ゾンビになった妹を救うため、終末世界で明日に向かってゴールをめざす

戸影絵麻

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第1章 あずみ

action 2 電話

 5月1日、午前10時。

 その日、僕は朝からそわそわしていた。

 前日の夜、あずみから電話がかかってきたからである。

『お兄ちゃん、どうして帰って来ないの?』

 開口一番、あずみは言ったものだ。

『あずみ、ずっと待ってたんだよ。きのうはお兄ちゃんの大好きな、イチゴのケーキだってつくったのに。いくら待っても帰って来ないから、あずみひとりで全部食べちゃった』

「コースケに会いたくないんだよ」

 何と切り返していいかわからず、僕は親父のせいにすることにした。

 机の上のあずみの写真。

 おととしの夏、一緒に海に行った時に撮ったものだ。

 この頃からあいつ、乳、でかかったんだよなあ。

 水玉のビキニからこぼれ落ちそうな乳房を揺らしながら、屈託のない笑顔であずみが笑っている。

 なんでおまえ、よりによって…妹なんだよ。

 その秘蔵の写真を眺めながらため息をついた時、機関銃のような勢いで当のあずみがしゃべり出した。

『コースケならいないよ。何日か前に、『デリヘルの取材でしばらく家を空けるからよろしく』って、出てったきりだもん。でも、デリヘルってなんだろ? お兄ちゃん、知ってる?』

 デリヘルとはデリバリーヘルスの略で、要はエロいお姉さんを宅配する店だ。

 でもそれをあずみに詳しく説明しても始まらない。

「たぶんフーゾクの店の名前だと思うけど。まあ、この前みたいにUFOや宇宙人の取材でないだけまだマシだろう?』

 僕らの父、出雲幸助はフリーライターである。

 ガセネタをそれらしい記事にでっち上げ、三流週刊誌に売りつけるのを生業としている。

 守備範囲は主にオカルトと性風俗。

 昔から月に1週間も家に居ればいいほうで、だからずっと前から僕は彼を父親というより単なる性能の悪いATMと思うことにしていた。

「とにかく、色々と忙しいんだ」

『うそ』

「…」

『お兄ちゃん、あずみのこと、避けてるよね』

「え?」

『隠してもだめ。この際言っちゃうけど、去年くらいからずっとそうだよね』

「そ、そんなことないって」

『1年浪人して大学受かったとたん、あずみを置いて出てっちゃったよね』

「そ、それは、通学の問題とか…」

『で、これまでいっぺんも帰省してないよね。去年のGWも、お盆も、年末も』

「い、いや、レポートの提出とかさ、なかなか大変で…」

『うそ。たったふたりの兄妹なのに、薄情すぎるよね』

「…」

 あずみの生みの母であるヨシコさんは、3年前、交通事故で亡くなった。

 つまり実家には、現在あずみとコースケしかいないことになる。

 彼女が寂しがるのも当然で、その気持ちは痛いほどわかるのだけど…。

 返事に窮していると、しばしの沈黙の後、きっぱりとした口調であずみが言った。

『だからね。あずみ決めたんだ』

「…決めたって、何を?」

 いやな予感がした。

『明日、お兄ちゃんのとこに行く』

「え」

『止めたって駄目だよ。もう今晩は那古野の友だちの家に泊めてもらってるんだから』

「なんでこっちに友だちがいるんだよ?」

「学校じゃなくて、ポールダンスクラブの友だち」

「ポールダンスクラブ? なんだそれ?」

『前にLINEしたでしょ。体操部辞めて、ポールダンス始めたって』

「そうなのか? よくわからんが」

『とにかく、明日の午前中、おうちにお邪魔するから。逃げないで待ってるんだよ』

「こんなとこ、来ても何にもないって」

『怪しいな。まさかついにカノジョできたとか?』

「違うって」

『よかった』

「なんだよ、それ」

『お泊りする用意持ってくね。どうせいつも、ろくなもの食べてないんでしょ。連休中、あずみが毎日、美味しいお料理、いっぱい作ってあげるからね』

「おい、待て」

『待たないよーだ』


 こうして、あずみはやってきた。

 よせばいいのに、あの地獄の中を。

 僕らの再会。

 それは、こんな具合だった。

 



 


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