ゾンビになった妹を救うため、終末世界で明日に向かってゴールをめざす

戸影絵麻

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第3章 イオン奪還

action 15 実演

 光が指定した5分後。

 僕らは駐車場との境の自動ドアの前に立っていた。

「いったい、何が始まるんで?」

 ヤスオは明らかにびびっていた。

 焦点の定まらない眼をキョロキョロさせて、かわるがわる僕らを見つめている。

「あたしらが不在の間に裏切ったら、どうなるかってことを、あんたに思い知らせてあげるのよ」

 光が言って、ゾンビよけのために電源の切ってある自動ドアを、手動で引き開けた。

 目の前に広がるのは、非常灯に照らし出された薄暗い駐車場。

 奥の暗がりで、何かが蠢いている。

 両手を脇にだらりと下げて、ふらふらと現れたのはゾンビたちだ。

 店内から追い出した生き残りの10匹である。

「じゃ、行こうか。みんな、いい? 手加減は無用。相手はすでに人間じゃない。ゾンビなの。害虫駆除のつもりで当たるんだよ。では、まず、アキラ君から」

「え? いきなり?」

 僕は面食らった。

「彼の武器はM19。極道なら知ってるでしょうけど、弾はマグナムよ」

 そんなふうに紹介されちゃあ、後に引けないじゃないか。

 一歩前へ出て、脚を肩幅より心持ち広めに開く。

 両手で銃を支え、腕をまっすぐに伸ばす。

 ゾンビたちは横一列になって歩いてくる。

 脳死状態で知恵が働かないので、これが銃だということがわからないのだろう。

 真ん中のやつに狙いを定め、反動に備え、銃身を少し下に向けて、トリガーを引いた。

 銃声がこだまして、狙ったゾンビの隣のゾンビの顏が半分吹っ飛んだ。

 やった!

 飛び上がりたい気分だった。

 狙いはちょっと逸れたけど、とりあえず当たったのだ。

「いい腕ね。よし、次、一平」

「アイサー」

 一平が飛び出した。

 手製のレールガンを構えている。

「一平の武器は、あの自家製レールガン。玩具じゃない証拠を見せてあげるわ」

 光の前振りとともに、

「きやがれ! 馬鹿ゾンビ!」

 一平は用もないのに一回転して転がると、立ち上がりざま撃った。

 ギュイイイイイン!

 高速回転する鉄の独楽が、向かって左端のゾンビふたりの喉をかき切った。

「ぐは、なんだその武器は?」

 のけぞるヤスオに、光が言った。

「驚くのはまだ早いよ。じゃ、あずみちゃん、お願い」

 小さくうなずいて、あずみが進み出る。

 残るゾンビは7匹だ。

「あずみちゃんの武器は、その驚異的な身体能力と、ポールダンス。まさに殺戮の天使だよ」

 軽く足踏みしたかと思うと、ダッとあずみが駆け出した。

 ゾンビの手前でジャンプして、1匹目を膝蹴りで倒した。

 空中で腰を反転させ、即座に伸ばした足でもう1匹の首をへし折った。

 着地と同時に右腕を素早く旋回させ、手の甲に装備したナックルで3匹目の顔面を粉砕する。

 襲いかかってくる4匹目を腰を沈めてかわし、起き上がりざま目の覚めるようなアッパーカットを叩き込む。

 ここで初めて左手に持ったポールを伸ばすと、床に突き立て再び宙に舞った。

 遠心力を利用した強烈な連続蹴りが、更に2体のゾンビを葬り去った。

「う、うそだろ…クソつええ」

 ヤスオはすでに涙目になってしまっている。

「ありがとう。もういいわ。あたしの出番がなくなっちゃう」

 戻ってきたあずみとタッチを交わし、光が歩み出た。

「あたしの武器はこれ。ナノカーボン仕様の特製ヨーヨー」

 右手に握ったヨーヨーを、残る1匹に向かって無造作に放り投げる。

 シュンシュンシュン。

 見えない糸がゾンビの身体を絡め取ったところで、光がツイと手首を引いた。

 次の瞬間、まるで達磨落としのように、どす黒い血しぶきを上げて分断されたゾンビが床に散らばった。

「か、堪忍して…」

 ヤスオがすすり泣いた。

「お、おれっち、あねさんたちの、奴隷にでも何にでもなりますから! い、命だけは!」


 改心したヤスオに1階と屋上の割れたガラス扉の応急処置を命じると、僕らを集めて光が言った。

「全部が全部、この手のゾンビなら楽勝なんだけど、この先はきっとそうはいかない」

「まずは動物園」

 僕は口を挟んだ。

「同じリボーンゾンビでも、たとえばライオンみたいな大型肉食獣がゾンビ化してたら、これはかなりやばい」

「そうだね。それから、気になるのはリサイクル。あたし、組長はリサイクルゾンビだったんじゃないかと思うの」

「え? それ…どういうことですか?」

 あずみが息を呑んだ。

「リサイクル線虫は、ランダムにDNA情報を選択して肉体を改造する。だとしたら、彼こそ悪魔のDNAの発現者ではないかしら」

「かつて、地球に、悪魔が実在した…ってことですか?」

「そう。その可能性は十分あるんじゃないかしら。そして、もしかしたら、それこそがこの一連の事件の謎を解く鍵なのかも」

 堂神仁が悪魔なら、このあずみは何なのだろう?

 僕はちらっと横目で隣に佇むあずみを見た。

 目が合った。

 不安そうに揺れる大きな瞳が、僕に何かを訴えている。

「ま、今ここで悩んでも仕方ないんだけどね」

 光はひとつため息をつくと、気分を変えるようにこう言った。

「じゃあ、遅くなっちゃったけど、夕食にしようか。出発は明日朝8時。思い立ったら何事も早いほうがいいもんね」

「そうこなくっちゃ!」

 一平がはしゃいだ声を上げる。

「きょうは最後の晩餐だ。みんな好きなもの、たらふく食おうぜ!」




 


 





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