ゾンビになった妹を救うため、終末世界で明日に向かってゴールをめざす

戸影絵麻

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第4章 魔獣地帯

action 3 歓迎

 それから先は何事もなく、緩やかな坂を上り切って、車は双子山の頂上に到着した。

 道の両側は鬱蒼たる森。

 正面には有刺鉄線の絡みついた鉄格子の門。

 ここは正規の出入口ではなく、業者専用の通用門なのだ。

 門の向こうには開けた敷地が広がっていて、はるか彼方に遊園地の観覧車と、この動物園のシンボルである鉛筆型の塔が見える。

 あの遊園地を突っ切ったところが、正面玄関、すなわち僕らにとっての出口になるはずだった。

「どうする? 閉まってるみたいだけど、このまま突っ込むか?」

 ハンドルを握ったまま、一平が訊く。

「ダメ。映画じゃないんだから、そんなことしたら、エンジンをやられるのがオチさ。誰かが降りて開けに行くしかないね」

 一平の提案を、助手席の光が突っぱねた。

「あたしのヨーヨー、金属にはさすがに効果ないから、あずみちゃん、お願いできるかな」

「任せてください」

 僕の隣であずみがうなずいた。

「あ、ちょっと待って。変なもんが見える」

 サイドブレーキをかけ、一平が門のほうを指さした。

「ほら、門の上。なんかずらっと並んでるだろ。あれってさ、ひょっとして…」

 僕は目を凝らした。

 初め、門の意匠かと思ったその丸いものは、よく見るとそうではなかった。

「げげっ」

 一平が踏まれた蛙みたいな声を出す。

 無理もなかった。

 鉄の門扉の上。

 尖った鉄柵の縦棒の先に突き刺さっているのは、人間の干し首なのだ。

 干し首は全部で5つ。

 半ば開いた口から乾いた舌を突き出し、恨めしげに宙を睨んでいる。

 髪の毛の長いのは女性のものだろうか。

 おそらくこの動物園の飼育係の首に違いない。

「ひどい…誰がこんな、ひどいことを…」

 口を両手で覆って、あずみがひとりごちた。

「たぶん、あの子たちの仕業じゃないかな」

 前方を見据えて、光が言った。

 門の向こうから、何かが近づいてくる。

 黒や茶色の毛皮に包まれた人型の生き物たち。

「おさるさん…?」

 あずみがつぶやいた。

 その通りだった。

 それは猿の群れだった。

 総勢約20匹。

 ニホンザルもいれば、チンパンジーやオラウータンもいる。

 最後尾からのしのし歩いてくるのは、まぎれもなくゴリラである。

「そんな可愛いものじゃないみたいだよ」

 光がうんざりしたように言う。

「ゾンビの眼だ」

 一平の声は震えていた。

 僕も同じ気分だった。

 ゾンビ化した猿の群れ。

 人間のゾンビより、やばそうだ。

「あずみ、行きます」

 あずみがドアを開け、するりと外に滑り出た。

 止める暇もなかった。

 黒いセーラー服っぽいコスチュームと超ミニ丈のフレアスカートが、折からの風になびく。

 鉄扉の前に立つと、声なき気合いを発して強烈な前蹴りを放った。

 ぐわんと鉄の扉がたわみ、閂棒がへし折れた。

 はずれかかった扉を全開にして、あずみが園内に足を踏み入れた。

 そのあずみを遠巻きにして見守るゾンビ猿の一団。

 鳴き声ひとつ立てないのが、かえって不気味だった。

「お、俺も行く」

 じっとしていられなかった。

 僕はドアに手をかけた。

「やめなさい」

 光が鋭く制止した。

「あずみちゃんに任せるの」

 そのひと言を合図にしたかのように、あずみが動いた。
 



 

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