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第3章 イオン奪還
action 9 頭領
階下では、戦いがクライマックスにさしかかっているようだった。
竜司の援護射撃を失った黄道会のヤクザたちは、勢いを盛り返したゾンビの群れに取り囲まれて完全に浮足立ってしまっていた。
ゾンビ30匹に対して残りのヤクザは10人ほど。
すでに勝敗は決しつつあるといってよかった。
幹部を倒せば烏合の衆と化す。
光のその予言通りに、弾がなくなるまでやみくもに拳銃を撃ちまくるだけである。
そんな地獄絵図が足元に展開されているというのに、一平はなにやらニヤついている。
「何にやにやしてんだよ」
訊くと、
「決まってるじゃんか。アキラもほんとはうれしいんだろ? だっておっぱいが近いんだぜ」
即座に小学生らしからぬ返事が返ってきた。
「喜ぶのはまだ早い」
光がそんな弟の頭を5本の指で掴み、髪の毛をわしゃわしゃかきまぜた。
「ボスが残ってる」
「後は冴えないおっさんひとりじゃん。おいらだけでも勝てるさ」
確かに残る組長の堂神仁は、写真で見た限り、単なる悪相の中年男である。
だが、組長というからには、ふつうの人間にない何かをその身に備えているはずだった。
油断していい相手ではない。
ガラスの割れた窓から中を覗いてみる。
ガラガラの店内に人影はない。
「行きます」
あずみがフードコートの自動ドアの前に立った。
ドアが開き、中に一歩足を踏み入れると、うどんつゆのいい匂いが漂ってきた。
「あ」
あずみが小さく声を上げた。
「あそこ」
入口から死角になっているフロアの片隅。
テーブルの前の椅子にスーツ姿の小男がひとり腰かけて、どんぶりからうどんをすすっている。
見たところ、丸腰のようだった。
周りを護衛する用心棒たちの姿もない。
僕らはテーブルに歩み寄ると、男を取り囲んだ。
「何してんだ? おっさん」
一平が無遠慮にたずねた。
男がどんぶりから顔を上げた。
神社の狛犬にそっくりの顔。
ぎょろりとした目。
人相からして、間違いなく目当ての堂神仁である。
「おまえらか。貴重な夕食の時間を邪魔しやがったのは」
堂神が、不機嫌そうな口調で言った。
「うどんぐらい、静かに食わせろ」
僕は左京が4階の和食屋から姿を現したのを思い出した。
幹部3人は、食事の最中だったというわけか。
「すぐに静かになるさ。それよりおっさん観念しな。ここはもう、おいらたちがもらったも同然だぜ」
すごむ一平に、
「そのようだな」
あっさりと、堂神が答えた。
「ゾンビを使うとは、なかなか考えたな。この那古野に、まだそのような覇気のある人間が残っていたとは驚きだ」
「ま、あずみは半分ゾンビなんだけどな」
組長の思いがけぬ気さくな一面に触れたせいか、一平がそんな余計なことを口にした。
「あずみというのは、おまえのことか?」
堂神のぎょろ目があずみを見た。
セーラー服の前を断ち切られたあずみは、さながら半裸のビーナスである。
その全身を無言でじろじろ眺めると、やがて感心したように、堂神がつぶやいた。
「ほう、珍しい。おまえ、マルデックの者だな」
「は?」
あずみが豆鉄砲を食らった鳩みたいに目を丸くする。
「先ほどの左京との戦いぶり、とくと見せてもらったよ。妙に強いお嬢さんだと感心したのだが…そうか、そういうことだったのか」
なんだかひとりでしきりに納得しているようだ。
「マルデックって、まさか…」
光が口を開きかけた時である。
堂神がすっと立ち上がった。
「ああ、よく食った。では、私はいったん退却する。後は好きにするがいい。もっとも、おまえたちとは、またどこかで会う気がしてならんがな」
にやりと笑った、その瞬間だった。
ばさり。
堂神の背に、大きな黒い翼が現れた。
皮膜に覆われた、コウモリか翼手竜のそれを思わせる、横に長い翼である。
その翼を力強く打ち振ると、宙に浮いた。
「な、なにい?」
一平がひっくり返りそうになり、僕の腕をつかんできた。
堂神がテーブルを蹴り、飛んだ。
翼を翻し、漆黒の一陣の風となって、一気にフロアを飛び抜けた。
窓ガラスが粉微塵に割れた。
あっと思った時にはすでに、外の闇の中にその姿は消えていた。
「な、何だよ? 今の」
一平が呻いた。
信じられないといった顔をしている。
「悪魔だね」
光がつぶやいた。
いつものクールな口調だった。
「あいつ、人間じゃなかったんだ」
悪魔だって?
僕は目を剥いた。
なるほど、言われてみれば、飛び去っていった堂神の姿は、蝙蝠の翼を持つ悪魔に似ていた。
しかし、ゾンビの次は悪魔だなんて、この那古野市はいったいどうなってしまったのだろう?
考えても、僕などにわかるはずがなかった。
「まあ、とにかく一件落着だな」
気分を変えてそう口に出すと、
「うん」
割れたガラス窓の向こうに広がる外の暗闇を見つめて、あずみがうなずいた。
「決着はつかなかったけどね」
「え? じゃ、約束はどうなるんだ?」
一平が顔色を変えた。
「お・あ・ず・け」
あずみが笑った。
「こんなんじゃ、まだまだあずみのおっぱいには、触れないよ」
「えええええ~!」
泡を吹き、目玉を裏返して、一平が気を失った。
ぼくは呆れた。
相変わらず、おおげさなやつだ。
そう思ったのだ。
竜司の援護射撃を失った黄道会のヤクザたちは、勢いを盛り返したゾンビの群れに取り囲まれて完全に浮足立ってしまっていた。
ゾンビ30匹に対して残りのヤクザは10人ほど。
すでに勝敗は決しつつあるといってよかった。
幹部を倒せば烏合の衆と化す。
光のその予言通りに、弾がなくなるまでやみくもに拳銃を撃ちまくるだけである。
そんな地獄絵図が足元に展開されているというのに、一平はなにやらニヤついている。
「何にやにやしてんだよ」
訊くと、
「決まってるじゃんか。アキラもほんとはうれしいんだろ? だっておっぱいが近いんだぜ」
即座に小学生らしからぬ返事が返ってきた。
「喜ぶのはまだ早い」
光がそんな弟の頭を5本の指で掴み、髪の毛をわしゃわしゃかきまぜた。
「ボスが残ってる」
「後は冴えないおっさんひとりじゃん。おいらだけでも勝てるさ」
確かに残る組長の堂神仁は、写真で見た限り、単なる悪相の中年男である。
だが、組長というからには、ふつうの人間にない何かをその身に備えているはずだった。
油断していい相手ではない。
ガラスの割れた窓から中を覗いてみる。
ガラガラの店内に人影はない。
「行きます」
あずみがフードコートの自動ドアの前に立った。
ドアが開き、中に一歩足を踏み入れると、うどんつゆのいい匂いが漂ってきた。
「あ」
あずみが小さく声を上げた。
「あそこ」
入口から死角になっているフロアの片隅。
テーブルの前の椅子にスーツ姿の小男がひとり腰かけて、どんぶりからうどんをすすっている。
見たところ、丸腰のようだった。
周りを護衛する用心棒たちの姿もない。
僕らはテーブルに歩み寄ると、男を取り囲んだ。
「何してんだ? おっさん」
一平が無遠慮にたずねた。
男がどんぶりから顔を上げた。
神社の狛犬にそっくりの顔。
ぎょろりとした目。
人相からして、間違いなく目当ての堂神仁である。
「おまえらか。貴重な夕食の時間を邪魔しやがったのは」
堂神が、不機嫌そうな口調で言った。
「うどんぐらい、静かに食わせろ」
僕は左京が4階の和食屋から姿を現したのを思い出した。
幹部3人は、食事の最中だったというわけか。
「すぐに静かになるさ。それよりおっさん観念しな。ここはもう、おいらたちがもらったも同然だぜ」
すごむ一平に、
「そのようだな」
あっさりと、堂神が答えた。
「ゾンビを使うとは、なかなか考えたな。この那古野に、まだそのような覇気のある人間が残っていたとは驚きだ」
「ま、あずみは半分ゾンビなんだけどな」
組長の思いがけぬ気さくな一面に触れたせいか、一平がそんな余計なことを口にした。
「あずみというのは、おまえのことか?」
堂神のぎょろ目があずみを見た。
セーラー服の前を断ち切られたあずみは、さながら半裸のビーナスである。
その全身を無言でじろじろ眺めると、やがて感心したように、堂神がつぶやいた。
「ほう、珍しい。おまえ、マルデックの者だな」
「は?」
あずみが豆鉄砲を食らった鳩みたいに目を丸くする。
「先ほどの左京との戦いぶり、とくと見せてもらったよ。妙に強いお嬢さんだと感心したのだが…そうか、そういうことだったのか」
なんだかひとりでしきりに納得しているようだ。
「マルデックって、まさか…」
光が口を開きかけた時である。
堂神がすっと立ち上がった。
「ああ、よく食った。では、私はいったん退却する。後は好きにするがいい。もっとも、おまえたちとは、またどこかで会う気がしてならんがな」
にやりと笑った、その瞬間だった。
ばさり。
堂神の背に、大きな黒い翼が現れた。
皮膜に覆われた、コウモリか翼手竜のそれを思わせる、横に長い翼である。
その翼を力強く打ち振ると、宙に浮いた。
「な、なにい?」
一平がひっくり返りそうになり、僕の腕をつかんできた。
堂神がテーブルを蹴り、飛んだ。
翼を翻し、漆黒の一陣の風となって、一気にフロアを飛び抜けた。
窓ガラスが粉微塵に割れた。
あっと思った時にはすでに、外の闇の中にその姿は消えていた。
「な、何だよ? 今の」
一平が呻いた。
信じられないといった顔をしている。
「悪魔だね」
光がつぶやいた。
いつものクールな口調だった。
「あいつ、人間じゃなかったんだ」
悪魔だって?
僕は目を剥いた。
なるほど、言われてみれば、飛び去っていった堂神の姿は、蝙蝠の翼を持つ悪魔に似ていた。
しかし、ゾンビの次は悪魔だなんて、この那古野市はいったいどうなってしまったのだろう?
考えても、僕などにわかるはずがなかった。
「まあ、とにかく一件落着だな」
気分を変えてそう口に出すと、
「うん」
割れたガラス窓の向こうに広がる外の暗闇を見つめて、あずみがうなずいた。
「決着はつかなかったけどね」
「え? じゃ、約束はどうなるんだ?」
一平が顔色を変えた。
「お・あ・ず・け」
あずみが笑った。
「こんなんじゃ、まだまだあずみのおっぱいには、触れないよ」
「えええええ~!」
泡を吹き、目玉を裏返して、一平が気を失った。
ぼくは呆れた。
相変わらず、おおげさなやつだ。
そう思ったのだ。
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