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第8部 妄執のハーデス

#133 蜜の檻②

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 それは、ある種の感動だった。
 これまで、鏡の中でしか会うことのできなかった自分自身。
 それが、紛れもなくひとつくの肉体を備えて、目の前にいる…。
 どんな非現実感も、どんな悲哀も、その魂の底が震えるような感動の前には、あまりにも無力であるようだった。
 薄布を間に、唇の先を触れ合わせるだけの短いキスを終えると、
「来て」
 ベール越しに、もうひとりの杏里が甘えるように言った。
 杏里は誘い込まれるようにしてベールをめくり、己の分身が待つ部屋の奥へと足を踏み入れた。
「やっと会えたね」
 杏里の目を慈しむように見つめ、少女が微笑んだ。
 自室の三面鏡に映し、これまで数え切れぬほど欲情を迸らせた肢体が、目と鼻の先にある。
 釣り鐘型の、頂がツンと上を向いた豊満な乳房。
 きゅっと締まったウエストと、滑らかな腹。
 肉づきのいい太腿の間からは、可憐なピンク色の恥丘の一部が覗いている。
「杏里…」
 少女に向かって、杏里は無意識に自分の名を呼んでいた。
「あなたは、本当に、私なの…?」
「そうよ」
 少女の笑みが大きくなる。
 卵型の顔もそっくりなら、笑い方もそっくりだ。
「杏里は、ずっと昔から、こうしたかったんだよね?」
 両腕を伸ばし、少女が杏里を引き寄せる。
「あなたが本当に愛しているのは、あなた自身。あなたが一番感じるのは、自分自身を思って自慰に耽る時」
「それは…」
 頬が急速に熱くなる。
 心に秘めた性癖を言い当てられた恥ずかしさに、鳥肌が立つ。
 でも、と思う。
 この子が私の分身なら、知っていて当然なのだ。
 なぜって、この子も、超がつくほどのナルシストに違いないのだから…。
 自分好みの貌が近づいてきた。
 杏里はこれほどまでにそそられる顔立ちには会ったことがない。
 顔のどのパーツをとってみても、杏里の趣味なのだ。
 食べてしまいたいくらい可愛らしいし、見つめるだけであそこが濡れてくるほど淫蕩だ。
 この顔が、快楽に歪むところを見てみたい。
 自分のこの手で、愉悦の叫びを上げさせてみたい。
 いや、違う。
 私は、されたいのだ。
 これまで、どんなに願ってもかなわなかったこと。
 すなわち、自分自身に、この火照った狂おしい体を、蹂躙してもらうこと…。
 その夢が、今、実現しつつあった。
 少女が再び、キスをしようとしているのだ。
 鼻先で、かぐわしい吐息が薫った。
 唇同士が触れ合うと同時に、繊細な指先が極薄の下着の上から杏里の乳首に触れた。
 艶やかに張った乳房の頂で、それはすでに硬くなり、期待に細かく震えている。
 痺れるような快感が、一瞬、乳首から背筋へと走り抜けた。
「ああ…」
 反射的に開いた杏里の唇を、少女の柔らかな唇が更に大きく割って押し広げる。
 熱い舌が入ってきた。
 うねりながら入ってくると、器用に杏里の舌を絡め取る。
 唾液があふれてきた。
 杏里の口腔内にあふれた唾液を、少女が吸った。
 その間も、少女の指先は乳首への刺激をやめようとはしない。
 ブラはいつのまにかずらされ、毬のように大きく丸い乳房がふたつ、プルンとこぼれ出ている。
 しこった肉の突起を親指と人差し指で挟み、紙でこよりをつくるようにしきりに弄り回している。
 杏里の好きな前戯のひとつだった。
 これをされると杏里は動けなくなる。
 まるで金縛りに遭ったかのように、全身の筋肉が硬直してしまう。
「く…」
 喘ぎが漏れた。
 半ば開いた脚の間で、恥丘の奥がひくつき始めるのがわかった。
 少女の片手が乳首を離れ、滑らかな下腹をなぞって股間へと下りていく。
 極めて面積の狭いのパンティは、クロスの部分がすでにじっとりと湿り気を帯びている。
 その上を、じらすように少女の指が上下した。
 杏里の意志に関係なく、勝手に股が開き始める。
 腰を半ば突き出すような格好で、積極的に少女の愛撫を受け入れた。
 やがて指が布切れの端をめくり上げ、中に侵入し始めた。
 2本に増えた指が、大きいほうの唇をじわりじわりとなぞっていく。
 その外側の肉襞を指で挟んでしばらく弄んだ後、内側の二枚を押し広げ、肉底を指の腹でぬめりと撫で上げる。
 とたんに蜜口の周囲の括約筋が収縮し、透明な淫汁をじゅるりと絞り出す。
「あん…」
 突き抜ける快感に、思わず腰を引く杏里。
 遊ばれているのは自分なのに、少女の貌にもうっとりした表情が浮かんでいるのを見て、杏里は恍惚となった。
「もっと…」
 知らぬ間に、その言葉が口をついて出た。
「あふ…お願い。して…もっと」

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