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第3章 イオン奪還
action 12 光明
『これは、人間の脳に入り込み、脳死状態を惹起させ、その後神経系統をのっとるタイプのパラサイト生物だ。宿主は一度死んで蘇生するから、”リボーン”というわけだな。現在ゾンビ化している人間の9割以上はこのリボーンに寄生されている。だから、痛覚や恐怖心がなく、攻撃本能が前面に現われていること以外は、能力的にはそれほど人間と変わるところはない。知能は低くなっているから、慎重に対処すれば倒すことはた易いはずだ。ただ、リボーンは最も繁殖力が強く、動物にも寄生するようだから、その点には注意が必要かもしれない。
やっかいなのは、次の”リサイクル”だ。この線虫は、一度寄生すると、宿主のDNAを操作し、タンパク質を総動員して、肉体を作り変えてしまう。その際、ランダムでDNAを選ぶため、寄生されてしまった人間は、何に変身するかわからない。人間のDNAにはこれまで進化してきた生命系統のすべての情報が詰まっているから、それこそ爬虫類や鳥類の形質が発現する可能性もあるわけだ。ただ、ごく希少なケースだが、中には未知のDNAの発現により、ホモ・サピエンスをアップデートした”存在”へと変化する例もあると聞いている。察するに、今これを読んでいる出雲あずみ君は、変化が極めて緩慢なこと、外観がほとんど変わらず身体能力だけが異様に進化していることなどから考慮して、リサイクル線虫の寄生によるその稀なケースなのではないかと思う』
「こいつ、どこかで俺たちのこと、監視しているのか?」
僕はぞっとなった。
なぜあずみのことを、そんなに詳しく知っている?
前回あずみが送ったメールには、そんなに詳しい状況は書いてなかったはずなのだ。
「だから、あずみたちがイオンに着いたことを、メール読んだだけであっさり認めたのかもしれないね。嘘かも知れないのに、まるで疑う様子がないもの」
「それはいいけど、これ、当たってる気がするな。未知のDNAを操作して、肉体をアップグレードするってやつ。あずみの身体には、スーパーヒーローの血でも流れてるのかも。よかったよな、ブタやカバのDNAが発現しなくてさ」
「ああ、まったくだ」
僕は一平の指摘にうなずいた。
なんにせよ、以前と比べ、あずみは外観も頭の中身もほとんど変わっていないのだ。
異常なくらい強くなっているだけなのである。
そのことには、まず感謝せねばならなかった。
「それでも、あずみはやっぱり嫌」
あずみがゆるゆると首を横に振る。
「別に強くなくてもいいよ。普通の女の子に戻りたい。戻って、お兄ちゃんと…」
「なんかもったいない気がするけどなー」
と、これは一平だ。
「そのまんまでいいじゃん。別に強いのは悪いことじゃないだろ? こんな世界だからこそ、色々役に立つこともあるわけだしさ。顔は可愛いし、おっぱいもお尻も申し分ないし、どこにも問題ないと思うけど」
「でも、この先どうなるかわかんないんだよ。今はあまり変わって見えないかもしれないけど、時間が経つうちに、あずみの身体、怪物みたいになっちゃうかもしれない。ううん、今だってもう、立派な怪物だと思う。林檎を片手で潰せる女の子なんて、誰が好きになると思う? 棒高跳びの棒もないのに、10メートルもジャンプする女の子なんて、本来あり得ないでしょ?」
「俺は…そんなあずみが、好きなんだけどな」
一平が、珍しくしおらしい口調でつぶやいた。
あずみの膝の上で尻をもぞもぞさせているさまは、まるで小さな子供のようだ。
「ありがとう」
真顔であずみが言った。
「でも、あずみの好きな人は、そうじゃないかもしれないの。そのうち、心変わりしちゃうかも」
ちらっと僕を横目で見て、そうつぶやいた。
「今はあずみしかいないから、まだいいけど、そのうち、目の前にちゃんとした人間の女の子が現れたら、きっと…」
ああ、まだ言ってる。
僕は頭を抱えたくなった。
そんなことないって、この前話したのに。
おそらくあずみのこの不安は、これからもずっと消えることはないのだろう。
それこそ、身体が本当に元通りにならない限り…。
眼をスマホに戻すと、ケロヨンからの長いメッセージが新たに更新されていた。
『そして、最後に”リバース”だ。実はこのタイプの線虫は、まだ外部に流出していない。これは私の想像だが、おそらくこの3番目の線虫だけは、このゾンビ化現象を収束するために、何者かが人工的に開発した生物だからだ。そのため、個体数が少なく、リサイクルより更に繁殖力が弱い。名前から推測可能だと思うが、このリバースは、他の線虫に寄生された宿主の肉体を元に戻す。やはりDNAを操作することによって、壊れたり変質してしまったりした形質を元通りに修復するというわけだ。つまりあずみ君、君が求めるゾンビ化を阻止する特効薬に当たるのが、このリバース線虫だ。元の人間に戻りたいなら、君はリバースを手に入れ、自分の脳に寄生させればそれでよいというわけさ』
隣であずみが息を呑むのが分かった。
吸い寄せられるように、スマホの画面を聴視している。
「ああ…」
うめいた。
「お兄ちゃん…」
右手を伸ばし、僕の手をぎゅっとつかんでくる。
「これだよ。これ」
見ると、頬を涙が伝っていた。
「あずみ、元に戻れる。あったんだ…ハーフゾンビから、元の人間に戻る、方法が…」
やっかいなのは、次の”リサイクル”だ。この線虫は、一度寄生すると、宿主のDNAを操作し、タンパク質を総動員して、肉体を作り変えてしまう。その際、ランダムでDNAを選ぶため、寄生されてしまった人間は、何に変身するかわからない。人間のDNAにはこれまで進化してきた生命系統のすべての情報が詰まっているから、それこそ爬虫類や鳥類の形質が発現する可能性もあるわけだ。ただ、ごく希少なケースだが、中には未知のDNAの発現により、ホモ・サピエンスをアップデートした”存在”へと変化する例もあると聞いている。察するに、今これを読んでいる出雲あずみ君は、変化が極めて緩慢なこと、外観がほとんど変わらず身体能力だけが異様に進化していることなどから考慮して、リサイクル線虫の寄生によるその稀なケースなのではないかと思う』
「こいつ、どこかで俺たちのこと、監視しているのか?」
僕はぞっとなった。
なぜあずみのことを、そんなに詳しく知っている?
前回あずみが送ったメールには、そんなに詳しい状況は書いてなかったはずなのだ。
「だから、あずみたちがイオンに着いたことを、メール読んだだけであっさり認めたのかもしれないね。嘘かも知れないのに、まるで疑う様子がないもの」
「それはいいけど、これ、当たってる気がするな。未知のDNAを操作して、肉体をアップグレードするってやつ。あずみの身体には、スーパーヒーローの血でも流れてるのかも。よかったよな、ブタやカバのDNAが発現しなくてさ」
「ああ、まったくだ」
僕は一平の指摘にうなずいた。
なんにせよ、以前と比べ、あずみは外観も頭の中身もほとんど変わっていないのだ。
異常なくらい強くなっているだけなのである。
そのことには、まず感謝せねばならなかった。
「それでも、あずみはやっぱり嫌」
あずみがゆるゆると首を横に振る。
「別に強くなくてもいいよ。普通の女の子に戻りたい。戻って、お兄ちゃんと…」
「なんかもったいない気がするけどなー」
と、これは一平だ。
「そのまんまでいいじゃん。別に強いのは悪いことじゃないだろ? こんな世界だからこそ、色々役に立つこともあるわけだしさ。顔は可愛いし、おっぱいもお尻も申し分ないし、どこにも問題ないと思うけど」
「でも、この先どうなるかわかんないんだよ。今はあまり変わって見えないかもしれないけど、時間が経つうちに、あずみの身体、怪物みたいになっちゃうかもしれない。ううん、今だってもう、立派な怪物だと思う。林檎を片手で潰せる女の子なんて、誰が好きになると思う? 棒高跳びの棒もないのに、10メートルもジャンプする女の子なんて、本来あり得ないでしょ?」
「俺は…そんなあずみが、好きなんだけどな」
一平が、珍しくしおらしい口調でつぶやいた。
あずみの膝の上で尻をもぞもぞさせているさまは、まるで小さな子供のようだ。
「ありがとう」
真顔であずみが言った。
「でも、あずみの好きな人は、そうじゃないかもしれないの。そのうち、心変わりしちゃうかも」
ちらっと僕を横目で見て、そうつぶやいた。
「今はあずみしかいないから、まだいいけど、そのうち、目の前にちゃんとした人間の女の子が現れたら、きっと…」
ああ、まだ言ってる。
僕は頭を抱えたくなった。
そんなことないって、この前話したのに。
おそらくあずみのこの不安は、これからもずっと消えることはないのだろう。
それこそ、身体が本当に元通りにならない限り…。
眼をスマホに戻すと、ケロヨンからの長いメッセージが新たに更新されていた。
『そして、最後に”リバース”だ。実はこのタイプの線虫は、まだ外部に流出していない。これは私の想像だが、おそらくこの3番目の線虫だけは、このゾンビ化現象を収束するために、何者かが人工的に開発した生物だからだ。そのため、個体数が少なく、リサイクルより更に繁殖力が弱い。名前から推測可能だと思うが、このリバースは、他の線虫に寄生された宿主の肉体を元に戻す。やはりDNAを操作することによって、壊れたり変質してしまったりした形質を元通りに修復するというわけだ。つまりあずみ君、君が求めるゾンビ化を阻止する特効薬に当たるのが、このリバース線虫だ。元の人間に戻りたいなら、君はリバースを手に入れ、自分の脳に寄生させればそれでよいというわけさ』
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