ゾンビになった妹を救うため、終末世界で明日に向かってゴールをめざす

戸影絵麻

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第2章 仲間

action 2 姉弟

「なんだ、おまえは」

 僕は一歩前に進み出た。

「俺たちはゾンビなんかじゃない。それなのに、いきなり…」

 たとえ武器みたいなものを持っているにしろ、見たところ相手は小学生だ。

 ここで怯んでなど、いられない。

「まあ、確かにおまえは人間みたいだけど…そっちの女はどうかな」

 少年がボウガンに、新しい金属独楽をセットしながら、言った。

 それにしても、見たことのない武器である。

 長い銃身にはレールみたいな溝が刻まれていて、そこに独楽を装着し、弓の原理で射出するようになっているらしい。

「どういうことだ?」

 どきりとして、僕は訊き返した。

 こいつ、あずみがハーフゾンビだということに、気づいたのだろうか。

「今の技、人間じゃ無理だぜ。ゾンビの中には、まれに身体能力が高いのがいる。感染の影響で、筋肉や運動神経が強化されたタイプがな。脳は死んでるのに、身体だけはオリンピック選手並みにハイスペックなやつだ。くさいな、その女」

 言いながら、ボウガンを構えてゆっくりと近づきてきた。

 眼が意地悪く光っている。

 げじげじ眉毛の、負けん気の強そうなおもざしの少年だった。

「ちょい、確かめさせてもらうぜ」

 僕を武器でけん制すると、あずみの前に立った。

 何をするつもりだ?

 身構えた時である。

「ほら!」

 だしぬけに、少年が空いたほうの手であずみの短いスカートをめくりあげた。

「すげえ!」

  目を輝かせ、歓声を上げた。

「やっぱ、生パンだ。しかも、白のビキニパンティ!」

「あんた」

 あずみの右手が動いた。

 電光石火の早業だった。

「うぐっ」

 少年の喉から、蛙の潰れたような声が漏れた。

 あずみが少年の首をつかみ、吊り上げている。

「殺されたいの?」

 低い声であずみが言った。

 怒っているのが、そのひきしまった横顔でわかる。

「じょ、冗談だって。お、降ろせよ、このゾンビ女」

「ゾンビ女って誰? 私は出雲あずみ。こっちはあずみのお兄ちゃん。出雲明。あんたは?」

「や、山田、い、一平」

 少年がもがいて、脚をバタバタさせた時だった。

「そのへんで、許してやってくれないかな」

 ふいに後ろから声をかけられた。

 驚いて振り返ると、街路樹の一本にもたれかかるようにして、妙な格好の女が立っていた。

 黒いサングラス。

 くるぶしまである長いコート。

 細面の顔は蝋のように真っ白で、顎が鋭く尖っている。

 なぜか片手にヨーヨーを提げていた。

「あたしは山田光。一応、その馬鹿の姉。すまなかったね。弟が無茶仕掛けたみたいで」

「い、いえ」

 あずみが一平を地面に下ろした。

「あー、いて」

 喉を押さえて、一平が地面にしゃがみこむ。

「おわびのしるしに、って言ったらなんだけど、ちょっとうちに来ない? 大したものはないけど、夕食くらいはごちそうできるわよ」

「ほんとですか?」

 あずみが瞳を輝かせた。

「あの、生のお肉も、ありますか?」

「少しならね。一応うち、町工場だから、自家発電できるんでね」

「やった!」

 あずみが僕に抱き着いてきた。

「お兄ちゃん、やったよ! お肉、食べられるんだって!」

「あずみ、おまえ」

 僕は頬を擦りつけてくるあずみの耳元に囁いた。

「ひょっとして、機嫌悪かったの、腹が減ってたせい?」

 ふふっとあずみが笑った。

 久しぶりに見る笑顔だった。

 そんなあずみをうらめしそうに眺めながら、一平がつぶやくのが聞こえてきた。

「なんでえ、やっぱりゾンビなんじゃねえか」



 









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