「おまえも聞いてるだろ? そのリストバンドに仕込まれた毒は、外来種をも殺すって。いくら脳味噌がふたつあっても、毒からは逃れられない。そうなんだろう?」
由羅の顔は、見るも無残なありさまだった。
鼻が折れ、右目が潰れてしまっている。
「くそ…私としたことが…」
だが、零には、由羅にとどめを刺す余裕もないようだった。
驚愕に目を見開き、じっと己の左腕を凝視している。
見ると、手首を起点にして、零の左腕が徐々に変色し始めていた。
赤紫色の斑点が、目で見てわかるほどの勢いで、肩をめざして、腕を這い上ろうとしているのだ。
毒素が回り始めた証拠だった。
杏里は舌を巻く思いだった。
そうか。
この手があったんだ。
物理攻撃は、零にはほとんど無効である。
肉体それ自体が強靭なうえ、杏里と同様の治癒能力を備えているからだ。
だが、体内から脳を蝕む化学兵器なら、あるいは零を倒せるかもしれないのだ。
しかし…。
杏里も由羅も、少しばかり、相手をみくびりすぎていたようだ。
雌外来種の、生存本能の強さ。
それはふたりの予想を覆すほどのものだった。
「こんなもの…」
吐き捨てるようにつぶやくと、零がやにわに右手で自分の左手首をつかんだ。
そのまま、背中のほうへ力任せにねじる。
グギッと気味の悪い音が響き、左の肩で関節がはずれた。
それをもう一度、レバーを押すように、反対側へひねり倒す。
またしても背筋が凍るような音を発し、見る間にぶらぶらになる左腕。
それを床につけ、右足で手の甲を踏んで固定すると、零が渾身の力で身体を半回転させた。
零の左腕のつけ根から血が噴き出し、皮膚がびりびりと破れていく。
筋肉がちぎれ、真っ白な骨が見えたところで、零がちぎれかけた左腕を大きく曲げ、思いっきりへし折った。
完全に骨が折れたのを見届けると、何のためらいもなく、ずぼっと肩から引き抜いてしまった。
零が右手から提げた左腕は、つけ根近くまで赤紫色に染まっていた。
己の腕を犠牲にすることで、毒が身体に回る寸前に、零はその進路を断ってしまったのだ。
零が咆哮し、長い右脚を繰り出した。
強烈な膝蹴りをこめかみに喰らって、たまらず由羅が手を放す。
その顔面めがけて、零の左の前蹴りが炸裂した。
口から折れた歯を吐き出して、仰向けに吹っ飛ぶ由羅。
が、零の反撃も、そこまでだった。
「やったね…」
左手首を右手で押さえて、苦しげにうめいた。
「馬鹿め」
血の唾を吐き出して、由羅がゆっくりと上体を起こした。
「おまえも聞いてるだろ? そのリストバンドに仕込まれた毒は、外来種をも殺すって。いくら脳味噌がふたつあっても、毒からは逃れられない。そうなんだろう?」
由羅の顔は、見るも無残なありさまだった。
鼻が折れ、右目が潰れてしまっている。
「くそ…私としたことが…」
だが、零には、由羅にとどめを刺す余裕もないようだった。
驚愕に目を見開き、じっと己の左腕を凝視している。
見ると、手首を起点にして、零の左腕が徐々に変色し始めていた。
赤紫色の斑点が、目で見てわかるほどの勢いで、肩をめざして、腕を這い上ろうとしているのだ。
毒素が回り始めた証拠だった。
杏里は舌を巻く思いだった。
そうか。
この手があったんだ。
物理攻撃は、零にはほとんど無効である。
肉体それ自体が強靭なうえ、杏里と同様の治癒能力を備えているからだ。
だが、体内から脳を蝕む化学兵器なら、あるいは零を倒せるかもしれないのだ。
しかし…。
杏里も由羅も、少しばかり、相手をみくびりすぎていたようだ。
雌外来種の、生存本能の強さ。
それはふたりの予想を覆すほどのものだった。
「こんなもの…」
吐き捨てるようにつぶやくと、零がやにわに右手で自分の左手首をつかんだ。
そのまま、背中のほうへ力任せにねじる。
グギッと気味の悪い音が響き、左の肩で関節がはずれた。
それをもう一度、レバーを押すように、反対側へひねり倒す。
またしても背筋が凍るような音を発し、見る間にぶらぶらになる左腕。
それを床につけ、右足で手の甲を踏んで固定すると、零が渾身の力で身体を半回転させた。
零の左腕のつけ根から血が噴き出し、皮膚がびりびりと破れていく。
筋肉がちぎれ、真っ白な骨が見えたところで、零がちぎれかけた左腕を大きく曲げ、思いっきりへし折った。
完全に骨が折れたのを見届けると、何のためらいもなく、ずぼっと肩から引き抜いてしまった。
零が右手から提げた左腕は、つけ根近くまで赤紫色に染まっていた。
己の腕を犠牲にすることで、毒が身体に回る寸前に、零はその進路を断ってしまったのだ。
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