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#58 ジャングルへ
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私が開けた穴の向こうで暴れまわっているもの。
それはピンク色した巨大な芋虫だった。
しかも、芋虫ならすべすべしていればいいものを、身体中にこぶみたいなものが無数にできている。
芋虫というより、そう、人間の大腸そっくりだ。
そいつには先端に丸い口があった。
びっしりと鋭い歯の並んだその口で、次々にアリ人間たちを血祭りにあげていく。
あのディスポーザーみたいな口に飲みこまれたら、それこそおしまいだ。
ここはなんとしてでも脱出せねば。
スカートがめくれ上がるのもかまわず、脚をバタバタさせて、なんとかカマドウマの背中に這い上がる。
鞍に跨って手綱を取ったはいいが、どうしたらいいかわからない。
私はお嬢様でもなんでもないから、乗馬の経験なんて皆無なのだ。
「あれはおそらく、女王アリの体内に巣くっていた寄生虫に違いない。それが、卵と一緒に出てきたんだ」
「なんでもいいから、早く逃げようよ。って、これ、どうやって運転すればいいわけ?」
のんびり解説するラルクをさえぎって、必死の口調で私はたずねた。
「馬と同じだと思うよ。こうやって、かかとで横っ腹を蹴ってやるだけ」
ソフィアが言って、先に走り出す。
「動き出したら、その手綱で行きたい方向に頭を向けてやる。ただそれだけだ」
そう言い残して、ラルクも出発してしまう。
ええい、ままよ!
よくわかんないけど、動け!
スニーカーで腹をけ飛ばすと、なるほど、カマドウマがのそのそ歩き出した。
格納庫の向こうは、木の枝や葉で巧妙に隠された出口になっているようだ。
私は苦労して、なんとかカマドウマの頭部をそっちの方向に向けることに成功した。
「早く走ってよ! でないと食われるって!」
かかとで蹴ってもスピードが上がらないので、手のひらでぺちぺち尻を叩いてやった。
「むほっ」
変な声を出して上半身を持ち上げたかと思うと、次の瞬間、ぴょんとカマドウマがジャンプした。
すごい。
なんというジャンプ力。
ひと跳び10メートル。
2、3回跳ねただけで、アリ塚の外に出た。
いったん走り出すと、カマドウマはおそろしく速かった。
時速60キロは出てるんじゃないかと思う。
見る間にラルクたちに追いついた。
「は、はやいのは、いいけど」
横に並んだラルクに、私は息も絶え絶えに話しかけた。
「の、乗り心地は、さ、最悪だね」
まったく、この便所コオロギときたら。
跳ねながら走るので、遊園地の木馬なみに身体がぴょんぴょん跳ね上がるのである。
これではまるで、サスペンションのぶっこわれた自動車だ。
「わ、わたし、なんだか、酔いそうなんだけど」
顔をしかめてみせると、
「ぜいたく言うな。こんなとこ、徒歩では10分と持たないぞ。例えば、見ろ」
ラルクが進行方向の草むらを指さした。
地面から肉の厚い葉を直接生やした、茶色っぽい野草の群生である。
「あれは草に見えるが、実はそうじゃない」
「え? どう見ても、雑草でしょ?」
「すぐにわかる」
私の便所コオロギが、その横をすり抜けようとした時だった。
ふいに草むらが動いた。
「ぎゃ」
私は悲鳴を上げた。
むき出しの太腿に、何かが貼りついてきたのだ。
「ひええええっ!」
その正体に気づくと同時に、喉から悲鳴がほとばしった。
「いやあ! 嫌すぎ! だれか取ってえ!」
それはピンク色した巨大な芋虫だった。
しかも、芋虫ならすべすべしていればいいものを、身体中にこぶみたいなものが無数にできている。
芋虫というより、そう、人間の大腸そっくりだ。
そいつには先端に丸い口があった。
びっしりと鋭い歯の並んだその口で、次々にアリ人間たちを血祭りにあげていく。
あのディスポーザーみたいな口に飲みこまれたら、それこそおしまいだ。
ここはなんとしてでも脱出せねば。
スカートがめくれ上がるのもかまわず、脚をバタバタさせて、なんとかカマドウマの背中に這い上がる。
鞍に跨って手綱を取ったはいいが、どうしたらいいかわからない。
私はお嬢様でもなんでもないから、乗馬の経験なんて皆無なのだ。
「あれはおそらく、女王アリの体内に巣くっていた寄生虫に違いない。それが、卵と一緒に出てきたんだ」
「なんでもいいから、早く逃げようよ。って、これ、どうやって運転すればいいわけ?」
のんびり解説するラルクをさえぎって、必死の口調で私はたずねた。
「馬と同じだと思うよ。こうやって、かかとで横っ腹を蹴ってやるだけ」
ソフィアが言って、先に走り出す。
「動き出したら、その手綱で行きたい方向に頭を向けてやる。ただそれだけだ」
そう言い残して、ラルクも出発してしまう。
ええい、ままよ!
よくわかんないけど、動け!
スニーカーで腹をけ飛ばすと、なるほど、カマドウマがのそのそ歩き出した。
格納庫の向こうは、木の枝や葉で巧妙に隠された出口になっているようだ。
私は苦労して、なんとかカマドウマの頭部をそっちの方向に向けることに成功した。
「早く走ってよ! でないと食われるって!」
かかとで蹴ってもスピードが上がらないので、手のひらでぺちぺち尻を叩いてやった。
「むほっ」
変な声を出して上半身を持ち上げたかと思うと、次の瞬間、ぴょんとカマドウマがジャンプした。
すごい。
なんというジャンプ力。
ひと跳び10メートル。
2、3回跳ねただけで、アリ塚の外に出た。
いったん走り出すと、カマドウマはおそろしく速かった。
時速60キロは出てるんじゃないかと思う。
見る間にラルクたちに追いついた。
「は、はやいのは、いいけど」
横に並んだラルクに、私は息も絶え絶えに話しかけた。
「の、乗り心地は、さ、最悪だね」
まったく、この便所コオロギときたら。
跳ねながら走るので、遊園地の木馬なみに身体がぴょんぴょん跳ね上がるのである。
これではまるで、サスペンションのぶっこわれた自動車だ。
「わ、わたし、なんだか、酔いそうなんだけど」
顔をしかめてみせると、
「ぜいたく言うな。こんなとこ、徒歩では10分と持たないぞ。例えば、見ろ」
ラルクが進行方向の草むらを指さした。
地面から肉の厚い葉を直接生やした、茶色っぽい野草の群生である。
「あれは草に見えるが、実はそうじゃない」
「え? どう見ても、雑草でしょ?」
「すぐにわかる」
私の便所コオロギが、その横をすり抜けようとした時だった。
ふいに草むらが動いた。
「ぎゃ」
私は悲鳴を上げた。
むき出しの太腿に、何かが貼りついてきたのだ。
「ひええええっ!」
その正体に気づくと同時に、喉から悲鳴がほとばしった。
「いやあ! 嫌すぎ! だれか取ってえ!」
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