ゾンビになった妹を救うため、終末世界で明日に向かってゴールをめざす

戸影絵麻

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第3章 イオン奪還

action 3 突入

 闇夜の中で煌々ときらめくイオンは、さながら不夜城だった。

 周囲が闇に沈んでいるため、すぐ近くにあるはずのドーム球場の屋根は見えず、その5階建ての建物だけが夜空をバックに不自然なほどの輝きを放っている。

 東京や大阪はいざ知らず、僕のように地方都市で暮らす者にとって、イオンのように何でもそろうショッピングセンターは、いわば生活の基盤に近いといっていい。

 だからここ那古野市には各区にイオンが一店舗ずつあるわけで、サバイバルだけが目的であるならば、何もヤクザに支配されたこの店ではなく、むしろ他の区のイオンに行くべきだっただろう。

 が、謎の人物ケロヨンが指定してきたのがここドーム前店である以上、僕としても後に引くわけにはいかないのだった。

「じゃ、計画通り、始めるよ」

 植え込みの陰に身を潜めて1階部分の様子を窺っていた光が、押し殺した声で言った。

 正面玄関の自動ドアの向こうには、何人かの見張りの姿が見えている。

 僕らはそこからちょうど死角になる、駐車場側の植え込みの間に隠れているのだった。

「あたしと一平が1階駐車場でひと騒動起こす。その隙にあずみちゃんとアキラ君は、スロープで屋上に上がり、5階から館内に潜入。ゾンビとヤクザの戦争が始まったら、すぐにあたしたちも応援に駆けつけるから、ふたりは幹部の3人を上で足止めしてて。もちろん、できるなら3人ともやっつけてほしいけど、むつかしいようなら時間を稼いでくれるだけでもいいわ」

「頑張ります」

 あずみがナックルを嵌めた右手を肘の所で曲げ、力こぶをつくってみせる。

「光さんたちは大丈夫なのか? 見たところ、駐車場のゾンビ、まだかなりたくさん残ってるみたいだぜ。だいたい、あのシャッターはどうする気なんだい? ここで爆弾使ったら、入り口の見張りに気づかれちまうと思うけど」

 建物の1階部分を占める平面駐車場の入口には、格子状の鉄のシャッターが下りている。

 その向こうに、よろよろと歩き回る複数の人影が見える。

 真正のゾンビに睡眠が必要なのかどうかは不明だが、とりあえず今はまだ、全員起きているようだ。

「シャッターはこれで開ける」

 一平が取り出したのは、大きな植木ばさみみたいな道具だった。

「爆弾は、管内の通用口にしか使わない」

 一平のいう爆弾とは、山田工務店の地下の武器庫から持ち出してきたプラスチック爆弾である。

 この日がくるのを予期していたかのように、一平たちの父親はさまざまなサバイバルグッズを子どもたちに残していってくれたようなのだ。

「あなたたちが昼間作ってくれたニコチン爆弾で、まず、ゾンビたちをシャッターから遠ざける。その間に、一平がシャッターを切断する。中に入ったら、あたしがヨーヨーとニコチン爆弾でゾンビたちをけん制している間に、一平が館内への自動ドアにプラスチック爆弾を仕掛けて爆破する。入り口が開いたら、今度はふたりでニコチン爆弾をばらまいて、ゾンビたちを建物の中に追い込んでいく。とまあ、こんな寸法なんだけど、よほどのことがない限りここまではうまくいくと思う。問題はゾンビ軍団VS黄道会の紛争がどうなるかだね。どっちが勝つにしろ、残党はあたしたち4人で総力を挙げて倒さなければならないから」

「ニコチンって、そんなに効果、あるのかい?」

「長続きはしないけど、匂いが消えるまではゾンビを遠ざける効果はあるよ。それはすでにあたしたちがラブホ街のゾンビで実験済み」

「ゾンビ化の原因がウィルスじゃなくて線虫だってこと、光さん、知ってたんだね」

「うちの親父がゾンビになりかけて自殺した時、爆ぜた頭からニョロニョロ出てきたからね。その後試しに倒したゾンビを何匹か解剖してみたら、みんな同じだったんだ。脳にハリガネムシみたいなのが一匹ずつ食いこんでたのさ」

 うは。

 ゾンビの解剖までするとは、さすがサバイバルに長けた三十路薬剤師だけのことはある。

「あのさ、突入前に、おいら、ひとつだけ、あずみにお願いがあるんだけど」

 神妙な顔をして、ふいに一平が言った。

「私に?」

 あずみがいぶかしげに一平の顔を見た。

「イオンを無事に奪還できたらさ。その」

 言いにくそうに、口ごもる。

「奪還できたら、なあに?」

「ご褒美にさ、おまえのおっぱい、触らせてほしいんだ」

 ぱあん。

 一平の後頭部が派手な音を立てた。

 光の平手打ちが飛んだのだった。

「この期に及んで、まだ言うか」

 一平の右耳を引っ張りながら、光がすっくと立ち上がる。

「さ、行くよ。このエロガキ。本番だ」

「いてててて! いいじゃんか、減るもんじゃねーし」

 その時、あずみが言った。

「いいよ。一平ちゃん、触らせてあげる」

「お! ほんと?」

 一平の顔が満月のように輝いた。

「うん」

 うなずくあずみ。

「ただし、お兄ちゃんが先だよ。それでもいいかな」















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