ゾンビになった妹を救うため、終末世界で明日に向かってゴールをめざす

戸影絵麻

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第3章 イオン奪還

action 5 乱闘

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 男たちはさまざまな得物を手にしていた。

 サバイバルナイフや金属バットが、屋上を照らす照明を浴びて光る。

 下っ端だからだろうか。

 銃を持っている者はいないようだ。

 僕は少しほっとした。

 飛び道具さえなければ、こんなのあずみの敵ではない。

 チームワークも何もなく、大声で喚きながらただやみくもに突っ込んでくる男たち。

 あずみが地を蹴り、ミニひだスカートを翻して、ブルマも露わにその頭の上を軽々と飛び越えた。

「うわ」

「なんだ?」

「クソッ!」

 急ブレーキをかけ、あわてて振り向いた男たちの顔面に、ポールが激突する。

 着地と同時に、あずみが振り回したスピニングポールである。

「うが」

「いて」

 一斉に吹っ飛んだ男たちの上に、あずみの頑丈な登山靴が襲いかかった。

 腹を、背中を、股間を蹴り飛ばされ、のたうちわるヤクザたち。

 逃げようと立ち上がったひとりの背中にドロップキックが決まると、それで終了だった。

 弱い。

 弱すぎる。

 いや、あずみが強すぎるのか。

 僕は呆気にとられるばかりだった。

 M19の出番が、まるでない。

「お兄ちゃん、来て」

 あずみが手を振って合図をよこす。

「あそこから入るよ」

 指さしたのは、『専門店街エスカレーター用入口』の表示である。

 自動ドアが開くのも待たず、あずみが登山靴の底でガラスをぶち割った。

 狭い長方形の空間に、5階へと続くエスカレーターが2本、伸びている。

 5階には駐車場しかない。

 店の中に入るには、エスカレーターで4階に下りる必要がある。

 光の見せてくれた地図によると、そこがレストラン街の入口になっているのだ。

 エスカレーターに乗ろうと下を見た時だった。

 駐車場側の自動ドアが開いて、新たなヤクザたちが駆け込んできた。

 屋上に居たのと同じ年恰好の、いかにも頭の悪そうな若造たちである。

「何だ? 何の音だ?」

 しばらくキョロキョロと周りを見回していたが、やがて申し合わせたようにこっちを見た。

 目が合った。

「てめーら! 何もんだ?」

 ひとりが叫んだ時には、すでにあずみはジャンプした後だった。

 エスカレーターを無視して、鳥のように宙を舞う。

 水平にテイクバックした脚で、蹴った。

「ぐはっ」

 ふたりが吹っ飛んで、壁に音を立ててぶつかった。

 振り向きざま、別の男の頬に強烈な左の肘打ちを決め、残るひとりの鼻柱を右の拳のナックルで跡形もなく粉砕する。

 僕が下りエスカレーターで下に着いた時には、もうすべてが終わっていた。

「大丈夫だよ。誰も死んでないから」

 僕に寄り添ってくると、言い訳するようにあずみが言った。

「まあね。病院送りは間違いなさそうだけど」

 床に倒れて呻くヤクザたちを見下ろして、僕はうなずいた。

「でも、無理して手加減する必要はないさ。おまえがやられちゃ、元も子もないからな」

「うん」

 4階へはエスカレーターで降りた。

 ここには見張りはいなかった。

 自動ドアを抜け、フロアに出る。

 イオン専門店街のつくりはどこも同じで、真ん中の吹き抜け部分をキャットウォーク状の通路が楕円形に取り巻いていて、そこに色々な店が並んでいる。

 4階はレストラン街だから、パスタやピザのバイキング、オムライスやカレーの専門店、中華料理屋、和食の店といった、食べ物関係がほとんどだ。

 平和な時代には親子連れやカップルでにぎわっていただろうこのフロアも、当然のことながら今は人っ子ひとりいないありさまである。

 下の方から、地獄の蓋が開いたかのような喧騒が沸き上がってきた。

 手すりから身を乗り出して覗いてみると、予想通りの地獄図が視界に飛び込んできた。

 はるか下の1階フロアで、夥しい数のゾンビたちとヤクザの軍団が戦っている。

 さすがに中にいる黄道会の連中は拳銃を持っているらしく、あちこちで銃声が響いていた。

 が、数ではどうやらゾンビたちのほうが優勢のようだ。

 30人ほどの組員たちが、その倍ほどのゾンビの群れに取り囲まれようとしている。

 目を凝らしてみたが、光と一平の姿は見えなかった。

 どこか安全な所に隠れて、戦いの推移を見守っているに違いない。

「さてと、お次は俺たちの番だな」

 手すりから離れて、僕は言った。

 幹部の3人を探さなくてはならない。

 彼らが部下の加勢に回る前に、倒しておかなければならないのだ。

 あずみは答えなかった。

 射るようなまなざしで、吹き抜けの向こう側をじっと見つめている。

 ちょうど、和食屋の扉が開いて、背の高い人影が外に出てきたところだった。

 着流し姿の、髪の長い男である。

 右手に無造作に日本刀を提げていた。

「いきなりかよ」

 そいつの正体に気づいて、僕は呻いた。

 確か、名前は、飛鳥左京。

 人呼んで”千人斬りの左京”とかいう、サイコパス。

 男が僕らを見て、にやりと笑った。

 長い前髪の間から、片目が覗いている。

 その眼は、遠くからでもわかるほど、ひどく血走っていた。








 
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