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#20 密談
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蓮月の目はともかく、乙都の手の中で粗相をしてしまったことが、たまらなく恥ずかしく、悔やまれてならなかった。
布団をひっかぶって悶々としているうちに、僕はいつのまにか、ウトウトとまどろんでいたようだ。
そんな僕の目を覚ましたのは、左手のカーテンの向こうから聞こえてくる、怪しげなひそひそ声だった。
「だからさ、きょうで最後なんだから、いいだろ? な? ユズハ」
片方は、少しかすれたあの藤田氏の声である。
気のせいか、なんだか妙に上ずっているようだ。
「何言ってるんですか! 藤田さん、結婚してるでしょ。綺麗な奥様が、よくお見舞いにみえてたじゃない」
女の声がそれに応える。
たぶん、藤田氏を担当している看護師なのだろう。
声だけでははっきりわからないけれど、乙都や蓮月よりはずっと年上みたいな感じがする。
「おいおい、俺の気持ち、わかってるだろ? あんなのユズハに比べたら全然ブスだし、性格も悪いし、不感症だし…。なあ、だから・・・。最後くらい、おしまいまで、やらせてくれてもいいじゃねえか」
やらせる・・・?
お、おしまいまで?
目が覚めた。
なんてことだ。
藤田さん、自分のこと、確か60過ぎのじいさんだって言ってなかったか?
なのに、退院を口実に看護師を口説くだなんて、元気がいいにもほどがある。
しかも、この病棟に入院しているってことは、僕と同じ、心臓疾患の持ち主に違いないのに…。
「しょうがないなあ。そりゃあ、私だって、藤田さんのこと、好きだよ」
ふいに、くだけた口調になって、女が言った。
ぶちゅっという音は、キスか何かだろうか。
「でも、今は時間ないし、ここのベッド、ふたりで寝るには狭すぎでしょ?」
「じゃあ、時間と場所が確保できればしてもいいって、そう言いたいのか?」
しなをつくったような女の声に、とたんに藤田氏の鼻息が荒くなった。
「そうねえ、ユズハはBNじゃないけど、まあ、深夜、空いてる個室のベッド使ってなら、ひょっとしてアリかも」
「し、深夜だと…?」
そこまで言って、藤田氏が絶句する。
「そ、それは…。せっかく、きょうまで二週間、なんとかかんとか、ヤバいのやり過ごしてきたってのに・・・」
「いやならいいのよ。私はあなたがどうしてもって言うから」
ベッドから体重のある者が下りる気配。
どうやら女が立ち去ろうとしているらしい。
「わ、わかったよ」
よほどこのユズハとかいう看護師に入れ込んでいるのか、意外なことに、藤田氏はすぐに折れてしまった。
「消灯時間になったら、こっそり来てくれ。そしたらふたりで、やれる場所を探しに行こう」
「素敵」
またしてもあの、ブチュッという音。
そして、媚びを含んだ声で、女が言った。
「わあ、愉しみだなあ。ついに藤田さんとふたりっきりになれるなんて。ユズハ、ちゃんとシャワー浴びて、下着替えてくるね」
布団をひっかぶって悶々としているうちに、僕はいつのまにか、ウトウトとまどろんでいたようだ。
そんな僕の目を覚ましたのは、左手のカーテンの向こうから聞こえてくる、怪しげなひそひそ声だった。
「だからさ、きょうで最後なんだから、いいだろ? な? ユズハ」
片方は、少しかすれたあの藤田氏の声である。
気のせいか、なんだか妙に上ずっているようだ。
「何言ってるんですか! 藤田さん、結婚してるでしょ。綺麗な奥様が、よくお見舞いにみえてたじゃない」
女の声がそれに応える。
たぶん、藤田氏を担当している看護師なのだろう。
声だけでははっきりわからないけれど、乙都や蓮月よりはずっと年上みたいな感じがする。
「おいおい、俺の気持ち、わかってるだろ? あんなのユズハに比べたら全然ブスだし、性格も悪いし、不感症だし…。なあ、だから・・・。最後くらい、おしまいまで、やらせてくれてもいいじゃねえか」
やらせる・・・?
お、おしまいまで?
目が覚めた。
なんてことだ。
藤田さん、自分のこと、確か60過ぎのじいさんだって言ってなかったか?
なのに、退院を口実に看護師を口説くだなんて、元気がいいにもほどがある。
しかも、この病棟に入院しているってことは、僕と同じ、心臓疾患の持ち主に違いないのに…。
「しょうがないなあ。そりゃあ、私だって、藤田さんのこと、好きだよ」
ふいに、くだけた口調になって、女が言った。
ぶちゅっという音は、キスか何かだろうか。
「でも、今は時間ないし、ここのベッド、ふたりで寝るには狭すぎでしょ?」
「じゃあ、時間と場所が確保できればしてもいいって、そう言いたいのか?」
しなをつくったような女の声に、とたんに藤田氏の鼻息が荒くなった。
「そうねえ、ユズハはBNじゃないけど、まあ、深夜、空いてる個室のベッド使ってなら、ひょっとしてアリかも」
「し、深夜だと…?」
そこまで言って、藤田氏が絶句する。
「そ、それは…。せっかく、きょうまで二週間、なんとかかんとか、ヤバいのやり過ごしてきたってのに・・・」
「いやならいいのよ。私はあなたがどうしてもって言うから」
ベッドから体重のある者が下りる気配。
どうやら女が立ち去ろうとしているらしい。
「わ、わかったよ」
よほどこのユズハとかいう看護師に入れ込んでいるのか、意外なことに、藤田氏はすぐに折れてしまった。
「消灯時間になったら、こっそり来てくれ。そしたらふたりで、やれる場所を探しに行こう」
「素敵」
またしてもあの、ブチュッという音。
そして、媚びを含んだ声で、女が言った。
「わあ、愉しみだなあ。ついに藤田さんとふたりっきりになれるなんて。ユズハ、ちゃんとシャワー浴びて、下着替えてくるね」
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