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#75 コンドウサンの正体
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「うわ…」
僕は絶句した。
向かい側のカーテンの後ろ、狭い空間に、天井に頭をくっつけるようにして、異様な生き物が立っている。
ハンマーみたいな形をした黒光りする巨大な頭部、その下部に開いた小さな眼。
病衣から突き出しているのは、腕というより、海生哺乳類の鰭である。
「ミルク…」
顏の両側に埋もれたビーズのような眼で蓮月を見て、化け物が言った。
「あ、あれは、な、何?」
「だから、ゲイジンだよ。『ゲイ』は『クジラ』の『鯨』。わかりやすく言えば、クジラ人間さ」
こともなげに蓮月が答えた。
「クジラ人間…」
なるほど、言われてみればコンドウサンの頭部は、マッコウクジラの槌形の頭部そっくりだった。
下半分に白い模様が入っているのは、どこかシロナガスクジラを髣髴とさせる。
頭の後ろまで裂けた口は、波模様みたいに微妙な曲線を描いていて、浮世絵に描かれた鯨の妖怪を思わせた。
こんな奇怪な生き物が、なぜ病院に…?
だが、考えてみれば、この僕もそうなのだ。
コンドウサンが鯨人間なら、僕は等身大のウジムシ、すなわち”蛆人間”なのだから…。
「ミルク…」
ベタ、ベタっと湿った足音を立てながら、窮屈そうに身をかがめ、コンドウサンが外に出てきた。
その目が一心に見つめているのは、ビキニアーマーを押し上げる蓮月の砲弾形をした見事な巨乳である。
「今はダメ。仕事が終わったら、ご褒美にいくらでも吸わせてあげるから、あんたも手伝って」
そう言って蓮月が背中から外したのは、新たな武器だった。
刃渡り1メートルは優に超す、とてつもなくでかいハサミである。
「きょうはこれで行く。あんまり点滴スタンド壊してばっかりだと、後で乙都に叱られちゃうからね」
巨大ハサミを肩に担ぐと、ベッドに横たわる僕の胴体をシートベルトみたいな結束バンドで縛りつけ、
「よし、じゃ、そろそろ出発するとしますか。あたしが先頭に立つから、コンドウサンはミミズ少年のベッドを頼むよ。東病棟までは大した距離ではないけど、近づけば近づくほど敵の抵抗も激しくなるだろうから、ふたりとも十分気をつけて」
そう言い捨てて、グラマラスな黒い堕天使蓮月が、魅惑的なヒップを左右に振りながら大股に歩き出した。
僕は絶句した。
向かい側のカーテンの後ろ、狭い空間に、天井に頭をくっつけるようにして、異様な生き物が立っている。
ハンマーみたいな形をした黒光りする巨大な頭部、その下部に開いた小さな眼。
病衣から突き出しているのは、腕というより、海生哺乳類の鰭である。
「ミルク…」
顏の両側に埋もれたビーズのような眼で蓮月を見て、化け物が言った。
「あ、あれは、な、何?」
「だから、ゲイジンだよ。『ゲイ』は『クジラ』の『鯨』。わかりやすく言えば、クジラ人間さ」
こともなげに蓮月が答えた。
「クジラ人間…」
なるほど、言われてみればコンドウサンの頭部は、マッコウクジラの槌形の頭部そっくりだった。
下半分に白い模様が入っているのは、どこかシロナガスクジラを髣髴とさせる。
頭の後ろまで裂けた口は、波模様みたいに微妙な曲線を描いていて、浮世絵に描かれた鯨の妖怪を思わせた。
こんな奇怪な生き物が、なぜ病院に…?
だが、考えてみれば、この僕もそうなのだ。
コンドウサンが鯨人間なら、僕は等身大のウジムシ、すなわち”蛆人間”なのだから…。
「ミルク…」
ベタ、ベタっと湿った足音を立てながら、窮屈そうに身をかがめ、コンドウサンが外に出てきた。
その目が一心に見つめているのは、ビキニアーマーを押し上げる蓮月の砲弾形をした見事な巨乳である。
「今はダメ。仕事が終わったら、ご褒美にいくらでも吸わせてあげるから、あんたも手伝って」
そう言って蓮月が背中から外したのは、新たな武器だった。
刃渡り1メートルは優に超す、とてつもなくでかいハサミである。
「きょうはこれで行く。あんまり点滴スタンド壊してばっかりだと、後で乙都に叱られちゃうからね」
巨大ハサミを肩に担ぐと、ベッドに横たわる僕の胴体をシートベルトみたいな結束バンドで縛りつけ、
「よし、じゃ、そろそろ出発するとしますか。あたしが先頭に立つから、コンドウサンはミミズ少年のベッドを頼むよ。東病棟までは大した距離ではないけど、近づけば近づくほど敵の抵抗も激しくなるだろうから、ふたりとも十分気をつけて」
そう言い捨てて、グラマラスな黒い堕天使蓮月が、魅惑的なヒップを左右に振りながら大股に歩き出した。
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